2023年10月3日、東京証券取引所で北川鉄工所の株価が一時1,625円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年3月20日の安値1,046円から6カ月半で55.4%の上昇である。
北川鉄工所は、鉄製品の開発・製造・販売を手がけるメーカーである。①工作機器事業、②産業機械事業、③金属素形材事業の3つのセグメントが収益の柱となっている。工作機器事業で製造・販売されているパワーチャック(主に工作機械であるNC旋盤の主軸部に搭載される保持装置)は国内60%のシェアを占めるほか、金属素形材事業で製造されている自動車部品は、世界で生産される自動車のおよそ10台に1台に搭載されるなど、業界トップクラスを誇る。創業は1918年で、100年以上の歴史に培われた技術・信頼・実績が北川鉄工所の強みといえそうだ。
後段で述べる通り、北川鉄工所が発表した、❶2024年3月期・第1四半期(2023年4月1日~2023年6月30日)の連結業績の大幅な増収増益に加え、❷2024年3月期・通期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想を上方修正したこと等が、株価にもサポート要因となっているようだ。
今回は北川鉄工所の話題をお届けしたい。
北川鉄工所、純利益は207.3%増
8月10日、北川鉄工所は2024年3月期・第1四半期(2023年4月1日~2023年6月30日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前年同期比8.3%増の143億6,600万円、本業の利益を示す営業利益は同136.5%増の5億8,600万円、経常利益は同33.7%増の9億5,500万円となった。また、純利益は特別利益として投資有価証券売却益(5億8,700万円)の計上もあり、同207.3%増の10億3,700万円となった。
同期の世界経済は、ウクライナ情勢の長期化や世界的な金融引締め等の影響により減速感が強まった。一方、日本では新型コロナウイルス禍の行動制限緩和により、経済活動の正常化が進んだものの、消費者物価は上昇傾向にあり、海外景気の下振れリスクも相まって先行き不透明な状況が継続した。
このような経営環境下、北川鉄工所は長期経営計画「Plus Decade 2031」で掲げる世界基準の成長を目指し、事業構造の転換、経営品質の進化、人材育成などの施策を中長期的な視野で推進した。同期は、自動車部品および農業機械部品の生産量が回復したことにより金属素形材事業の売上高が増加し、工作機器事業および産業機械事業の売上も好調に推移した。また、営業利益についても、原材料価格の高騰などの影響により、工作機器事業ならびに産業機械事業は減少したものの、金属素形材事業は売上高の増加に伴い営業利益が改善したため、グループ全体では前年同期比でプラスとなった。
なお、セグメント別の概況は以下の通りである。
キタガワ グローバル ハンド カンパニー(工作機器事業)
キタガワ グローバル ハンド カンパニー(工作機器事業)の売上高は、海外子会社の増収を背景に前期比4.4%増の24億7,900万円となった。しかしながら、セグメント利益(営業利益)については、新工場への設備移設に伴う一時的な生産調整により、同14.1%減の2億7,900万円となった。
同期の工作機械業界は、設備投資需要がピークアウトを迎え、緩やかに後退した。内需では、好調を維持していた一般産業機械向けの設備投資が鈍化しつつある。また、外需もインド市場を中心とした自動車・IT関連の設備投資が活況ではあるが、中国市場の景気減退の影響もあり全体的には減速感が強まることとなった。
こうした状況下、キタガワ グローバル ハンド カンパニー(工作機器事業)はメキシコやインドを中心に海外販売網の拡大を推進した。また、経費削減や社外流出費用の抑制などキャッシュ・フローの改善にも注力した。
キタガワ サン テック カンパニー(産業機械事業)
キタガワ サン テック カンパニー(産業機械事業)の売上高は前年同期比0.6%増の45億7,900万円と横ばいだった。一方、セグメント利益(営業利益)は原材料価格の高騰の影響が大きく、立体駐車場事業の利益が減少したため、同23.6%減の3億9,800万円となった。
同期の国内建設業界は、公共投資が「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を背景に防災・減災対策、都市開発などを中心に底堅く推移した。また、民間建設投資については、原材料価格の高騰の影響を受けたものの、設備投資意欲は高く、回復傾向を示した。
このような状況下、キタガワ サン テック カンパニー(産業機械事業)では環境問題に対応した新たなコンクリートプラント設備の開発、ビル建設用クレーンの技術を活用した商品開発による新市場の開拓、スーパーロングスパンタイプ立体駐車場の拡販に努めた。
キタガワ マテリアル テクノロジー カンパニー(金属素形材事業)
キタガワ マテリアル テクノロジー カンパニー(金属素形材事業)の売上高は、自動車メーカーの生産回復に伴い自動車部品の売上が増加したほか、農業機械部品の売上も好調に推移したことにより、前年同期比13.4%増の70億6,600万円となった。一方、セグメント利益(営業利益)も、売上増加を受けて1億2,200万円(前年同期は3億7,000万円のセグメント損失)と黒字に転換した。
同期の自動車業界は、半導体などの部品の供給不足が緩和されつつあり、世界の自動車販売台数も回復傾向を示した。一方、農業機械・建設機械業界も引き続き好調であったが、北米の金利上昇等により一部で弱含みの状況も見られた。
このような状況下、キタガワ マテリアル テクノロジー カンパニー(金属素形材事業)は高騰した原材料およびエネルギー価格の転嫁、生産コストの低減を推進し収益確保に努めた。また、メキシコ子会社では自動車のEV化が進展した後も需要が見込める足回り部品の受注に注力した。
自動車部品、農業機械部品が回復
8月10日、北川鉄工所は2024年3月期・通期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比0.6減の593億5,000万円、本業の利益を示す営業利益で同412.9%増の10億円、経常利益で同54.7%増の16億円、純利益で10億円(前年同期は4億1,800万円の純損失)となる見通しを示した。これは従来見通し(5月12日公表)に比べて売上高でプラス0.9%、営業利益でプラス42.9%、経常利益でプラス45.5%、純利益でプラス66.7%の上方修正である。
北川鉄工所は今回の上方修正の理由について、第1四半期(2023年4月1日~2023年6月30日)の連結業績で自動車部品および農業機械部品の生産量が回復し、金属素形材事業の業績が改善したことを挙げている。これまでの展開は金属素形材事業が牽引役となっているが、今後は、工作機器事業や産業機械事業の業績がどこまで改善するのか気になるところでもある。
引き続き、北川鉄工所の業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)