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エッセイ:『ぼっち・ざ・ろっく!』と音楽と認知症治療

認知症,音楽療法
(画像= Canva、La Caprese)

楽器販売が回復傾向を示している。
2023年9月20日、帝国データバンクが発表した調査報告によると、2022年度の楽器店市場(事業者売上高ベース)は、前年度から0.6%増の1,939億円となった。2021年度の1,927億円を上回り、2年連続で前年を上回った。損益ベースでは、2022年度は「増益」が34%を占め、約6割が黒字を確保した。「嗜好性の強い楽器では販売価格へ比較的反映させやすく、安定した利益を確保した楽器店が多かった」(帝国データバンク)という。一方、楽器製造の原料となる金属や木材価格の高騰に加え、輸入品も多いことから物流費の上昇や円安による影響を受けて楽器の仕入れ価格が上昇しており、赤字となった企業も約4割を占めた。

認知症,音楽療法
(図1) 出典:帝国データバンク
※調査対象:ギターやピアノ、DCM等「楽器」販売を主力とする国内のべ1,300社
※調査期間:2023年8月までに2022年度業績が判明したもの
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音楽が持つさまざまな力を医療に応用した「音楽療法」

楽器店市場は、少子高齢化や習い事・趣味の多様化を受けて近年は頭打ちの状態が続いてきた。こうしたなか、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出制限の影響で一般顧客向けの店舗販売が大きく落ち込んだほか、付随して運営するケースも多い音楽教室なども休講を余儀なくされたことで、大幅な市場縮小に見舞われた(図1)。

しかしながら、2020年度後半以降は巣ごもり需要の拡大でギターなどの弦楽器や電子ピアノなどの需要が増加したほか、学校での部活動やサークル活動なども再開したことで、ティーン層を中心に販売が増加に転じた。「特に2022年度はアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響で、新たにギターを始めるライト層向けの販売が増加した楽器店もみられた」(帝国データバンク)という。総じて、エレキギターを中心に新しく楽器演奏にチャレンジする巣ごもり特需の発生が、楽器店市場を下支えする形となった。

音楽が認知症の人々の心を和ませる

ところで、音楽は心を癒し、気分を盛り上げるだけでなく、近年は脳の活性化や心身を整える効果も注目されている。音楽が持つさまざまな力を医療に応用した「音楽療法」だ。

今年8月には、ドキュメンタリー映画『認知症と生きる希望の処方箋』(野沢和之監督)が全国公開された。この映画は、名古屋の病院で音楽療法を実践する二人の「音楽療法士」にスポットを当てた作品で、音楽が認知症の人々の心を和ませ、本人だけでなく周りの人々をも幸せにして、予想もしなかった効果をもたらす様子が記録されている。

「認知症は治らなくても幸せになる時があればいい」――。
この映画に登場する、認知症の夫を介護する女性の言葉が印象的だった。
音楽と人の深いつながりの中に希望が見えてくるドキュメンタリー映画である。

広がる楽器演奏のすそ野をいかに維持するか?

先に述べた通り、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた楽器店市場は、足元では行動制限の緩和や5類移行による音楽教室の再開、ライブ活動・コンサート向けの楽器需要が回復傾向にある。アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』などの影響も重なり、楽器演奏に新たにチャレンジする動きなどが楽器店市場を下支えし、2年連続で前年度を上回るなど、市場回復の兆しが見えつつある。

「今後は、広がる楽器演奏のすそ野をいかに維持するかが、少子高齢化で長期的な縮小が避けられない国内市場を今後も維持するカギになるとみられる」と帝国データバンクは分析している。音楽療法の広がりとともに、楽器店市場の動きも気になるところだ。■

(La Caprese 編集長 Yukio)

特集:認知症共生社会〜予防から治療、そして共生まで
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