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エッセイ:バーディー少年探偵団 vs. キリシマ

桐島聡,指名手配
(画像= 警察庁. Canva、La Caprese)

「あっ、キリシマだ!」――。その瞬間、テレビ画面に釘付けになった。

あの一文字隼人(仮面ライダー2号)のような髪型、横山やすしのようなメガネ、そしてウルトラセブンのキリヤマ隊長のような苗字。50年近く経った今でも、その記憶は脳裏に焼きついている。ニュースでは、1970年代に起きた連続企業爆破事件の容疑者の1人で、指名手配されていた桐島聡容疑者(70)とみられる男の身柄が確保されたと伝えていた。

連続企業爆破事件は1974年〜1975年にかけて、過激派の東アジア反日武装戦線が起こしたもので、三菱重工や三井物産、間組など海外に進出していた企業が相次いで標的となった。その爆破件数は実に12件に上る。東アジア反日武装戦線は、「狼」「大地の牙」「さそり」の3つのグループに分かれ、桐島聡容疑者は「さそり」に所属していた。

当時、小学生の筆者は、「狼」「大地の牙」「さそり」というネーミングから、何となく『仮面ライダー』に登場するような悪の組織を連想したのを覚えている。当時は『仮面ライダー』のほか、『少年探偵団(BD7)』『バーディー大作戦』などテレビドラマに様々な悪の組織が登場していたのだが、本当に存在するのだと恐怖を感じたものである。

あの頃は、大人だけでなく子供たちも「悪の組織」に神経質になっていたように思う。

そして、いつの日か、その連続企業爆破事件の指名手配犯を目撃したとの噂が、クラスメイトの間で広がっていった。

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「よし!俺たちで犯人を捕まえよう!」

クラスメイトの証言を整理すると、その連続企業爆破事件の指名手配犯は駅周辺で多く目撃されていた。ひょっとしたら、駅の近くに「さそり」のアジトがあるのかも知れない。

「よし!俺たちで犯人を捕まえよう!」友人の1人がそう言った。

放課後、駅前の交番に集合することになった。筆者はいざというときに備え、ソフトビニール製のヌンチャクをヤッケの下に忍ばせて行った。話を聞きつけた他のクラスの生徒も合流し、総勢20人近くに膨れ上がっていた。「バーディー少年探偵団」の結成である。

桐島聡,指名手配
(画像=2024年2月1日:交番前で筆者撮影)

「キリシマサトシ」交番の前に貼られた指名手配書の名前を読み上げた。

「ねえ、『名探偵のマル秘テクニック』で記憶を定着させるといいよ」友人の1人がそう言って、小冊子を見せてくれた。その小冊子は小学館の雑誌の付録で、記憶を定着させるには「○○○のような▲▲▲」と覚えるとよいと名探偵直伝のテクニックが紹介されていた。なるほど!

❶一文字隼人のような髪型。
❷横山やすしのようなメガネ。
❸ウルトラセブンのキリヤマ隊長のような苗字。

よし!覚えた。

目撃情報が多く寄せられた駅周辺で分担して張り込むことにした。ほどなくして、伝令が走ってきた。北口の改札からキリシマのような人物が現れた、と伝令は息を切らせながら言った。その人物は駅前商店街に向かっていて、「北口班」が尾行を開始したという。

「北口班に合流しよう!」

駅前商店街に到着すると、北口班の一人が駆け寄ってきた。キリシマのような人物は書店ビルに入ったという。その書店ビルは最近落成したばかりの5階建てのビルだった。

まさか、書店ビルが「さそり」のアジトなのか?

「行こう!」

ヤッケの下に忍ばせたヌンチャク(ソフトビニール製)を握りしめた手が汗で滲んだ。

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北口班が目撃した人物は?

書店ビルは千客万来の様相を呈していた。さすが市内最大の本屋である。特に3階のマンガコーナーは、放課後ということもあって立ち読みを楽しむ小学生でごった返していた。中には床に座り込んでマンガに熱中している者もいた。そこに総勢20人近くの「バーディー少年探偵団」が乗り込んできたのである。

「あ、ど根性ガエルの新刊が出てる!」誰かがそう言った。
「おおお!ど根性ガエルだ!」
「やった!」

3階のマンガコーナーは騒然となった。

「静かに!立ち読み禁止です!」店員のお姉さんが鬼のような形相で叫んだ。
われわれバーディー少年探偵団を含む、子供たちは全員書店ビルを追い出された。

「で、キリシマは?」――。北口班によると、3階で見失ったという。「お前らが、ど根性ガエルって大騒ぎするからだよ!」と北口班の1人が笑いながら言った。申し訳ない……。

あの日、バーディー少年探偵団の北口班が目撃した人物が、キリシマ本人だったかは定かではない。考えてみれば、あの時代は、一文字隼人のような髪型のお兄さんはたくさんいたし、横山やすしのようなメガネをかけた人も多かったように思う。その北口に現れた人物はキリシマだったかも知れないし、そうでなかったかもしれない。

「ああ、気になるな。ど根性ガエルの新刊!」友人の1人が言った。
「うん、気になる気になる!」
「よし!コバヤシ書店に行こう!」
「行こう!行こう!」

われわれは走り出した。■

P.S. その後、われわれはコバヤシ書店を追い出されたのは言うまでもない。

(La Caprese 編集長 Yukio)

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