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「サルコペニア肥満」で認知症リスクが6倍に――順天堂大学大学院の研究成果

認知症,予防,トレーニング
(画像= Alex Ivashenko / Unsplash、La Caprese)

肥満かつ、握力の弱い人は「認知症リスク」が増大する――2022年4月、順天堂大学大学院の研究グループによる、1,615名の高齢者を対象とした研究でそのような成果が明らかになった。具体的にはBMIが25kg/m²以上、握力が男性28㎏未満、女性18㎏未満(=サルコペニア肥満)の人は、軽度認知機能障害および認知症のリスクが高いことが判明した。

順天堂大学大学院の研究グループは今回の研究成果について、認知機能の低下をより早期に発見する方法として「握力」と「BMI」という簡便な指標によるリスクの予測が有効である可能性を示しており、我が国における介護予防や健康寿命の延伸の観点から、極めて有益な情報であると考えられる、としている。ちなみに、本研究成果は2022年3月16日付の欧州臨床栄養代謝学会誌である「Clinical Nutrition」のオンライン版にて『Sarcopenic obesity is associated with cognitive impairment in community-dwelling older adults: the Bunkyo Health Study(地域在住高齢者におけるサルコペニア肥満と認知機能低下との関連:文京ヘルススタディー)』のタイトルで公開された。

今回は順天堂大学大学院の研究成果を紹介しよう。

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「サルコペニア肥満」と認知機能低下の関連を調査

順天堂大学大学院の研究グループによると、我が国の介護や支援を必要とする原因の約18%を認知症が占めているという。また、認知機能が低下するリスク因子として、加齢に伴う骨格筋量と筋力の減少を示す「サルコペニア」や、体重や体脂肪量の増加を示す「肥満」が知られている。

サルコペニアと肥満が合併した「サルコペニア肥満」は、欧州ではサルコペニア単独よりも、日常生活活動の低下を引き起こすことが報告されている。つまり、体重の低下がないにもかかわらず、骨格筋量と筋力が低下している状態によって要介護リスクが高まっていると考えられていた。しかしながら、サルコペニア肥満と認知機能低下との関連については、これまで明らかにされていない部分もあった。

そこで順天堂大学大学院の研究グループは、都市部在住の高齢者を対象とした調査研究「Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)」において、サルコペニア(握力の低下)と肥満(BMI 25kg/m²以上)で定義したサルコペニア肥満と認知機能低下の関連を調査した。

サルコペニア肥満で認知症リスクが約6倍に

具体的には、東京都文京区在住の高齢者を対象としたコホート研究「Bunkyo Health Study」に参加した65歳から84歳の高齢者1,615名(男性684名、女性931名)の身長・体重・握力の測定に加え、認知機能の検査を実施した。

研究では、まず、身長と体重から算出されるBMIが25kg/m²以上を「肥満」とした。一方、我が国では高齢の肥満者で、骨格筋量と筋力の両方が低下しているサルコペニアを合併している人がほとんどいないことから、本研究では筋力低下のみを基準として用い、握力が男性で28㎏未満、女性で18.5kg未満を「サルコペニア」と定義した。

次に、肥満もサルコペニアも該当しない「正常」、肥満のみ該当する「肥満」、サルコペニアのみ該当する「サルコペニア」、両方とも該当する「サルコペニア肥満」の4群に分類し、各認知機能検査(MoCA, MMSE)の点数や軽度認知機能障害(MoCA≤22点)、認知症(MMSE≤23点)の有病率を比較した。

その結果、正常、肥満、サルコペニア、サルコペニア肥満の順で、各認知機能検査の点数が低下し(図1.棒グラフ)、軽度認知機能障害、認知症ともに有病率が増加している(図1.折れ線グラフ)ことが判明した。

認知症,予防,トレーニング

さらに、年齢や教育歴、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を調整した結果、サルコペニア肥満は、正常と比べて、軽度認知機能障害のリスク(オッズ比)が約2倍、認知症のリスクが約6倍になることが明らかになった(図2)。また、認知症については、サルコペニアだけでも正常の約3倍のリスクになることも判明した。

認知症,予防,トレーニング

認知症、運動や食事などの生活習慣の改善で予防効果も

今回紹介した研究によって、都市部在住の高齢者におけるサルコペニア肥満では、軽度認知機能障害や認知症のリスクが高い可能性が明らかになった。我が国で介護や支援を必要とする高齢者は年々増加しており、介護予防や健康寿命の延伸に関する取り組みが進められているが、順天堂大学大学院の研究グループの研究報告によると、軽度認知機能障害を有する人は、運動や食事などの生活習慣を改善することで、認知症の進行予防効果が期待される、としている。

順天堂大学大学院の研究グループによると、本研究で握力やBMIといった簡便な方法が、認知機能低下の早期発見に役立つことが示唆されたものの、(1)サルコペニア肥満と認知機能低下が関連するメカニズムや、(2)認知機能低下の原因など、依然として不明な点も多く残されており、今後さらなる研究を進めるとのことだ。

引き続き、順天堂大学大学院の研究に注目しておきたい。■

(La Caprese 編集部)

特集:認知症共生社会〜予防から治療、そして共生まで
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