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エッセイ:キリンビバレッジ、スシローの不祥事にみる「モラル・ハザード」という病

キリンビバレッジ,株価
(画像= bBear / 写真AC、La Caprese)

2022年9月7日、東証プライムに上場するキリンホールディングスの株価が5営業日連続安となった。この日の終値は2,193.5円で、8月31日に記録した年初来高値2,305.5円から4.9%の下落であった。傘下のキリンビバレッジが、消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けたことが売り手がかりとなった。

9月6日、消費者庁はキリンビバレッジに対して、メロン果汁が2%程度しか使われていないミックスジュースのパッケージに「100%メロンテイスト」などと記載していたのは景品表示法に違反するとして、再発防止を求める措置命令を出した。対象の商品は「トロピカーナ 100% まるごと果実感 メロンテイスト」で、消費者庁が調べたところ約98%がブドウやリンゴ、バナナの果汁で、メロン果汁は2%程度だった。

他方、9月2日には回転ずし店の「スシロー」を運営するFOOD&LIFE COMPANIESが一時2,060円と年初来の安値を記録した。1月4日の年初来高値4,370円から9カ月で52.9%の下落である。同社は今年6月に消費者庁から景品表示法違反(おとり広告)による措置命令を受けたほか、8月31日にはマグロの種類を巡り、担当者が誤った説明をしていたこと(マグロ偽装疑惑)が発覚するなど不祥事が相次いでおり、株式市場で失望売りを誘発した。

キリンホールディングスとFOOD&LIFE COMPANIESに共通するのは「倫理感の欠如」だ。両社の株価下落は程度の差こそあれ、「倫理感の欠如」に対する市場の制裁とみることができる。

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「仕事をしているふりをして怠けていたほうがいい」

いまから20数年前――2000年前後にかけて新聞や雑誌などで「モラル・ハザード」「モラル・ハザード症候群」といった言葉が使われたことがあった。

モラル・ハザードは、もともとは保険業界で使われていた用語である。たとえば医療保険に加入し、将来のお金の不安(医療費の不安)が軽減されたことによって、健康管理を怠り、かえって病気にかかりやすくなる、といった事例などだ。また、保険金目当ての犯罪を指すこともある。日本では「倫理感の欠如」という意味で保険業界のみならず、さまざまな業界、組織、企業の不祥事などで用いられるようになった。

もう一つ、一部の社会主義国にみられたような、いくら頑張って働いても生活水準に変化があまり生じないことから、全体的に怠けていく(衰退していく)ことの例えとして「モラル・ハザード」が用いられることもある。

日本においても、いくら頑張って働いても大した見返りがなく「それならば仕事をしているふりをして怠けていたほうがいい」という人々を指して「モラル・ハザード症候群」という使われ方をしたことがあった。ブラック企業、社畜という言葉が登場する何年も前の話である。

あれから20数年――現在は、「モラル・ハザード」「モラル・ハザード症候群」といった言葉はほとんど使われることはなくなった。しかし、その病(やまい)はいまも日本社会に蔓延しているように見受けられる。

「商売をする上で重要なのは、競争しながらでも道徳を守るということだ」とは渋沢栄一氏の名言であるが、いまあらためて企業倫理が問われているように思えてならない。■

(La Caprese 編集長 Yukio)

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