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ビフィズス菌の摂取が「認知症予防」につながる? 腸と脳が機能連関する「脳腸相関」に着目――順天堂大学の研究成果

軽度認知障害,治る ウェルビーイング
(画像= acworks / 写真AC、La Caprese)

「軽度認知障害(MCI)」をご存知だろうか? 厚生労働省が運営するe-ヘルスネットによると、「物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態」であり、「正常と認知症の中間ともいえる状態」と説明している。軽度認知障害の患者は、現在国内で約400万人いるとされており、厚生労働省が2019年6月に公表した『認知症施策の総合的な推進について』によると、軽度認知障害患者のうち年間10~30%が認知症に移行するとの試算もある。

軽度認知障害や認知症の治療に関する研究が各方面で進められる中、「発症予防」への注目も高まっている。特に生活習慣の改善など日常生活の中で気軽に実践できる有効な対策(発症予防)が求められている。そうした中で、注目されるのは2022年6月13日に順天堂大学が「ビフィズス菌の摂取により軽度認知障害患者の認知機能の改善および脳萎縮の進行の抑制を確認した」との研究成果を発表したことだ。

順天堂大学は2021年1月にジェロントロジー研究センターを設立し、健康寿命延伸の対策に取り組んでいる。また、近年腸内細菌が健康と密接に連関していることが明らかになっており、腸内細菌を含めた腸と脳が機能連関することを意味する「脳腸相関」も注目されている。今回、順天堂大学が公表した『ビフィズス菌摂取による軽度認知障害患者の認知機能改善および脳萎縮進行の抑制効果』も、そうした「脳腸相関」に着目した研究成果である。

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「軽度認知障害」患者の認知機能の改善、脳萎縮進行の抑制を確認

本研究では、軽度認知障害の患者130名を対象とするプラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施し、ビフィズス菌摂取による認知機能、MRI画像診断における脳萎縮度および腸内細菌叢への影響を確認した。

なお、プロバイオティクス試験食品の摂取については、対象者をランダムに2群に分け、ビフィズス菌を200億個含む粉末(スティック)、またはプラセボ粉末(スティック)を1日1スティック、それぞれ24週間摂取してもらい、認知機能検査(ADAS-Jcog・MMSE)を摂取前と8週間後、16週間後と24週間後の4回実施し、脳萎縮度(頭部MRI(VSRAD))と腸内細菌叢解析(糞便採取)の評価を摂取前と24週間後の2回実施した。

その結果は以下の通りである。

ビフィズス菌の摂取で「軽度認知障害」患者の認知機能が改善

ADAS-Jcog.による認知機能検査では、ビフィズス菌の摂取により、プラセボ摂取群と比較して『見当識』(※1)と呼ばれる評価項目が有意に改善されていることが明らかになった(図1)。

一方、別の認知機能検査(MMSE)では、認知機能が低い(MMSE<25)サブグループにおいて「時間の見当識」「文章書字」の項目が有意に改善していることが示された(図2) 。

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(図1) ADAS検査結果 出典:順天堂大学
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(図2) 認知機能が低い(MMSE25)サブグループ におけるMMSE検査結果 出典:順天堂大学
用語解説(※1) 見当識

見当識とは、日付や現在の時刻、場所や周囲の状況、人物の把握などを総合的に判断し、自身が現在置かれている状況を把握し理解する能力のこと。これらの能力が欠如してしまい、さまざまな日常生活を送る中で障害となってしまうと「見当識障害」と診断される。見当識障害は認知症の症状の1つでもあり、アルツハイマー型認知症の場合、物忘れの次に起こしやすい障害とされている。

なお、見当識障害には大きく分けて下記の3つ(時間・場所・ヒト)の障害がある。
(1)今がいつなのか解らなくなる「時間」の見当識障害。
(2)どこにいるのか解らなくなる「場所」の見当識障害。
(3)誰であるか認識ができない「人」の見当識障害。
見当識障害は認知症の中心的な症状である「中核症状」とされている。

ビフィズス菌の摂取が「軽度認知障害」患者の脳萎縮進行を抑制

認知障害と関連がある脳萎縮の状態を確認するツールとして、大脳萎縮の評価に有用とされているVBM(voxel-based morphometry)解析手段の中から、本研究ではわが国で広く使われているプログラム「VSRAD(ブイエスラド) 」を用いて脳の萎縮の状態を検証した。

具体的には、ビフィズス菌の摂取前と摂取24週間後に頭部MRI検査を実施し、脳萎縮の状態を評価した。その結果、摂取前後の変動値比較では、全脳委縮領域の割合の変動において脳萎縮の進行度合いに両群間で有意差(P=0.0134)が確認され、プラセボ群に比べ、ビフィズス菌摂取群では、脳萎縮の進行が抑制されたことが確認された(図3)。

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(図3) ビフィズス菌摂取又はプラセボ摂取が脳の萎縮に及ぼす影響(変動値群間比較) 出典:順天堂大学

認知機能が低い群は「ビフィズス菌の占有率が低い」

ちなみに、MMSEで認知機能が「低い群(MMSE<25)」と「高い群(MMSE≧25)」とでのサブグループ解析を行った結果、認知機能が低い群において、ビフィズス菌の占有率が低いことが確認された(図4)。

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(図4) MMSEで認知機能が高い群(MMSE≧25)と低い群(MMSE25)のビフィズス菌占有率の違い 出典:順天堂大学

腸と脳が機能連関する「脳腸相関」に注目

ビフィズス菌は、加齢とともに著しく減少することが知られている。今回、そのビフィズス菌摂取によって「軽度認知障害」患者の認知機能が改善される「脳腸相関」をあらためて確認することができた。順天堂大学は今後さらに認知機能の低下を招く疾患へのプロバイオティクスの効果や、神経疾患と腸内環境の関連性、プロバイオティクスの作用・効果等についての検証など「腸の環境と脳機能との関連性」について、実地医療の視点で確認する考えを明らかにしている。

腸内環境ならびに「脳腸相関」に注目することで、これまで治療が難しかった領域について、新たな光が見えてくる可能性に期待したい。■

(La Caprese 編集部)

特集:認知症共生社会〜予防から治療、そして共生まで
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