近年、腸内フローラの研究が盛んとなり、ヒトと共存する細菌の生体への重要性が明らかになりつつある。ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業（本社：神奈川県横浜市）も「肌状態も細菌の影響を受ける」との仮説を立て、研究を進めてきた。
その結果、（1）肌の状態が良い人は、皮膚に共存する「S.ホミニス（補足資料1）」が肌上に多く、S.ホミニスが「毛穴」等の改善効果を有すること、（2）ユズ果実エキスにS.ホミニスの増殖を促す効果があること、（3）テンニンカ果実エキスに肌トラブルの原因細菌として知られるS.アウレウスの増殖を阻害する効果があること……を突き止めた。
ポーラ化成工業は本研究で得られた知見について、「人間と共生する細菌のはたらきを活かす肌ケアの発展に寄与する」との見解を示している。なお、上記研究成果（1）は国際学術誌である「Skin Research & Technology」に掲載された。
今回はポーラ化成工業の研究成果を紹介したい。
「良い肌状態」と関連する細菌は数百種もある
今回の研究では、まず約300名の女性を対象に、肌状態を種々の方法で測定するとともに、肌上の細菌の種類と量を調べ、肌と細菌の関連性を解析した。
その結果、良い肌状態と関連する細菌が実に数百種も見つかり、そのなかでも特にS.ホミニスという細菌は、肌の形態（目立つ毛穴の数（図1））、色味、肌の機能（バリア機能）などの「肌状態が良い人」の肌に多く存在することを発見した。
実証実験で「目立つ毛穴の数」「メラニン量」「シワ本数」が改善
次に、S.ホミニスが実際に肌を改善するのか明らかにするための実証実験を行なった。
具体的には、S.ホミニスを含む化粧水を頬部に1カ月間塗り、塗らなかった場合と比較解析した（図2）。その結果、「目立つ毛穴の数（図3）」「メラニン量」「シワ本数」に改善が認められた。肌上のS.ホミニスが肌に良い影響を与える細菌であることが証明されたのである。
S.ホミニスの増殖を促す植物エキス
しかしながら、日常的に直接S.ホミニスを肌に塗り続けることは、保管方法やコストの面で負担になる。そこでポーラ化成工業は、各個人の肌上に存在するS.ホミニスを増やすことを考えた。そして、さまざまな成分を探索した結果、ユズ果実エキスが有効であることを見出した（補足資料2 図5）。さらに、S.ホミニスの増殖を抑制することなく、肌に悪影響を与えることが報告されているS.アウレウスの増殖を抑制するエキスとして、テンニンカ果実エキスが有効であることも突き止めた（補足資料2 図6）。
ポーラ化成工業は本研究で得られた知見について、「人間と共生する細菌のはたらきを活かす肌ケアの発展に寄与する」との見解を示している。引き続き、ポーラ化成工業の取り組みに注目したい。■
（La Caprese 編集部）
S.ホミニス（図4）は、ブドウ球菌の仲間の1種で、その名の通りブドウの房のような形状をしている。ほぼ全ての人の肌にいると言われており、頬だけでなく、全身の肌に存在する。近年では、アトピー性皮膚炎での治療研究でもS.ホミニスが良いはたらきを持つ可能性が示され、注目が集まっている。ちなみに、美肌に寄与する細菌としては、これまでS.エピデルミディスという細菌に肌の水分量上昇やバリア機能改善効果があることが知られていた。今回の研究で、S.ホミニスも美肌に寄与する細菌であることが新たに示された。
S.ホミニスの増殖を促す成分を探索した結果、ユズ果実エキスが有効であることを見出した（図5）。また、実は肌には、S.ホミニスと同じブドウ球菌の仲間でありながら、肌状態に悪い影響を与える細菌（S.アウレウス）が存在する。 そこで、肌状態をさらに良くするために、肌状態の改善に有効なS.ホミニスの増殖は抑制することなく、S.アウレウスの増殖は抑制させることのできる成分を探索した。その結果、テンニンカ果実エキスにそのはたらきがあることを見出した（図6）。
