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なぜ、運動をしないと筋肉量が減るのか?――神戸大学大学院の研究グループがメカニズムを解明

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(画像= CATHY PHAM / Unsplash、La Caprese)

筋トレなどの運動をすると筋肉量は増える。逆に何もしなければ筋肉量は減る。――当たり前のように思われるかもしれないが、なぜそうなるのか、具体的なメカニズムについては不明瞭な部分が多かった。そうした中で注目されるのは、2022年3月に公表された神戸大学大学院の小川渉教授らの研究グループによる研究成果だ。

研究では、筋肉を動かさないと筋肉内のカルシウム濃度が低くなり、これが筋肉量を減らす引き金になることが明らかになった。また、この際にPiezo1、KLF15、IL-6という3種類のタンパクが順番に働くことによって、筋肉量が減少することを突き止めた。

神戸大学大学院の研究グループは、これらのタンパクに作用する薬剤を開発できれば「筋肉減少に対する治療薬になることが期待される」との見解を示している。詳しくみてみよう。

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筋肉量の減少とともにKLF15が増加

神戸大学大学院の研究グループは、運動神経の切断やギプスによる固定等でマウスの脚を動かないようにして観察したところ、筋肉量の減少とともにKLF15というタンパクが増加することを発見した。そこで、筋肉だけでKLF15をなくしたマウスを観察したところ、このマウスは脚を動かなくしても筋肉が減らないことが判明した。このことは、「動かないとKLF15が増える」ことが、筋肉を減少させる原因であることを示している。

「動かないとKLF15が増える」のは、なぜだろうか?

神戸大学大学院の研究グループは、生きた動物の筋肉内のカルシウム濃度の変化を観察する方法(生体イメージング)を開発している。今回の研究では、マウスを用いた実験にこの生体イメージングを活用した。その結果、「細胞内のカルシウム濃度の低下」がKLF15を増やす原因であることを突き止めた。

通常はどんな細胞でも「細胞内のカルシウム濃度」は低く保たれているのだが、細胞に刺激が加わるとカルシウム濃度は数十倍から数百倍に上昇して、さまざまな細胞の反応の引き金になる。しかし、筋肉を動かさないと、低く保たれている「細胞内のカルシウム濃度」が一層低くなり、これがKLF15を増やし、筋肉量が減少するのである。

「細胞内のカルシウム濃度が低下」する原因は?

では、なぜ「細胞内のカルシウム濃度が低下」するのだろうか?

神戸大学大学院の研究グループが研究を進めたところ、Piezo1というタンパクが筋肉で減ることが「細胞内のカルシウム濃度が低下」する原因であることが判明した。

Piezo1は細胞の外から細胞の中へカルシウムを取り込む窓のような働きをするタンパクである。Piezo1は「細胞に圧力が加わる」と開く窓のような役割を果たしており、触覚にも関係しているという。マウスの筋肉でPiezo1を減らすと、(マウスが普通に動いていても)カルシウム濃度の低下や筋肉量の減少など、脚を動かなくしたときと同じ変化が起きたことが確認されている。

筋肉量の減少に関与する「3種類のタンパク」

さらに、神戸大学大学院の研究グループは、KLF15の増加が「IL-6というタンパク」の増加をもたらし、これが筋肉を減らす作用をもつことも突き止めた。そこで、IL-6の働きを抑える抗体をマウスに投与すると、脚を動かなくしても、筋肉が減らなくなることが判明した。

以上の研究から、(1)動かないと筋肉でPiezo1が減ることによって、低く保たれている細胞内カルシウム濃度が一層低くなり、(2)それによってKLF15が増えて、(3)KLF15の増加がIL-6を増やすことにより筋肉量を減らす……というメカニズムが明らかになった。

ちなみに、神戸大学大学院の研究グループは、骨折によるギプス固定によって筋肉量の減少をきたした患者の筋肉サンプルを用いた検討でも、Piezo1、KLF15、IL-6という3種類のタンパクが働いている証拠が得られたことを明らかにしている。

なお、この研究論文は、2022年3月に米国科学雑誌『Journal of Clinical Investigation』に掲載された。

「サルコペニア」を予防する切り札になるか?

筋トレなどの運動をすると筋肉量は増えるが、何もしなければ筋肉量は減る。筋肉量が減ると運動しにくくなり、運動をしないとさらに筋肉が減るという「悪循環」に陥る。また、入院や手術などによってベッドの上で安静を強いられることで、このような「悪循環」が加速することも珍しくはない。加齢による筋肉量の減少と運動能力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、高齢化が進む日本社会では大きな課題になることが想定される。

神戸大学大学院の研究グループは、今回紹介した筋肉量の減少に関与する「3種類のタンパク」に作用する薬剤を開発できれば「筋肉減少に対する治療薬になることが期待される」との見解を示しており、今後の研究成果が注目されるところだ。■

(La Caprese 編集部)

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