2023年3月22日、東京株式市場で翻訳センターの株価が一時1,630円まで買われ、昨年来の高値を更新した。2022年1月28日の安値1,310円から14カ月で24.4%の上昇である。
翻訳センターは、法人や政府官公庁、自治体等に「産業翻訳サービス」を提供する企業である。「産業翻訳サービス」とは、金融(証券・IR・銀行・保険)やメディカル(製薬・医療機器)、IT・通信、製造業、流通・消費財などの専門分野における翻訳サービスで、多様な言語に対応しているのが特徴だ。ドキュメントやマニュアル等の翻訳サービスのほか、国際会議や学術会議・イベント等の誘致・企画・運営サービス、通訳者・翻訳者の人材派遣や人材紹介などの語学人材サービス等、国際舞台やビジネスシーンにおける多様な語学サービスをワンストップで提供している。
後段で述べる通り、2023年3月期・第3四半期(2022年4月1日~2022年12月31日)の連結業績は増収増益と好調である。コアビジネスである翻訳事業が好調に推移しているほか、通訳事業もオンライン通訳サービスの定着により回復傾向を示した。ただし、その一方で、国際会議(学会・研究会)やセミナー・シンポジウムなどのコンベンション事業および派遣事業は依然として厳しい状況にあるようだ。
今回は翻訳センターの業績を見てみよう。
翻訳センター、コアビジネスの「翻訳事業」が好調
翻訳センターが発表した2023年3月期・第3四半期(2022年4月1日~2022年12月31日)の連結業績は、売上高が前年同期に比べて7.0%増加の80億6,000万円、本業の利益を示す営業利益は同19.1%増の6億2,200万円、経常利益は同17.1%増の6億2,700万円、純利益は同16.8%増の4億1,700万円と増収増益となった。
セグメント別では、まずコアビジネスの「翻訳事業」の売上高が前年同期比8.7%増の61億5,600万円と好調だった。同期は特許分野で主要顧客である特許事務所や企業の知的財産関連部署からの受注が好調に推移した。一方、医薬分野では顧客の試験スケジュールにより翻訳需要が低調に推移したことに加えて、CRO(医薬品開発受託機関)からの受注減少、前期に受注した新型コロナウイルス感染症に関する案件の反動減が見られた。工業・ローカライゼーション分野では製造業の顧客を中心に堅調に推移したことに加え、情報通信関連企業からの大型案件を獲得して絶好調だった。また、金融・法務分野では東証の市場再編に伴いIR関連文書の受注が増加した。
「通訳事業」が絶好調、セグメント売上高は31.0%増
「派遣事業」のセグメントは、売上高が前年同期比7.8%減の8億4,200万円であった。語学スキルの高い人材を顧客企業に派遣する同事業においては、新規受注が堅調に推移したものの、派遣期間終了者の増加に伴い常用雇用者数が前年同期を下回る結果となった。
「通訳事業」のセグメントは、売上高が前年同期比31.0%増の6億5,500万円と絶好調だった。同期はオンライン通訳サービスの定着により、主要顧客である医薬品関連会社や精密・通信機器メーカー等からの受注が旺盛だった。また、外資コンサルティング会社からも安定した受注を獲得したほか、複数の金融機関からの大型会議案件も業績に寄与した。
「コンベンション事業」のセグメントは、売上高が前年同期比6.6%減の1億2,900万円となった。同期は大規模な国際会議やイベントの開催制限の長期化、サービスのデジタル化に伴う案件の規模縮小の影響が継続した。
「その他」のセグメントの売上高は前年同期比13.1%減の2億7,500万円となった。同期は外国への特許出願に伴う明細書の作成や出願手続きが低調に推移したことに加え、語学教育事業では通訳者・翻訳者養成スクール「アイ・エス・エス・インスティテュート」の受講者数が伸び悩む結果となった。
通期の営業利益は18.3%増となる見通し
2月9日、翻訳センターは、2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比7.3%増の111億円、本業の利益を示す営業利益で同18.3%増の9億6,000万円、経常利益で同14.1%増の9億6,000万円、純利益で同13.4%増の6億5,000万円となる見通しを示し、従来予想(2022年11月10日公表)を据え置いた。
冒頭で述べた通り、コアビジネスである翻訳事業は堅調に推移しているほか、通訳事業もオンライン通訳サービスの定着により回復傾向にある。一方で、コンベンション事業は新型コロナウイルス禍の国際的な人の往来に対する制限が緩和されたものの、国際会議(学会・研究会)やセミナー・シンポジウム、各種展示会等の度重なる計画見直しなどが影響して伸び悩んでおり、今後回復に向かうか気になるところである。
引き続き、翻訳センターの業績や株価動向を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)