感情が動くと書いて「感動」と読む。――筆者はこれまでの人生で、数えきれないほどの野球の試合を観戦してきた。しかし、今回の試合ほど大声で笑った記憶はない。2023年3月22日の午前11時43分、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝戦「日本vs.米国」の9回から登板した大谷翔平投手が、米国のマイク・トラウト選手を空振り三振に仕留め、優勝を決めた場面である。その瞬間、筆者は自分でも驚くほど大きな声で笑っていた。うれしくて。うれしくて。文字通り、感情が激しく動かされた試合だった。
ビデオリサーチの調べによると、テレビ朝日系で同日生中継された「日本vs.米国」の平均世帯視聴率は、平日の午前中にもかかわらず42.4%(関東地区)に達した。さらに、午前11時43分に大谷投手がトラウト選手を空振り三振に仕留めた場面では、毎分最高世帯視聴率の46.0%を記録した。その瞬間、多くの人の感情を動かし、満面の笑みをもたらしたであろうことは想像に難くない。
「笑い」には免疫力を上げるなどの健康効果も
ちなみに、近年は「笑い」が健康によいことを示す研究成果が報告されている。
たとえば、福島県立医科大学の医学部疫学講座(2020年4月29日号)では、「笑いが免疫力を上げ、健康によいこと、病気を治すこと、病気を予防すること」等が紹介されている。同講座で毎年開催している「笑って健康教室」によると、(1)参加者の体重の減少、(2)筋力の増加、(3)血圧の低下、(4)ポジティブな気分になる……など「笑い」によって健康関連の生活の質が向上するなどの効果が明らかになっている。
また、2018年5月には大阪国際がんセンターが「漫才や落語による『笑い』によって、がん患者の免疫力向上に加え、緊張や疲労といった心身の状態も改善したことなどが確認された」と発表している。研究では漫才や落語を鑑賞した患者の血液から、免疫細胞の一つである「NK(ナチュラル・キラー)細胞」の増加が確認されたという。
侍ジャパンが教えてくれた大切なこと
さて、話をWBCに戻そう。2023年3月16日、侍ジャパンの栗山英樹監督はイタリア戦後の会見で、「今回のチームはダルビッシュジャパンといってもいいくらい……自分のことはさておいて、チームのため、野球のため、将来のため。今、僕が多くを語るつもりはありませんが、いつかきちんとみなさんにお伝えしたい、と思うくらい感謝しています」と語った。
ダルビッシュ有選手は侍ジャパンの宮崎キャンプに合流後、自ら音頭をとって投手陣の食事会を開催し、野手陣とも積極的に交流した。そんな彼は、3月16日のイタリア戦前に侍ジャパンの強みについて「人と人の距離がすごく短いところ」と指摘している。「普通、この短期間にまとまることは難しいが、このチームの場合はできると思う。ベンチでも笑顔が沢山ありますし、ベンチ裏でもすごく皆仲がいい。雰囲気も以前に参加したWBCとはまた違った雰囲気になっていると思います」と語っていた。物事を楽観的にとらえ、たとえ劣勢のときであっても、優勢へと流れを変えるポジティブマインドが、チーム全体に自然と育まれていたのかもしれない。
「これが5年10年経ったときに、日本の野球界にとって大きなものとなることは間違いないので、今はひたすら(ダルビッシュ選手に)感謝しています」栗山監督は件の会見で、そうつけ加えた。
冒頭で述べた通り、テレビ朝日系で生中継された「日本vs.米国」の平均世帯視聴率は42.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)に達した。日本戦のテレビ中継の平均世帯視聴率は実に7試合連続の40%超えである。本当に多くの人の感情を動かし、笑顔をもたらしてくれた侍ジャパン。明るく、前向きに、元気よく生きることの大切さを教えてくれた彼らに、感謝の気持ちでいっぱいである。■
(La Caprese 編集長 Yukio)