2022年10月31日、医薬品や化粧品・食品の原料を製造する丸善製薬(所在地:広島県尾道市)は、高知大学との共同で、「若返り(rejuvenation)」に着目した研究成果を発表した。
共同研究では、皮膚老化に対する検討において、皮膚線維芽細胞を実験的に老化させた際に、ミトコンドリアの機能が主要な老化マーカーの変化に先行して低下することを確認した。さらに老化した皮膚線維芽細胞を「若返らせる」機能性成分として「ハス胚芽エキス」を見出した。丸善製薬によると、ハス胚芽エキスは今回の共同研究にて検討された作用メカニズムによって、老化に伴うシワやたるみ、乾燥などを予防・改善する効果が期待されるとしている。
なお、本研究成果は『国際化粧品技術者会(IFSCC) 2022年 ロンドン大会』において技術発表したほか、米国科学誌『Aging』にも掲載された。
今回は丸善製薬と高知大学の研究成果を紹介したい。
ハス胚芽エキスが老化した皮膚線維芽細胞のミトコンドリアの融合を促進・活性化
近年、医学分野において「加齢(aging)」と「老化(senescence)」を分けて考え、老化を治療できる症状と捉えて抑制する、さらには「若返らせる」ことで、老化に伴うさまざまな疾患や変化をその上流で食い止めることを目指した研究が進展している。丸善製薬と高知大学の共同研究では、化粧品分野への応用を目指し、皮膚線維芽細胞を用いた検討を行い、老化した皮膚線維芽細胞を「若返らせる」可能性を持つ機能性成分の探索を実施した。
共同研究では、まず最初に正常ヒト皮膚線維芽細胞を継代培養にて老化させた際の影響を評価した。その結果、ミトコンドリアの機能が主要な老化マーカーの変化に先行し低下することが確認された。
次に、ミトコンドリア機能を活性化できる成分が老化を「回復」させる可能性に着目し、ミトコンドリア膜電位上昇作用を指標としたスクリーニングを行った。その結果、75種類の植物エキスからハス胚芽エキスを見出した。また、ハス胚芽エキスは老化した皮膚線維芽細胞のミトコンドリアの融合を促進させ、その機能を活性化させることも確認された。(図1)
ハス胚芽エキスは老化した皮膚線維芽細胞における主要な老化マーカーとして知られる老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA β-Gal)の発現を抑制していた。このことから、ハス胚芽エキスが細胞の老化を「回復」させたと考えられる。(図2)
また、ハス胚芽エキスはエピジェネティック変化(DNA配列の変化を伴わない遺伝子の変化)を介して活性化されたDAPK-Beclin1経路でのオートファジー誘導により「タンパク質恒常性」を維持することで、細胞老化に伴う変化を回復させることが明らかとなった。(図3、4)
さらに、皮膚線維芽細胞の重要な働きの一つであり、老化依存的に減少するⅠ型コラーゲンおよびヒアルロン酸の産生について、コラーゲンゲルを用いた3次元培養において、ハス胚芽エキス処理により増加することも確認された。(図5)
老化に伴うシワやたるみ、乾燥などを予防・改善する効果を期待
今回紹介した丸善製薬と高知大学の共同研究では、老化した皮膚線維芽細胞において、主要な老化マーカーの発現に先立ってミトコンドリア機能が低下することを確認し、ハス胚芽エキスにミトコンドリアの再活性化を促進する作用を見出した。さらにオートファジーの再活性化を介したタンパク質恒常性の維持、老化した皮膚線維芽細胞におけるⅠ型コラーゲンおよびヒアルロン酸の産生低下回復など、ハス胚芽エキスが老化による皮膚機能の低下を改善する、つまり肌を「若返らせる」可能性が示唆された。
丸善製薬によると、ハス胚芽エキスは本研究にて検討された作用メカニズムによって、老化に伴うシワやたるみ、乾燥などを予防・改善する効果が期待されるとしている。引き続き、丸善製薬の取り組みに注目したい。■
(La Caprese 編集部)