「生活を楽しんでいる意識」が要介護認知症リスクを抑制する――。2023年10月31日、順天堂大学大学院から、そのような研究成果が発表された。順天堂大学大学院の共同研究グループ(多目的コホート研究:JPHC Study(※1))の約11年間の観察研究で明らかになったもので、生活を楽しんでいる意識が高いと、要介護認知症(※2)(以下、認知症)のリスクが低いことが確認された。共同研究グループは、本研究成果について、「自覚的ストレスをコントロールしながら、生活を楽しんでいる意識を持つことが、将来の認知症の発症予防に重要であることを強調するもの」との見解を示した。
なお、本研究成果はThe journals of gerontology. Series B, Psychological sciences and social sciences誌のオンライン版(2023年9月18日付)にて公開された。
今回は順天堂大学大学院の研究成果を紹介したい。
生活を楽しんでいる意識が高いと、要介護認知症リスクが低い
生活を楽しいと感じるポジティブな意識とその後の認知症リスク
これまでの多くの研究から、加齢、基礎的な健康状態、社会経済的状態、ライフスタイルなどが認知症発症と関連していることが判明している。そうした中、近年注目されている要因のひとつに「心理的ウェルビーイング」(※3)がある。心理的ウェルビーイングの一側面である「生活を楽しんでいる意識」を有することで周囲との関わりが肯定的になると考えられているほか、「生活を楽しんでいる意識」は高齢者の運動能力との関連も報告されている。とはいえ、認知症との関連を検討した研究はまだ少ないのが実情であった。
そこで本研究では、中年期の男女を対象として開始した多目的コホート研究において、生活を楽しいと感じるポジティブな意識とその後の認知症リスクとの関連を調べた。
約11年間の観察研究を実施
本研究では、まず、1990年に秋田県横手、長野県佐久、茨城県水戸、高知県中央東、沖縄県中部の5保健所(呼称2019年現在)管内に住んでいた約3万9,000名を2016年まで調査した結果にもとづき、調査開始5年時点の「生活を楽しんでいる意識」と介護保険認定情報から把握した認知症との関連を調べた。そして、2006年から2016年までの11年間の認知症調査期間中に、4,642人が認知症と診断されていることを確認した。さらに解析の結果、生活を楽しんでいる意識が低い人と比較して、中程度の人では25%、高い人では32%と、それぞれ統計学的有意に認知症リスクが低いことが明らかになった(図1左)。
また、脳卒中の発症登録がなされた2009年または2012年までの認知症調査期間中に診断された認知症は2,158人で、そのうち脳卒中既往のない認知症が1,533人、脳卒中既往のある認知症が625例となった。脳卒中既往の有無で分けた2タイプの認知症のいずれにおいても、生活を楽しんでいる意識が低い人に比べて、中程度(「ふつう」と回答)と高い人(「はい」と回答)では認知症リスクが統計学的有意に低いという結果となった。 (図1中央、図1右)。
次に、自覚的ストレスが生活を楽しんでいる意識と認知症の関係に与えている影響を調べるため、生活を楽しんでいる意識の調査と同時点における自覚的ストレスについても調べてみたところ、自覚的ストレスが「少ない」および「ふつう」のグループでは、生活を楽しんでいる意識が低い人と比較して、中程度ならびに高い人では認知症リスクが統計学的有意に低く、さらに脳卒中の既往のない認知症、既往のある認知症のいずれも同様となった。一方、自覚的ストレスが「多い」グループでは、生活を楽しんでいる意識と認知症リスクの間に統計学的有意な差はみられず、認知症のタイプ別に分けた解析の場合でも、生活を楽しんでいる意識と脳卒中の既往のない認知症との関連が見られなかった (図2)。
将来の認知症の発症予防のために
本研究成果は、自覚的ストレスをコントロールしながら生活を楽しんでいる意識を持つことが、将来の認知症の発症予防に重要であることを示している。一方で、順天堂大学大学院は本研究の限界として、❶調査開始時点で認知機能や認知症の既往が把握できていなかったこと、❷認知症の分類は把握していないこと、❸収入レベルなどの情報が考慮できなかったこと、❹今回調査した生活を楽しんでいる意識は心理的ウェルビーイングを大まかに把握するものにとどまるために認知症予防のための具体的な行動を特定することが難しいこと……を挙げており、今後さらなる研究が必要との見解を示している。
順天堂大学大学院のさらなる研究成果が待たれるところである。■
(La Caprese 編集部)