筆者が通うスポーツジムに「魔法の鏡」と呼ばれるものがある。
その鏡は男性用更衣室にある。60番ロッカーに隣接する壁に設置された大きな姿見だ。子どもからお年寄りまで実にさまざまな人が、代わる代わるその鏡の前に立ち、ポーズをとり、にっこりと微笑む。ときどき「おお!」「すごい!」といった声が聞こえることもある。事情を知らない人が見たら奇妙な光景に映るかもしれない。筆者もそうだった。
「みんな、鏡の前で何をやってるんだろう?」
6年前、スポーツジムに入会したばかりの筆者は思わず、その鏡の前に立って笑みを浮かべている人に聞いた。
「これは魔法の鏡なんですよ」とその人は言った。
え? どういうこと? だが、その鏡の前に立った瞬間、筆者も「おおお!」と声をあげていた。肌がキレイに見えるのだ。恐らく、間接照明の効果だと思うのだが、肌がワントーン明るく、透明感が増して見える。しかも、この鏡(間接照明)のすごいところは筋肉の陰影(カット)がくっきりと美しく見えることだ。大胸筋から三角筋、上腕三頭筋にかけての筋肉の境界線のほか、腹筋の溝も深く見える。確かに魔法の鏡だ。
肌の透明感とは「皮膚がくもりなく透き通ったように見える状態」
シミやシワ、肌の透明感など「肌の状態」を評価するポイントはいくつかある。しかし、シミやシワは誰が見てもわかるものだが、「肌の透明感」については曖昧な部分は否めない。前述の筆者が経験したように、照明の位置関係でも印象が大きく変わることもある。
ちなみに、日本化粧品工業連合会は肌の透明感について「皮膚がくもりなく透き通ったように見える状態」と定義している。本当に肌が透き通っているわけではなく、あくまで「透き通ったように見える状態」である。シミやシワは客観的な評価が可能であるが、肌の透明感(透き通ったように見える状態)についてはどうしても感覚的かつ主観的にならざるを得ない部分があった。
注目されるのは、この「肌の透明感」を客観的に解析・評価し「数値化」する手法を開発した企業が現れたことだ。これはフランスのリオンに本社を置く、肌の画像解析を専門とするNewtone Technologieseと、化粧品・医薬部外品の評価を行うDRC、および皮膚科学に特化した技術コンサルティングを提供するCIELが共同で開発したもの。2021年11月、Newtone Technologieseは、同社の画像取得・診断システム「Colorface」(用語解説参照)で取得した250名以上の女性の顔全体の画像から1,100項目以上のパラメータを抽出し、DRCの熟練技術者の目視による透明感の評価値と高精度で一致する「透明感スコア」を算出するアルゴリズムの構築に成功したと発表した。これにより、熟練技術者や複数の計測機器を必要とせず、顔全体の見た目の透明感を数値化することが可能になるという。
百聞は一見に如かず。下記の画像はNewtone Technologieseによる合成モデル(Average Face)を使用した「透明感スコア」のイメージで、「高透明度の肌→中透明度の肌→低透明度の肌」の順で表示している。同じ顔でも、「肌の透明感」でここまで印象が変わるのだ。
それにしても、人間の叡智とは本当にすごいと思う。筆者としては、肌の透明感を客観的に解析・評価し「数値化」する手法を活用することによって、より顧客満足度の高い商品の研究開発につなげられることを期待してやまない。■
(La Caprese 編集長 Yukio)