2023年11月30日、ディーエイチシー(本社:東京都港区、以下DHC)は、ニキビの発症に関与するヒト皮脂腺細胞の免疫応答について、新規のメカニズムを発見したことを明らかにした。
本研究では、ヒト皮脂腺細胞が細胞質型パターン認識受容体(※1)NOD1を発現し、NOD1が皮脂腺の免疫応答に寄与することを発見した。皮脂腺は毛穴の内部にある器官として皮膚の真皮層に位置している。また、皮脂腺は主に皮脂腺細胞(図1赤線)で構成されており、皮脂を産生する働きだけでなく、皮膚の免疫にも寄与している。NOD1およびNOD2は細胞質型パターン認識受容体の1種であり、これまでに様々な組織で免疫応答に関与することが知られていたが、ヒト皮脂腺細胞における発現は明らかにされていなかった。そこで、DHCではヒト皮脂腺細胞における未知の免疫応答メカニズムを解明するために、NOD1およびNOD2について研究を行った。なお、本研究成果は、学術専門雑誌「Biochemistry and Biophysics Reports」に掲載された。
本研究成果の概要は以下の通りである。
ヒト皮脂腺細胞における新規の免疫応答メカニズムを発見
NOD1およびNOD2の遺伝子発現の評価
ヒト皮脂腺細胞におけるNOD1およびNOD2の発現を明らかにするために、ヒト皮脂腺細胞から遺伝子を抽出し、PCR法を用いてNOD1またはNOD2遺伝子の増幅を試みた。得られたPCR産物を調べた結果、NOD1遺伝子は検出されたが、NOD2遺伝子はほとんど検出されなかった(図2)。このことから、ヒト皮脂腺細胞はNOD1を発現する一方で、NOD2をほとんど発現しないことが明らかとなった。
NOD1およびNOD2を介した免疫応答の評価
次に、ヒト皮脂腺細胞に発現するNOD1およびNOD2が免疫応答に寄与するのか調べるために、NOD1作動薬であるTri-DAP(※2)またはNOD2作動薬であるMDP(※3)で細胞を刺激して、炎症性サイトカインの1種であるIL-8が誘導されるか調べた。Tri-DAPによる刺激は濃度依存的にIL-8の産生を誘導したのに対し、MDPによる刺激はIL-8の産生を誘導しなかった(図4)。さらに、Tri-DAPによる刺激は、免疫応答において中心的な役割を果たす転写因子であるNF-κB(※4)のサブユニットp65とMAPK(※5)の1種であるp38のリン酸化を誘導した(図5)。
以上の結果から、NOD1およびNOD2のうち、NOD1がヒト皮脂腺細胞においてNF-κBおよびMAPKシグナルの活性化と免疫応答に関与することが明らかとなった。
皮脂腺細胞の免疫応答は、ニキビの発症に影響することが知られている。そのため、NOD1を適切に制御するアプローチは、ニキビ発症の予防に繋がることが期待できる。DHCは、本研究成果を基に皮脂腺のNOD1に着目した新たなスキンケアアプローチの提案を目指す方針である。■