口は「食べる」「話す」「表情を作る」などさまざまな機能を有している。その中でも「食べる」ことは、栄養摂取などの生命維持に重要な役割を果たすとともに、食事を楽しむなど、人々の豊かな生活に欠かすことのできない機能である。また、近年、高齢者の口腔機能と身体機能の調査研究において、オーラルフレイル(お口のささいな衰え)という概念が提唱されている。オーラルフレイルの状態を放置すると、4年後のフレイル、サルコペニア、要介護リスクがそれぞれ約2倍となることが報告(※1)されている。
こうした中で注目されるのは、大手菓子メーカーのロッテ(本社:東京都新宿区)が、生活者の咀嚼能力をチェックする「キシリトール咀嚼チェックガム」(歯科医院専用商品、発売元:オーラルケア)の結果をスマートフォンやタブレットで正確かつ客観的に評価することが可能な「咀嚼チェックアプリ」の運用を2023年2月8日からスタートしたことだ。「キシリトール咀嚼チェックガム」にはアプリの二次元コードが記載された測定用台紙が同封(2月8日以降の購入分から)されている。この測定用台紙を使って「咀嚼チェックアプリ」で評価する仕組みである。
人生100年時代のウェルビーイングな生活を実現するために
2022年6月7日に閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針2022』(いわゆる「骨太の方針2022」)において、全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実などが示されたことは記憶に新しい。このような状況下、口腔機能維持の重要性に対する認識が高まっている。また、食文化の変化から軟食化が進むことで噛む回数が減る「噛む離れ」が進んでいると言われており、さまざまな世代における咀嚼能力の低下について専門家が警鐘をならしている。
こうした中、ロッテは「食べる」機能維持の一助として、義歯の製作などの歯科診療や保健指導の際に手軽に咀嚼状態をチェックすることが可能なツール「キシリトール咀嚼チェックガム」を開発し、2004年より歯科医院専用商品として販売してきた。「キシリトール咀嚼チェックガム」を使用した咀嚼能力の評価は、噛み終わったガムの色を(1)「専用の機器による色彩の測定」(2)「カラーチャートを目視で比較する」の2つの方法があり、一般的に使用される目視による評価は、評価者の主観が大きく影響し、評価結果にバラつきが発生するため、手軽で客観的な評価が可能な技術の開発が求められていた。
そこで、「キシリトール咀嚼チェックガム」の開発に関わった東京医科歯科大学高齢者歯科学分野の監修のもと、スマートフォンなどのカメラで簡単に咀嚼能力を確認できる評価手法を、AI(人工知能)による画像・データ分析に強みを持つAIoTクラウド(東京都江東区)と共同で開発し、「咀嚼チェックアプリ」として運用をスタートした。
ロッテは、「キシリトール咀嚼チェックガム」と「咀嚼チェックアプリ」が、咀嚼に対する関心をもつきっかけとなり、日常生活から噛むトレーニングを取り入れることで、人生100年時代のウェルビーイングな生活に引き続き貢献する方針である。
東京医科歯科大学高齢者歯科学分野 水口俊介教授のお話
日本人の平均寿命は年々延伸し、人生100年時代などと言われています。しかし単に長生きするのが良いわけではなく、健康で活力を保ったまま年を取る、いわゆる健康寿命を延ばすことが必要です。そのためには噛む力を衰えさせず適切に栄養を補給し、フレイル(虚弱)に陥ることを防ぐことが大事です。これがオーラルフレイル予防の理念です。
オーラルフレイルは、社会活動が低下し、精神的に落ち込んだ状態になり、口の健康に注意を払わなくなり、むし歯や歯周病で歯が抜けて噛めなくなり、栄養状態不良に落ちていく状態です。オーラルフレイルを予防するためには毎日の歯磨きに加え、歯科医院において定期的に口腔疾患や咀嚼能力のチェックを受けることが重要です。咀嚼能力は、歯の数だけではなく、顎の関節や筋肉などさまざまな部位の影響を受けるため、総体的にかつ簡便に評価する手法として、咀嚼チェックアプリは今後重要な役割を担うことができると考えております。また、咀嚼能力が及ぼす健康に対する影響について研究を進めるためにも有用な手段であり、研究活動がますます盛んに行われることを期待しています。■
(La Caprese 編集部)