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エッセイ:幸せの味噌ラーメン

味噌ラーメン,幸せ
※画像はイメージです。(画像= azteca / 写真AC、La Caprese)

寒い日は味噌ラーメンが食べたくなる。

そう、味噌ラーメン――ニンニクがほんのり香る濃厚なスープと、もやしや玉ねぎ、とうもろこしなど野菜の甘みのバランスが素晴らしいと思う。身体はもちろんのこと、心も温かくなる。味噌ラーメンの発祥については、北海道札幌市の大衆食堂など諸説あるが、「かえし」に味噌を使うことを考案した人は本当に偉大だと思う。

味噌ラーメンといえば、筆者は歯ごたえのある太麺が好みだ。恐らく、小学生時代に生まれて初めて食べた味噌ラーメンが太麺だったことも影響しているのだと思う。中太の縮れ麺なども捨てがたいが、いろいろなタイプの麺を食べても、やっぱり太麺が一番だと思ってしまう。

初めて味噌ラーメンを食べたときの感動は、いまでも鮮明に覚えている。近所にオープンした「札幌ラーメン」の看板を掲げるお店に家族で訪れたときのことだ。最初、メニューに味噌ラーメンの文字をみつけたときは、強烈な違和感を覚えたものである。

味噌、ラーメン。ラーメンと、味噌……。それって、味噌汁に麺が入っている感じなのだろうか? 小学生の筆者にとっては未知のラーメンではあったが、なんとなく興味が湧いてきて、チャレンジしてみることにした。

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理屈抜きで、言葉を選ぶまでもなく、脊髄反射的に

「はい。おまちどうさま!」
店主が味噌ラーメンを運んできた。

テーブルに置かれた味噌ラーメンをじっとみつめた。見た目は普通のラーメンにいろいろな野菜がのっているような感じだった。イメージと違う。スープも透き通っている。味噌汁に麺が入っているような感じではない。しかし、香りは味噌だった。いや、正確には味噌汁とは異なる味噌の香りだった。このような香りは初めてである。なんというか、食欲をそそる香りだ。

蓮華で透き通ったスープを口に運んだ。

「うまい!」

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に登場する煉獄杏寿郎のごとく、思わず大声で叫んでしまった。もう、理屈抜きで、言葉を選ぶまでもなく、脊髄反射的に、「うまい!」と叫んでいた。

店内は爆笑の渦である。家族はもちろんのこと、店主や店内のお客さん全員に大笑いされてしまった。が、筆者としては、現実問題として味噌ラーメンがこんなに美味しいとは衝撃であった。たとえるなら、株式市場でまったく期待していなかった企業の業績が絶好調だったときのような驚きである。株価でいえば、味噌ラーメン株が前日比で7.8%上昇したようなものだった。

お店の上空にUFOが出現???

ところが、である。
その「札幌ラーメン」のお店は、半年もしないうちに閉店してしまった。

理由はわからない。筆者が通う小学校のクラスでも評判のラーメン屋さんだったこともあり、短期間での突然の閉店についてさまざまな噂が囁かれた。

あるクラスメイトは「ヤクザに借金をして潰れたみたいだよ」といったかと思えば、別のクラスメイトは「閉店の前日にお店の上空にUFO(未確認飛行物体)が出現したんだって!」と興奮ぎみに話していた。当時はテレビで『Gメン’75』という刑事ドラマが流行っていて、サラ金地獄をテーマにしたエピソードが何度も放映されていた。また、UFO特番の全盛期でもあった。そんなテレビの影響で広がった噂なのかもしれない。

真相はわからない。ただ、あの太麺で透き通ったスープの味噌ラーメンは、もう二度と食べることができないことは、まぎれもない事実だった。

お婆ちゃんに抱きしめてもらったような気分?

そんなことを考えていたら味噌ラーメンが無性に食べたくなってきた。

というわけで、筆者はいま行列に並んでいる。並びながら、スマートフォンでこの記事を書いている。駅前のラーメン屋なのだが、並んでいるのは、ほとんどが外国人観光客だ。恐らく、海外からの入国者数上限の撤廃に加え、外国人の個人旅行とビザなし渡航が解禁されことが影響しているのだろう。

「もう、楽しみ! ここの味噌ラーメンを食べると、お婆ちゃんに抱きしめてもらったような気分になるの」

行列に並んでいた外国人の女性がそんなことを言っていた。
うんうん、わかる。味噌ラーメンを食べると、身も心もほっこりと暖かくなる。

寒い日は味噌ラーメンが食べたくなる。
幸せとは案外近くにあるものなのかもしれない。■

(La Caprese 編集長 Yukio)

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