「無邪気な笑いの何が悪いんや!」
筆者が大学生の頃だった。朝起きて居間にいくと、祖母がテレビをみていた。上記のセリフはそのテレビから流れていた。1984年に放送されたNHK連続テレビ小説『心はいつもラムネ色』のワンシーンだった。
『心はいつもラムネ色』は、漫才作家の秋田實をモデルにした物語である。戦前から戦後にかけての大阪を舞台に「お笑い」をこよなく愛した漫才作家の半生を描いたドラマであり、平均視聴率で40.2%、最高視聴率は48.6%を叩き出す大ヒットとなった(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。
冒頭のセリフは戦時中のワンシーンだったと思う。主人公が誰かに「(戦時中に)笑いなど不謹慎だ!」と非難されたのに対して、「無邪気な笑いの何が悪いんや!」と反論していたと記憶している。
「笑い」がもたらす健康効果
さて、近年は「笑い」が健康によいことを示す研究報告が示されている。
たとえば、2018年5月には大阪国際がんセンターが「漫才や落語による『笑い』によって、がん患者の免疫力向上に加え、緊張や疲労といった心身の状態も改善したことなどが確認された」と発表した。研究では漫才や落語を鑑賞した患者の血液から、免疫細胞の一つである「NK(ナチュラル・キラー)細胞」の増加が確認された。
大阪国際がんセンターの研究では上記の「NK細胞」の増加に加え、がんの痛みについても改善がみられたという。さらにこの研究では緊張や抑うつ、疲労などがん患者の「気分」についても改善が認められた。
一方、新型コロナ禍で緊急事態宣言が発令された2020年4月には福島県立医科大学医学部疫学講座で「笑いが免疫力を上げ、健康に良いこと、病気を治すこと、病気を予防すること」等が紹介されている。同講座で毎年開催している「笑って健康教室」では、(1)参加者の体重の減少、(2)筋力の増加、(3)血圧の低下、(4)ポジティブな気分になる……など「笑い」によって健康関連の生活の質が向上するなどの効果が明らかになっている。
2021年11月には台湾の中央研究院が「新型コロナウイルスに感染した細胞を『排除する速度』にNK細胞が関与している」ことを発見したと発表した。この研究成果は医学誌『Journal of Clinical Investigation』に掲載されている。また、前述の福島県立医科大学医学部疫学講座の舟久保徳美助教、大平哲教授らも大阪大、岡山大の研究者との共同研究で「笑い」が心と身体の双方によい影響を及ぼすことを示す論文を2022年4月23日付の『BMC Geriatrics』に掲載している。
病気や精神的に辛いときなどは、どうしても気持ちがネガティブになりがちである。しかし、このようなときこそ「笑い」が大切なのだろう。
机の引き出しの片隅から「想い出の品」を発見するように
ところで、話は変わるが、部屋を掃除しているときに本棚やクローゼット、机の引き出しの片隅などから懐かしい「想い出の品」を発見することはないだろうか? たとえば中学時代に片想いのクラスメイトの女性と撮った写真、当時夢中になって読んでいた漫画本、映画のチケットの切れ端などだ。思わず掃除を中断して想い出に浸ってしまう……筆者はそんな経験を何度もしている。
実は『朝散歩で一人会議』でも同じような体験をすることがある。ウォーキングをしながら、色々と考えを巡らせていると、突然昔の記憶が鮮明に蘇ることがある。そう、机の引き出しの片隅から懐かしい「想い出の品」を発見するように。冒頭で紹介した『心はいつもラムネ色』もそんな想い出の一つだ。
ものを書くというのは、なんと文化的で尊いことなのだろう。『心はいつもラムネ色』で原稿執筆に没頭する主人公の姿に筆者は憧れたものである。大学卒業後、筆者は編集出版関係の仕事に就くのであるが、その原点こそが『心はいつもラムネ色』なのだ。
社会人として様々な経験を積んでいると、いつの間にか初心を忘れてしまうことがある。もう一度、初心にかえって仕事をしたい。当サイトはそんな想いを込めて開設した。
大切なものを取り戻すと、なんともいえず爽やかで幸せな気持ちになる。
『心はいつもラムネ色』の精神を忘れずに執筆に取り組んでいきたい。■
(La Caprese 編集長 Yukio)