肌あれの新たな原因の解明へ――花王の研究成果

2023年11月29日、花王（本社：東京都中央区）のスキンケア研究所・マテリアルサイエンス研究所・解析科学研究所・生物科学研究所は、分泌皮脂中の成分である不飽和脂肪酸（※1）が、皮膚のバリア機能に悪影響を及ぼし、乾燥を引き起こす可能性があることを見出す研究成果を発表した。さらに、その不飽和脂肪酸を選択的に皮膚の上でトラップするため、不飽和脂肪酸と結びつくとスポンジ様構造（図1）をとる、ヒドロキシプロピルセルロース（HPC） を活用した技術を開発した。花王の研究チームは、この技術を用いることで不飽和脂肪酸の肌への接触を抑制することにつながることが期待できるという。

なお、今回の研究成果は、第48回日本香粧品学会（2023年6月23～24日・東京都）、第74回コロイドおよび界面化学討論会（2023年9月12～15日・長野県）にて発表した。

本研究成果の概要は以下の通りである。

肌あれの新たな原因の解明へ。皮脂中の不飽和脂肪酸をトラップする新技術を開発

私たちの皮膚から分泌される皮脂は、皮膚を乾燥から守る、いわば保湿の機能を有している。一方で、肌悩みに関する調査で、肌が脂っぽいと感じている人も、肌が乾燥しているという意識のある人と同様に約4割が冬の洗顔直後には乾燥するという悩みを持っていることが判明している（※2）。花王は、この課題に対して、皮脂の皮膚状態との関係性と皮脂の皮膚への影響をあらためて調査した。

皮脂の量だけでなく質が皮膚のバリア機能や水分量に悪影響を及ぼしている可能性が明らかに

2021年5月、花王は25～45歳の男女125名を対象に、洗顔から90分後の右頬の皮脂を採取し、同時に角層水分量及びバリア機能の指標となるTEWL（経皮水分蒸散量）の計測を行い、その関連性を調べた。そして、一定の皮脂分泌量がある人（※3）と分泌量が少ない人に分けて解析を行ったところ、一定の分泌量があるグループにおいては、バリア機能が低いと、角層水分量が少ないという関係性が明らかになった（図2）。さらに皮脂に含まれる成分の質的な解析を進めた結果、皮脂中の不飽和脂肪酸比率が高いほど、バリア機能が低いことを確認した（図3）。

つまり、一定の分泌量があり不飽和脂肪酸の比率が高いと、バリア機能が低く角層水分量が少ないことが考えられ、このことは今回の解析により、初めて明らかになった。一方、分泌皮脂量が少ないグループでは、これらの関係は確認できなかった。

以上の結果から、皮脂の量だけでなく質（不飽和脂肪酸比率）の違いが、バリア機能に関与し、角層水分量の低下など、皮膚に悪影響を及ぼしている可能性が初めて明らかになった。

不飽和脂肪酸のみをトラップする技術の開発

花王は、上記の知見から皮脂に期待される保湿機能を維持しながらも、皮膚への悪影響の要因となりうる不飽和脂肪酸を低減させるための技術が必要だと考えた。そこで、不飽和脂肪酸のみをゲル化し、トラップする技術の開発に取り組んだ。さまざまなポリマーと皮脂に含まれる各成分を混合し、ゲル化するかどうかを観察した結果、ある種のHPCが、不飽和脂肪酸であるオレイン酸（OA）のみを即時的にゲル化することを見いだした（図4）。

さらに、水に溶解しやすいように加工したHPCで、このゲル化が効果的に発現し、多くのOAをトラップできることが判明した（図5）。

HPCにより不飽和脂肪酸であるOAのみをゲル化するメカニズムを探るため、詳細な解析を行った結果、HPCとOAとの間に水素結合が生じることが判明した。さらに、走査電子顕微鏡を用いて膜の解析を行ったところ、HPCとOAによって形成された膜には、独特のスポンジ様構造（図1）が確認された。HPCとOAが結合したスポンジ様構造の隙間には、多くのOAが取り込まれてゲル化していると推察される。肌の上で不飽和脂肪酸の1つであるOAをトラップすることで、皮膚に接触しにくくできれば、皮膚への悪影響を抑制する効果が期待されると考える。

皮脂が引き起こす肌あれや乾燥の悩みの解決を目指して

本研究では、皮脂の量と質が皮膚のバリア機能や水分量に悪影響を及ぼしている実態が明らかになった。その中でも、ある一定量の皮脂分泌量があり不飽和脂肪酸の比率が高い皮膚は、バリア機能が低く、水分量も低いという関係を見出した。また、皮膚への悪影響の要因になりうる皮脂成分である不飽和脂肪酸をトラップする有効な手段として、HPCが活用できることも明らかになった。

花王は本研究で得られた知見について、今後、皮脂が引き起こす肌あれや乾燥の悩みを解決するという新たな視点に立ったスキンケア製品の開発につなげる方針である。花王のさらなる研究成果を期待したい。■

（La Caprese 編集部）