2022年10月19日、東証スタンダードに上場するIGポートが4営業日連続高となった。同日は一時1,658円の高値をつけており、9月28日の安値1,432円から3週間で15.8%の上昇率を記録する場面もみられた。
IGポートは、アニメ制作会社のプロダクション・アイジーやWIT STUDIOなどを傘下にもつ持株会社である。後段で述べる通り、10月14日発表の2023年5月期・第1四半期(2022年6月~8月)の連結決算で大幅な増収増益となったことが買い手掛かりとなった。同期はテレビアニメ『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』などの納品に加えて、版権事業の減価償却費の減少、二次利用による収益分配計上などにより、営業利益で前年同期比95.2%増を記録、計画に対する進捗率は65.4%となった。
今回はIGポートの話題をお届けしよう。
テレビアニメ『SPY×FAMILY』が大ヒット
『SPY×FAMILY』はマンガアプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の遠藤達哉氏の漫画である。
100の顔を使い分ける凄腕スパイで、コードネーム「黄昏 (たそがれ)」と呼ばれる男性が、とあるミッション(任務)を遂行するために「疑似家族」をつくることになった。しかし、孤児院から引き取った娘役のアーニャは超能力者、契約結婚をもちかけた妻役のヨルは殺し屋だった……という設定だ。スパイが暗躍するシリアスな要素に、心温まるホームコメディ要素が絶妙にからみあった作品で、単行本のシリーズ累計発行部数は2022年10月時点で2,500万部を突破している。
テレビアニメは、テレビ東京系列などで分割2クールにて放送。第1クールは2022年4月から6月まで放送され、2022年10月からは第2クールを放送している。なお、テレビ東京が6月30日に公表したところによると、第1クールのタイムシフト視聴率(11話分まで)は番組史上最高の4.8%を記録した。
タイムシフト視聴率は、そのテレビ番組をテレビ所有世帯のうち「7日間(168時間)以内に何パーセントが再生視聴したか」を表す推定値で、録画視聴率とも呼ばれる。2015年からビデオリサーチが提供している視聴率統計で、録画機器の普及などを鑑みて導入された。テレビ東京によると、『SPY×FAMILY』の第1クールのタイムシフト視聴率(4.8%)は、ドラマやバラエティーなど全番組を含めた史上最高値ということだ。
ちなみに、テレビアニメ『SPY×FAMILY』は、WIT STUDIOとCloverWorksの2つのアニメ制作会社による共同制作体制となっている。冒頭でも述べた通り、WIT STUDIOはIGポートの子会社であり、テレビアニメではこれまで『進撃の巨人』や『ローリング☆ガールズ』『魔法使いの嫁』『王様ランキング』『おにぱん!』などを制作したほか、劇場アニメやゲーム、OVAなど多数の作品を世に送り出している。
「映像制作事業」の営業利益は786.8%増
IGポートの業績をみてみよう。10月14日発表の2023年5月期・第1四半期(2022年6月1日~8月31日)の連結業績は、売上高が前年同期に比べ15.5%増の26億4,900万円、本業の利益を示す営業利益は同95.2%増の2億7,800万円、経常利益は118.8%増の3億100万円、純利益は90.7%増の2億5,100万円と大幅な増収増益となった。
セグメント別では、まず「映像制作事業」の売上高が前年同期に比べ32.3%増の15億4,400万円、営業利益は同786.8%増の8,800万円と急増した。同期はテレビアニメ『SPY×FAMILY』『アオアシ』『おにぱん!』などに加え、劇場アニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These 策謀』、その他遊技機、CМ等のアニメーションを納品した。
一方、「出版事業」の売上高は前年同期に比べて8.2%減の5億7,700万円、営業利益は40.4%減の1億200万円と減収減益となった。同期は月刊誌の『コミックガーデン』のほか、コミックス『リィンカーネーションの花弁 16巻』『ふかふかダンジョン攻略記~俺の異世界転生冒険譚~ 8巻』に加え、定期月刊誌3点、新刊コミックス・書籍18点を刊行した。既刊コミックスの『リィンカーネーションの花弁』『魔道具師ダリヤはうつむかない~Dahliya Wilts No More~』の販売は好調に推移したものの、刊行スケジュールの変更等により、コミックス刊行点数が前年同期より少なくなったことで、出版事業の売上は前年同期を下回る結果となった。
また、「版権事業」は売上高が前年同期に比べ2.9%減の4億4,200万円となったものの、減価償却費が前年同期と比べて少なくなったことで、営業利益は同1,068.3%増の1億900万円と大幅に増加した。ちなみに、同期は『SPY×FAMILY』のほか、『王様ランキング』『銀河英雄伝説 Die Neue These』『アオアシ』『進撃の巨人』『攻殻機動隊』等のシリーズタイトルを中心に、二次利用による収益分配を計上した。
IGポートの株価は短期間で上下に激しく変動
最後にもう一つ。IGポートの株価は2022年1月4日の大発会に1,675円でスタートしたが、3月8日には年初来安値985円に沈み、下落率は41.2%に達した。その後上昇に転じ、6月1日には年初来高値となる1,829円を記録している。年初来安値(3月8日985円)からは85.7%の上昇である。ところが、その後再び下落に転じ、9月28日には1,432円の安値を記録、年初来高値(6月1日1,829円)からの下落率は21.7%となっている。そして冒頭でも述べたとおり、10月19日には4営業日連続高となって、一時1,658円の高値をつける場面も見られた。9月28日の安値(1,432円)から3週間で15.8%の上昇である。
IGポートの業績は好調だ。テレビアニメ『SPY×FAMILY』などの納品に加えて、版権事業の減価償却費の減少、二次利用による収益分配計上などを背景に、大幅な増収増益を記録している。しかし、業績が好調とはいえ、上記の通り、IGポートの株価は短期間で上下に激しく変動する傾向にある点には十分な注意が必要であろう。どのような相場でも価格変動リスクはつきものであるが、IGポートは特にリスクの高い銘柄であることを付け加えておきたい。■
(経済ジャーナリスト 世田谷一郎)