筆者は職業柄、Yahoo! JAPANなどの「検索の急上昇ワード」等をチェックするのが日課となっている。先日は、そのYahoo! JAPANの「検索の急上昇ワード」で懐かしい名前を発見した。
読者のみなさんは、「ちあきなおみ」をご存知だろうか? 筆者が小学生の頃、テレビの歌番組やドラマなどに数多く出演していた歌手・女優だった。彼女の活動期間は1969年から1992年にかけてで、芸能活動を完全に休止し、事実上の引退となってから今年で30年となる。
そのちあきなおみさんが、Yahoo! JAPANの「検索の急上昇ワード」(2022年11月17日時点)に登場していたのだ。
オリコン週間アルバムランキング「演歌・歌謡」ジャンルで1位
調べてみると、2022年10月19日に発売された、ちあきなおみさんのアルバム『残映』が、同10月31日付のオリコン週間アルバムランキング「演歌・歌謡」ジャンルで第1位を獲得。さらに、その前作となるアルバム『微吟』も2位にランクインし、30年前に活動を休止した歌手としては異例のワンツー独占を果たしていた。
発売元のテイチクエンタテインメントによると、活動休止から30年の時を経てリリースされたアルバム『残映』はベストヒット的な楽曲を並べたものではなく、ちあきなおみさんの奥深い歌唱力・表現力を堪能できる作品を中心に構成した「裏ベスト」ともいえるコンセプトで企画されたとのこと。全国のCDショップでパネル展が開催されたほか、雑誌やラジオで紹介される中で、耳の肥えた音楽ファンを中心に再評価の機運が高まったという。
前述のオリコン週間アルバムランキングのほか、大手通販サイトのAmazonでも歌謡曲・演歌ジャンルのCD売れ筋ランキングでワンツー独占(1位『残映』、2位『微吟』)を果たすなど大きな反響を得ている。
土曜の夜にみた、ちあきなおみさんの狂気を孕んだ歌唱力・表現力
しかし、何よりも筆者をドキリとさせたのは『残映』の収録曲に『夜へ急ぐ人』のタイトルを見つけたことだ。
『夜へ急ぐ人』は1977年9月1日に発売された楽曲でそのテーマは「日本の女の狂乱」である。
筆者がちあきなおみさんの歌う『夜へ急ぐ人』を初めてみたのは小学生の頃、土曜日の夜のバラエティ番組『8時だョ!全員集合』だった。その日は少し遅い夕食で、家族団らんでカレーライスを食べていたのであるが、文字通り、ちあきなおみさんの狂気を孕んだ歌唱力・表現力に背筋が凍りつくような感覚に襲われた。気がついたら、家族団らんの空気が一変し、全員カレーライスを食べる手がとまっていたのを覚えている。特にトラウマになりそうなほど印象的だったのがサビの部分だ。
「おいでおいで、おいで……」
バスローブのような衣装(?)に身を包み、薄笑いを浮かべながら、カメラに向かって手招きをするちあきなおみさんは、なにかにとり憑かれているように見えた。目が普通じゃない。筆者は後にも先にも、これほど恐ろしい狂気を孕んだ歌唱力・表現力をみたことがない。その夜、筆者の夢のなかに『夜へ急ぐ人』を歌う、ちあきなみさんが現れたほどだ(本当に怖かった!)。個人的には映画『リング』の山村貞子が裸足で逃げだすレベルではないかと思う。
もちろん、週明け月曜日の筆者が通う小学校のクラスメイトの間では、ちあきなおみさんの『夜へ急ぐ人』の話題でもちきりであった。その時点で、まだ『夜へ急ぐ人』というタイトルを知らなかったので、クラスメイトのみんなが「おいでおいで」と呼んでいた。
「ねえ、ちあきなおみの『おいでおいで』みた?」
「みたみた! 怖かったねえ〜」
ちなみに、インターネットで検索すると、ちあきなおみさんが歌う『夜へ急ぐ人』の動画をみることができる。しかし、何かが違う――どの動画も、筆者が小学生の頃、『8時だョ!全員集合』で初めてみた恐ろしい狂気を孕んだ歌唱力・表現力とは違うようにみえる。思い出補正が働いているのだろうか? いや、あの夜、家族団らんの空気を一変させた「恐怖」は本物である。筆者にとって、あのときの、ちあきなおみさんの歌唱力・表現力は二度とみることのできない「伝説」なのだ。■
(La Caprese 編集長 Yukio)