2024年2月22日、東京証券取引所でキヤノンの株価が一時4,287円まで買われ、昨年来高値を更新した。2023年1月16日の安値2,754円から13カ月で55.7%の上昇である。
キヤノンは、1937年設立の精密機器メーカーである。カメラやビデオ等の映像機器や、プリンタや複写機をはじめとする事務機器、半導体やディスプレイ等の製造装置などさまざまな精密機器を手がけている。ちなみに、社名のカタカナ表記は「キヤノン」とヤの字が大きいのが正解で、小字を用いた「キャノン」は間違いである。キヤノンの公式サイトでは、その理由について、小字の「キャノン」では「ャ」の上に空白が出来てしまい、穴が空いたように感じてしまうので、それを避けるためとしている。全体の見た目の文字のバランスを考え、きれいに見えるようにヤの字が大きい「キヤノン」にしたという。数多くの小さな部品によってズレがなく構築された精度の高い機械(=精密機器)を製造する企業のこだわりは、社名の表記にも垣間見られるようだ。
後段で述べる通り、キヤノンが公表した、❶2023年12月期・通期(2023年1月1日~2023年12月31日)の連結業績が3期連続の増収増益となったことに加え、❷2024年12月期・通期(2024年1月1日~2024年12月31日)の連結業績予想についても増収増益の見通しが示されたこと、❸2024年12月期の年間配当予想を前期比10円増の150円に増配する方針を示したこと、❹さらに、発行済み株式総数の3.3%に当たる3,300万株、1,000億円を上限とする自社株買いを発表したこと……などが株価にも追い風となった。
今回はキヤノンの話題をお届けしよう。
キヤノン、3期連続の増収増益
1月30日、キヤノンは2023年12月期・通期(2023年1月1日~2023年12月31日)の連結業績を公表した。同期の経営成績は、売上高が前期比3.7%増の4兆1,810億円で、過去最高の2007年に次ぐ水準となった。利益面では、本業の利益を示す営業利益が前期比6.2%増の3,754億円、税引前純利益は同10.9%増の3,908億円、純利益は同8.4%増の2,645億円で、3期連続の増収増益を達成した。
同期の経営環境は、部品不足や物流逼迫による製品の供給不足が解消した一方で、インフレに伴う金融引締めや中国や欧州経済の低迷、地政学的リスクの高まりにより需要が弱含んだ。製品別では、オフィス向け複合機が中国の市況悪化による影響を受けたものの、その他地域では引き続き業務効率の高いプリント機器への根強いニーズを背景に、需要は底堅く推移した。インクジェットプリンターは在宅での印刷需要の減少、レーザープリンターは企業の投資抑制による影響を受けた。医療機器は、日本や欧州を中心に堅調に推移した。カメラ市場は、高品質な映像表現を求めるプロやハイアマチュアの需要が底堅く推移し、ネットワークカメラ市場は成長が継続した。半導体製造装置市場は、引き続きメモリ向けの需要は弱含んだものの、パワーデバイス、アナログデバイス、センサー向けなどを中心に成長した。FPD製造装置市場は、パネルメーカーが投資を控えている影響で縮小傾向が継続した。
このような環境下、同期は3期連続の増収増益を達成し、売上高で過去最高の2007年に次ぐ水準となった。
セグメント別の概況は以下の通りである。
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プリンティングビジネスユニット
プリンティングビジネスユニットの売上高は前期比3.2%増の2兆3,461億円、税引前純利益は、同3.9%増の 2,351億円と増収増益となった。
同期は、プロダクション市場向け機器において、新製品imagePRESS V1350が加わりラインアップが拡充したこと、またColoradoシリーズの新製品も好評を博したことなどにより、販売台数は前期を上回った。オフィス向け複合機は、供給不足からの回復が進み、また低中速カラー複合機のimageRUNNER ADVANCE DX C3900 シリーズを中心に販売が堅調に推移した。インクジェットプリンターは在宅需要が一巡した影響により、高水準であった前期の販売台数を下回った。レーザープリンターはカラーの中高速機で好評を得た製品があったものの、全体としては企業の投資抑制が影響し、販売台数は前期を下回った。
メディカルビジネスユニット
メディカルビジネスユニットの売上高は前期比7.9%増の5,538億円で過去最高を更新した。一方、税引前純利益は、販売力向上のための要員増強などに積極的に投資をした結果、同0.8%増の321億円となった。同期は、新型コロナウイルス禍で控えられていた大型装置の投資が回復傾向を示した。特に日本や欧州地域において、MRI装置やX線診断装置、超音波診断装置の販売が好調に推移した。
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イメージングビジネスユニット
イメージングビジネスユニットの売上高は前期比7.2%増の8,616億円、税引前純利益は同14.4%増の1,464 億円となった。同期は、レンズ交換式デジタルカメラが、一昨年発売したEOSR6 MarkⅡや昨年発売のエントリーモデルEOS R50およびEOS R100など、ミラーレスカメラの新製品を中心に堅調に推移した。レンズも、引き続きRFレンズが好調だった。ネットワークカメラは、堅調な需要に加え用途の多様化を背景に販売活動を強化し、増収となった。
インダストリアルビジネスユニット
インダストリアルビジネスユニットの売上高は前期比4.4%減の3,147億円、税引前純利益は同0.1%減の592 億円と減収減益となった。同期は、半導体露光装置がパワーデバイス向けを中心に好調に推移したものの、FPD露光装置は市況悪化に伴ってパネルメーカーが投資を控えている影響で前期を下回る結果となった。
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4期連続の増収増益を予想。増配や自社株買いも
1月30日、キヤノンは2024年12月期・通期(2024年1月1日~2024年12月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比4.0%増の4兆3,500億円、営業利益で同15.9%増の4,350 億円、税引前当期純利益で同15.2%増の4,500 億円、純利益で同15.3%増の3,050億円となる見通しを示した。見立て通りとなれば、4期連続の増収増益を達成することとなる。
キヤノンは上記予想の理由として、①ネットワークカメラなどの新規事業の市場成長、②オフィス複合機やレンズ交換式デジタルカメラなどの主力事業の新製品効果、③コストダウン活動の推進による収益力向上……を挙げている。それに伴って、2024年12月期の年間配当予想を前期比10円増の150円に増配する方針も示した。
なお、冒頭で述べた通りキヤノンは同日に発行済み株式総数の3.3%に当たる3,300万株、1,000億円を上限とする自社株買いを発表した。期間は2024年2月1日から2025年1月31日までとしている。
引き続き、キヤノンの業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)