2023年1月17日、花王(本社:東京都中央区)の解析科学研究所・ヘアケア研究所は「頭髪表層に発生するうねりが毛流れを乱して、髪の印象を損なう原因となっている」ことを見いだし、そのうねりに「紫外線が深く関わっている」ことを発見したことを明らかにした。さらに、そのうねりの発生メカニズムを調べたところ「紫外線の影響で毛髪内部の結合が切断され、切断された一部がひずんだ状態で再結合する」ことを突き止めた。これは美容室で施術されるパーマの仕組みに似た現象である。
なお、本研究成果は、日本の学術研究団体の一つであるSCCJ(日本化粧品技術者会)主催の「第89回SCCJ研究討論会」(2022年12月1日〜2日に東京都内で開催)にて発表している。
今回は花王の研究成果を紹介したい。
なぜ、髪をめくりあげた内側ではうねりが少なく、頭髪表層ではうねりが多いのか?
毛髪一本一本の形状の不規則なうねりは、生まれつきのくせ、ヘアカラーや熱などによるダメージの蓄積が原因と考えられており、日々のヘアケアで抜本的に解決するのは困難とされてきた。花王は今回、改めて頭髪の実態について調査し、髪をめくりあげた内側ではうねりが少ない一方、頭髪表層では顕著にうねりが多く、これが髪の印象に大きな影響を与えていることを見出した(図1)。そこで本研究では、頭髪表層に特異的に発生するうねりの要因とメカニズムの解明を試みた。
紫外線とひずみの影響で、うねりが発生することを発見
実際の生活では、日中外出すると太陽光にさらされ、就寝時には枕との接触で毛髪がひずんだ状態のまま時間が経過するなど、複数の要因の影響が頭髪表層に集中すると考えられる。これらを考慮して評価(※1)した結果、太陽光照射のみでは毛髪形状に有意な変化はみられなかったが、照射後、毛髪をひずんだ状態で保持すると顕著にうねりが発生し(図2)、保持時間が長いほどうねりが強くなった(図3)。一方で、太陽光から紫外線を遮断するとうねりの発生が抑制されたことから、紫外線とひずみがうねり発生の大きな要因であることを見いだした。
頭髪の内側よりも、表層では紫外線やひずみの影響が特に大きい
毛髪を構成するタンパク質には、タンパク質をはしごのようにつなぐ「ジスルフィド(S-S)結合」が多数存在する。これまでにも紫外線の影響で「S-S結合」が切断されることは報告されていたのだが、うねり発生との因果関係は解明されていなかった。
そこで、本研究では、うねりが発生する過程における「S-S結合量」の変化を、ラマン分光法(※2)を用いて経時的に分析した。その結果、太陽光照射時は紫外線の影響で「S-S結合」が切断されて減少し、その後、急激に増加する過程と、緩やかに増加する過程があることを発見した(図4)。これは、切断された「S-S結合」の一部が、時間の経過とともに再結合していることを示す新しい知見である。さらに、「S-S再結合」とうねり発生の時間を比較すると、「図3」のうねりが徐々に強くなる時間と、「図4」の緩やかに再結合が進行する時間が合致している。この緩やかな再結合は、タンパク質間の「S-S再結合」に対応すると考えられ、うねり発生と連動していることが明らかになった。
以上により、毛髪が紫外線にさらされた後にひずんだ状態におかれると、切断された「S-S結合」がひずんだ状態で再結合し、うねりの発生につながったと考えられる(図5)。これはパーマ(※3)と類似したメカニズムであり、頭髪の内側よりも、表層では紫外線やひずみの影響が特に大きく、意図せず不規則な形状に発生したうねりが固定された状態になっていると推察される。
さまざまな髪悩みの解決に向けて
本研究の成果は、さまざまな髪悩みにつながる頭髪表層でのうねり発生メカニズムを、新たな側面から世界に先駆けて解き明かしたものである。また、うねり発生の一因である紫外線から髪を守ることは、皮膚と同様に重要であることが改めて確認された。花王は本研究で得られた知見を、毛髪に簡便に塗布できる紫外線対策製品の開発などに活かす予定である。
花王のさらなる研究成果に期待したい。■
(La Caprese 編集部)