「人間の肌が『香り』によって、美しく健やかな状態に導かれる」――近い将来、そんなことが実現するかもしれない。
2022年10月20日、大手化粧品メーカーの資生堂 <4911> はドイツの皮膚・毛髪科学研究機関のモナステリウム研究所との共同研究により、触覚を担うメルケル細胞に香り受容体が発現していることを発見したと発表した。この発見で、サンダルウッド様の香りを持つ「香り成分」により香り受容体が活性化することを、ヒト皮膚培養系を用いた実験により証明した。同時に、今回の研究で「加齢とともにメルケル細胞が減少する」ことも確認した。
資生堂は先行研究において、メルケル細胞と接続して「触覚を脳に伝える神経線維」が肌のハリやたるみに関連する真皮の構造維持に関与していることも確認しており、このことからも「メルケル細胞は肌の老化に影響していると考えられる」と考察している。
注目されるのは今回の研究成果により、人間の肌に直接触れることなく、「香り」によって美しく健やかな状態に導かれる可能性がでてきたことだ。今回は資生堂の研究成果を紹介したい。
肌由来の「幸せホルモン」オキシトシンが表皮の再生を促す
資生堂はかねてより「神経と肌の関係性」についての研究に取り組んできた。
2019年には、真皮深層を含む肌奥深くの神経線維を3次元で可視化する独自技術を確立し、肌に存在する神経線維が加齢とともに減少すること、そして感覚神経細胞から放出される成分が「肌の弾力に関わる線維芽細胞のコラーゲン産生を促す」ことを明らかにしている。
また、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンについては、一般的に知られる脳由来のものだけでなく、肌由来のオキシトシンが存在することも発見している。さらに資生堂は2021年に「肌由来オキシトシンが表皮の再生を促す」との研究成果を発表している。
触覚を担うメルケル細胞が香りを受容し、その活性化により「肌を若々しく保つ」
資生堂は今回のモナステリウム研究所との共同研究において、まず「触覚を担うメルケル細胞」のヒト頬における存在状態や分布について「年齢による違いがあるのかどうか」調査を行った。その結果、メルケル細胞も神経線維と同様に「加齢により顕著に減少する」ことが判明した(図2、図3)。
興味深いのは、これまで皮膚で触覚を担う細胞として考えられてきたメルケル細胞に、香り受容体が発現していることを確認したことだ(図4)。さらに、「メルケル細胞で発現していた香り受容体に結合する」ことが知られているサンダルウッド様の香り成分を含む溶液にヒト皮膚組織を浸して刺激すると、メルケル細胞が反応することをリアルタイムで示すことにも成功している(図5)。
ちなみに、サンダルウッド様の香り成分で刺激したメルケル細胞からは「NGF(Nerve growth factor 神経成長因子)」が放出されることも確認している。NGFはその受容体を持つ表皮細胞や線維芽細胞、神経線維等を通して皮膚を健康に保つことで知られており、触覚を担うメルケル細胞が香りを受容し、さらにその活性化により「肌を若々しく保つ」可能性が新たに示されたのである。
資生堂、新たなアンチエイジングの道に光
資生堂によると、メルケル細胞が発見されてから今年でおよそ150年になるという。新型コロナウイルス感染症の流行などにより「人と人との触れ合い」が減る昨今、人間の肌に直接触れること以外で、触覚に関わる細胞や神経を活性化し美肌へアプローチする可能性を見出せたことは、新たなアンンチエイジングの道に光を当てたといえるだろう。
資生堂のさらなる研究成果が待たれるところだ。■
(La Caprese 編集部)