2023年10月26日、花王(本社:東京都中央区)ヘアケア研究所・マテリアルサイエンス研究所・解析科学研究所の研究チームは、洗髪などの物理的摩擦にも強いハイドロゲルの新素材を開発したと発表した。現在トリートメントに応用しており、今後はより幅広いヘアケア商品の開発などに活用する予定であるという。
本研究成果は、第74回コロイドおよび界面化学討論会(2023年9月12~15日・長野県)と第71回レオロジー討論会(2023年10月19~20日・愛媛県)にて発表した。
今回は花王の研究成果を紹介したい。
失われたキューティクルに代わり「髪を守り続ける」ヘアケア新素材
髪の外側を覆っているキューティクルには潤滑性があり、毛髪の絡まりやぱさつきを防ぐ重要な役割を果たしている。しかし、キューティクルはダメージを受けやすく、繰り返されるダメージによって剥がれてしまうことがある。そこで、潤滑性のある成分で毛髪表面の損傷部分を覆い、なめらかな感触にするような、剥離したキューティクルの機能を補う技術が開発されているのだが、生活中の擦れや洗髪などで徐々に落ちてしまうことが課題となっていた。
こうした状況を踏まえ、花王は「疑似キューティクル」となるような、生活中の擦れや洗髪に強くて高潤滑性を持つ素材の開発をめざし、これまでの毛髪と素材研究の知見を活かした新しい視点での検討を行った。
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高耐久性のハイドロゲルを新しいプロセスで開発
今回、花王が素材として着目したのが、柔らかくてツルツルと滑る機能を持ち、化粧品の感触調整などに使用されるハイドロゲルである。ハイドロゲルは、寒天やゼリーのような水を含んだ高分子物質の総称で、架橋と呼ばれる網目状のネットワーク構造によって水分を保持している。しかし、多くのハイドロゲルは物理的な摩擦に弱く、毛髪に使用した場合は洗髪によって徐々に流れ落ちてしまうため、耐久性の改善が必要であった。
そこで花王は、強いネットワーク構造を持つ、耐久性に優れた新しいハイドロゲルの開発を試みた。その結果、ポリクオタニウム-52(PQ-52)(※1)とアルギン酸Na(※2)からなるハイドロゲルに、ポリエチレングリコール(PEG)(※3)を加えることで、ハイドロゲル中に2種類のネットワークを形成できることを見いだした(図1)。
今回の新素材は材料を独自の方法で混合するだけの簡便な工程で作製できることもポイントである。ハイドロゲルの高耐久化研究は、これまでも盛んに行われてきたが、既存技術では何度も化学反応を繰り返す方法が一般的であった。今回の方法は工程がシンプル、かつ化粧品で使われている汎用的な素材の組み合わせのため、日常的に使うアイテムへの応用が容易だと考えられる。
毛髪上での耐久性の検証
続いて、新素材を配合したヘアトリートメントを調製し、キューティクルが剥離した髪と、剥離していない健康な髪に塗布し、すすいで乾燥した。新素材由来の成分の残留箇所を赤色でイメージング(※4)した結果、新素材の成分はキューティクル剥離部に集中的に残留し、生活を想定した1万回の摩擦(※5)や洗髪によっても残存していることが明らかになった(図2)。
また、新素材配合と無配合のヘアトリートメントを用意し、ブリーチを4回実施してダメージを与えた毛髪にそれぞれ塗布した後、洗髪(※6)を繰り返した。髪の毛の絡まり度合いをコーミングフォース測定装置によって測定すると、新素材配合ヘアトリートメントで処理した毛髪は、洗髪を繰り返しても高い潤滑性を示し(図3)、1回の処理によって潤滑機能が保持されていることが判明した。
本研究では、2種類のネットワーク構造を持たせることで、潤滑性と耐久性を両立する新しいハイドロゲルを開発することに成功した。花王は、本知見をトリートメントやヘアカラーリング製品などの開発に活かす方針である。■