「日常的な身体活動量の増加により、姿勢維持などを司る抗重力筋の肥大を雄ラットで確認」――。2023年10月31日、明治安田厚生事業団(本部:東京都新宿区)の研究グループから、そのような研究成果が発表された。
身体活動量の維持・増加は筋量低下の抑制と関連することが、これまでの疫学研究からも分かっていたが、具体的なメカニズムは解明されていなかったのが実情であった。そこで本研究では動物モデル(雄ラット)を対象に、自発的な身体活動を促進するオリジナルの「豊かな環境(※1)」を構築し、環境が身体活動量と骨格筋に与える影響を検証した。その結果、「豊かな環境」は雄ラットの身体活動を促進し、さらに姿勢維持などを司る抗重力筋が肥大する可能性が示唆された。なお、本研究成果は国際学術雑誌「Frontiers in Physiology」に2023年9月28日付で掲載された。
今回は明治安田厚生事業団の研究成果を紹介したい。
自発的な身体活動が「姿勢維持」などを司る抗重力筋の肥大を促進する?
身体活動は心身の健康を保つために有効であるとされている。身体活動量を増やすと、生体内では血流の増加、神経活動の活性化等、さまざまな応答が生じる。特に、これまでの疫学研究から、身体活動量の維持・増加は、筋量低下の抑制と関連することが分かっていたのだが、そのメカニズムには不明な点が多く残されていた。そこで本研究では、その要因を明らかにするために、自発的な身体活動を促す「豊かな環境」を作り出し、長期間動物を飼育した場合に骨格筋の量や種類にどのような効果を及ぼすのかを検討した。なお、本研究は明治安田厚生事業団 体力医学研究所 倫理審査委員会の承認を得て実施された。
雄ラットの身体活動量が約1.5倍増加
まず、自由にアクセスすることが可能な「走る装置」やトンネル、滑り台等を設置した環境(豊かな環境)と、何も道具がない環境を用意し、各環境内にて動物(成長期の雄ラット)を4週間(720時間)飼育した。その上で、すべての飼育期間を通じ、小型化された加速度計を用いて身体活動量を計測した。また各環境における飼育期間が終了した後、動物の後肢にある複数の骨格筋の重量を測り、各環境による差異があるか、比較検討した。さらに後肢骨格筋を顕微鏡にて観察・撮影し、骨格筋の細胞レベルのサイズ(筋組織横断面積)、速筋型/遅筋型(※2)の存在割合の変化などを数値化し、比較検討した。
その結果、豊かな環境で飼育した動物の身体活動量は、何も道具がない環境で飼育した動物と比べて、約1.5倍の高値を示した。身体を動かしたくなる環境を作ることで、自らの意思により身体を動かす、すなわち身体活動を促進できる可能性があることが示唆された。
また豊かな環境で飼育した動物の後肢骨格筋のデータを、何も道具がない環境で飼育した動物と比較・分析した結果、抗重力筋であるヒラメ筋(※3)が約10%多いことが判明した。さらに筋肥大したヒラメ筋では遅筋型の筋細胞の横断面積が増加した。