サルコぺニアをご存じだろうか? 厚生労働省のe-ヘルスネットでは「筋肉の量が減少していく老化現象」と紹介されている。同サイトによると、サルコぺニアは「25~30歳頃から進行が始まり生涯を通して進行」する現象で、筋線維数と筋横断面積の減少が同時に進むとされている。主に不活動が原因と考えられているが、そのメカニズムは完全には判明していない。
そうした中で注目されるのは、2022年9月20日に静岡県⽴⼤学 ⾷品栄養科学部と、健康食品・化粧品の通信販売や受託開発製造OEMを行うノルデステが、加齢による「筋肉量減少」ならびに「生活習慣病」に対するNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の効果とそのメカニズムの解明を目指す共同研究を実施すると発表したことだ。
サルコペニアと肥満。医学的・社会的な課題に挑む
NMNはリボースとニコチンアミドに由来するヌクレオチドのこと。ヒトの体内に入ると補酵素NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に変換され、「長寿遺伝子」と呼ばれるサーチュインを活性化することがマウスによる研究で判明している。
今回、ノルデステがリリースした情報によると、加齢に伴い筋肉が減少すると、運動能力が低下するだけでなく、さまざまな病気にかかりやすくなり、寿命の短縮につながることが最近の研究により明らかになってきたという。先に述べた通り、加齢に伴う筋⾁量の減少と運動能力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、高齢化が進むわが国において大きな課題となりつつある。しかしながら、サルコペニアのメカニズムについては不明な点が多く、有効な予防法や治療法も確立されていない。
一方で、世界的に増加傾向にある肥満も、医学的・社会的な課題といえる。肥満とは、体脂肪量が増加した状態であるが、肥満の脂肪組織においては量だけでなく質の変化が生じることも示されている。そしてこのような脂肪組織の量と質の変化が糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の原因と考えられているが、その詳しいメカニズムについても不明である。
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指して
静岡県⽴⼤学 ⾷品栄養科学部の細岡哲也准教授と伊美友紀⼦助教は、加齢による筋⾁量減少のメカニズムに関する研究を通して、⾼齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に寄与する研究に取り組んでいる。同時に、肥満の脂肪組織において認められる変化に着目し、肥満が原因となる糖尿病などの生活習慣病に対する新しい治療法・予防法の開発を目標とした研究を進めている。
今回公表したノルデステとの共同研究は、筋肉量減少ならびに生活習慣病に対するNMNの効果とそのメカニズムを解明し、⾼齢者のQOL向上に寄与することを目指すものである。
日本語では生活の質と訳され、生活の満足度や生きがいを意味する。高齢者では健康を保ち、自立して日常生活を送ることもQOLの維持に関係する。
NMNはどのような効果を発揮するのか?
細岡准教授らは、筋肉の培養細胞をNMNで処理すると、筋肉の構成タンパクが増加し、筋肉細胞のサイズが増加することを見出した。今回、ノルデステと実施する共同研究では、筋肉量が減少した高齢マウスにNMNを投与し、筋肉量や筋力に対するNMNの効果を検証し、そのメカニズムの解明を目指す。
同時に細岡准教授らは、NMNが脂肪の培養細胞において、脂肪の量と質の両方の変化をもたらす可能性のあるタンパクの量を変化させることを見出した。そこで、今回の共同研究では、肥満マウスの脂肪組織において認められる量と質の異常に対するNMNの効果を検証するとともに、脂肪組織の量と質の変化が糖尿病などの生活習慣病を改善させるかどうか検討する。
静岡県⽴⼤学 ⾷品栄養科学部とノルデステの共同研究は、⾼齢者のQOL向上と生活習慣病改善に大きく貢献する可能性を秘めている。それだけに研究成果が待たれるところだ。■
(La Caprese 編集部)
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