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まつ毛は痛むとどうなるの? まつ毛を上向きにカールさせる美容習慣によるダメージ現象を解明――コーセーとミルボンの研究成果

まつ毛,痛むとどうなる
(画像= Canva、La Caprese)

まつ毛は目元の印象を大きく左右することから、長く、太く見せる需要は高く、まつ毛専用の美容液等が多く上市されている。また、まつ毛を上向きにカールさせるためにアイラッシュカーラー(※1)を用いてまつ毛を物理的に変形させる化粧法が一般化しており、化学的処理(※2)によってまつ毛をカールセットする手法も存在している。

ただ、上記の美容習慣は少なからずまつ毛に負担をかけることが予想されるものの、詳細な研究はあまり行われていないのが実情であった。

そうした中で注目されるのが、コーセー(本社:東京都中央区)とミルボン(本社:東京都中央区)の共同研究である。2023年12月22日に公表された研究成果では、❶まつ毛を上向きにカールさせるための物理的・化学的手法が、まつ毛に与えるダメージ現象を解明したほか、❷適切なケアを行うための補修成分の効果を確認したことも明らかになった。

本研究成果について、コーセーは「まつ毛を上向きにカールさせる際のダメージを補修し、長さや太さだけでなく、理想のまつ毛デザインを楽しみ続けられる製品の開発につなげてまいります」との見解を示している。なお、本研究成果は「2023年 繊維学会研究発表会」にて発表している。

本研究の概要は以下の通りである。

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化学的・物理的処理に伴うまつ毛の特性変化とは?

物理的・化学的カールによるキューティクルの損傷を確認

まず本研究では物理的・化学的にカールさせる手法がまつ毛に与える影響を調べるため、電子顕微鏡での観察を行なった。その結果、繊維形状の変形や表面のキューティクル損傷が見られ、特に化学的カール履歴あり群ではキューティクル損傷が顕著であった(図1)。

まつ毛,痛むとどうなる
(図1)  電子顕微鏡での典型的な観察像 出典:コーセー

化学的カール履歴あり群では、まつ毛のタンパク質が流出していることを確認

次に研究チームは、電子顕微鏡での観察で特に損傷の激しかった化学的カール履歴あり群のまつ毛では、表面のキューティクルだけでなく、まつ毛内部にまで影響が生じているのではないかと考えた。

まつ毛は頭髪と同様、そのほとんどがタンパク質で構成されている。頭髪においては、化学的カール処理によるダメージでタンパク質同士の結合が切れ、その後日々の洗浄によってタンパク質が髪の外に流出してしまうことが知られている。タンパク質の流出は、毛髪繊維の強度低下を招き、髪の弾力やハリコシが失われることにつながる。

今回、まつ毛内部のタンパク質の状態を顕微FT-IR法(※3)によって調べたところ、化学的カール履歴あり群のまつ毛ではタンパク質量が少なくなっていることが分かり、タンパク質がまつ毛の外に流出していることが示された。またその結果について、大型放射光施設SPring-8(※4)のBL43IR(※5)を用いた詳細な可視化を行うことでも確認した(図2)。

まつ毛,痛むとどうなる
(図2)  カール履歴なし群と化学的カール履歴あり群のまつ毛内部のタンパク質分布。タンパク質のアミド結合(※6)に由来するピークの強度を解析した結果、化学的処理による流出が示された。 出典:コーセー

まつ毛に対する補修成分の効果を確認

続いて、内部タンパク質の流出に対応するため補修成分の検討を行なった。化学的処理と洗浄処理を行ったダメージまつ毛に対し、タンパク質の材料であるアミノ酸から作られ浸透性に優れた成分ジラウロイルグルタミン酸リシンNaを1,3-ブチレングリコールと共に作用させたところ、成分がまつ毛の内部にまで浸透したことを示す結果が得られた(図3)。

まつ毛,痛むとどうなる
(図3)  ダメージまつ毛に対して補修成分を作用させた結果、補修成分を作用させたまつ毛ではアミド結合に由来するピークの強度が向上しており、アミド結合を有するジラウロイルグルタミン酸リシンNa等の成分がまつ毛内部に浸透していることが示された。 出典:コーセー

冒頭でも紹介した通り、コーセーは本研究成果について「まつ毛を上向きにカールさせる際のダメージを補修し、長さや太さだけでなく、理想のまつ毛デザインを楽しみ続けられる製品の開発につなげてまいります」との見解を示した。新製品の登場が期待されるところである。■

(La Caprese 編集部)

用語解説

(※1)アイラッシュカーラー
まつ毛を挟み、物理的に変形させる専用の器具のこと。
(※2)化学的処理
専用のクリームを用いてまつ毛をカールセットする手法。一般にまつ毛パーマやまつ毛カールなどと呼称される。なお、日本では医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)に基づき、医薬部外品のパーマネント・ウェーブ用剤や化粧品の洗い流すヘアセット料として販売されている商品を頭髪以外の部位に用いることは認められていない。
(※3)顕微 FT-IR 法
顕微 FT-IR 法とは、顕微フーリエ変換赤外分光(Fourier Transform-Infrared Spectroscopy)法のことで、化合物の構造推定を行う分析手法である。微小領域の分析において有用であり、各種工業製品の品質管理や科学捜査、生物医学領域など、様々な分野において活用されている。
(※4)大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最⾼性能の放射光を⽣み出すことができる理化学研究所の施設。SPring-8の名前は Super Photon ring-8 GeV(80 億電⼦ボルト) に由来。放射光とは、電⼦を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁⽯によって進⾏⽅向を曲げた時に発⽣する強⼒な電磁波のこと。SPring-8 では、この放射光を⽤いてナノテクノロジー・バイオテクノロジー・産業利⽤まで幅広い研究が⾏われている。
(※5) BL43IR
SPring-8において、放射光を用いて実験を行うための設備を「ビームライン」(以下BL)と呼ぶ。BL43IRはBLのうちのひとつであり、 高輝度な赤外光によって、一般的な顕微FT-IRでは達成できない微小領域・微小試料の測定・解析を可能としている。本研究の一部は、(公財)高輝度科学研究センターの産業利用一般課題2023A1463として、本BLを用いて行われた成果である。
(※6) アミド結合
タンパク質は多数のアミノ酸が結合してつながることで構成されており、アミノ酸同士をつなぐ結合をアミド結合という。

(図4) 出典:コーセー
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