2023年8月10日、ディーエイチシー(本社:東京都港区、以下DHC)は皮膚で合成されるビタミンDがNLRP1インフラマソーム※(以下、インフラマソーム)の活性化を抑制し、皮膚を炎症から守る働きがあることを発見したとの研究成果を発表した。
これまでビタミンDの不足によって皮膚の炎症に対する防御機能が低下し、皮膚炎が悪化することは広く知られていた。しかし、ビタミンDがどのように皮膚の炎症を抑えるのかは明らかにされていなかった。今回ディーエイチシーが発表した研究成果では、ビタミンDがインフラマソームの活性化を抑制することで、炎症性因子(IL-1β)の産生を防ぐメカニズムが解明された。(図1)
ディーエイチシーは、本研究成果について「皮膚のバリアに重要な役割を持つ表皮細胞を、ビタミンD補給に着目してケアするという新しいスキンケアアプローチに繋がる研究成果」との見解を示した。なお、本研究成果は学術の専門雑誌「Redox biology」に掲載されたほか、本研究成果の一部は第23回日本抗加齢医学会総会(2023/6/9-6/11)にて口頭発表した。
今回はディーエイチシーの研究成果を紹介したい。
(図1) ビタミンDはインフラマソームの活性化を抑制することで、皮膚の炎症を抑える
出典:ディーエイチシー
ビタミンDが不足すると皮膚炎が悪化する理由
皮膚のインフラマソームは、外的刺激を感知して活性化する特徴があり、細菌感染などから皮膚を防御する免疫システムである。また、乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚炎ではインフラマソームが活性化しており、皮膚炎を悪化させることも様々な研究から分かっていた。
一方で、ビタミンD不足は、乾癬やアトピー性皮膚炎の病態の悪化や罹患率の上昇に繋がることは分かっていたが(図2)、その原因は解明されておらず、ビタミンDが皮膚炎をどのように抑制しているのかについて、実証されていなかった。
そこで、ディーエイチシーはビタミンD不足によって皮膚炎が悪化する原因を解明することで、新たなスキンケアアプローチにつなげることを目的に研究に取り組んだ。
(図2) ビタミンD不足の皮膚はアトピー性皮膚炎になりやすい
出典:ディーエイチシー
ビタミンDにより、インフラマソームの活性化が抑制される
まず、インフラマソームの活性化は皮膚炎を悪化させることから、ビタミンDはインフラマソームの活性化を制御しているのではないか、という仮説を立てた。
そこで、インフラマソームを活性化させる薬剤(ニゲリシン)を添加した際にビタミンDの有無によってインフラマソームの活性化に違いがあるのか検証した。その結果、ニゲリシンのみの群と比較してビタミンDを加えた群は顕著にインフラマソームの活性化が抑制されていることが判明した(図3左図)。また、炎症性因子(IL-1β)の産生量を調べたところ、ビタミンDを加えた群では産生量が顕著に減少しており表皮細胞の炎症が抑制されていることが示唆された(図3右図)。
(図3)(左図) ビタミンDはインフラマソーム活性化を抑制する
(右図) ビタミンDはIL-1βの産生を抑制する
出典:ディーエイチシー
ビタミンD受容体との結合によりインフラマソームの活性化を抑制する
皮膚でビタミンDが働く際には、ビタミンD受容体と呼ばれる細胞内のタンパク質と結合する必要がある。そこで、遺伝子ノックダウンという手法でビタミンD受容体の働きを抑えた表皮細胞を使って、通常の細胞と比べてビタミンDの抑制効果に違いがあるのか検証した。
その結果、通常の表皮細胞と比較して、ビタミンD受容体の働きを抑えた表皮細胞ではビタミンDを加えてもインフラマソームの活性化がほとんど抑制されなかった(図4)。このことから、ビタミンDがインフラマソームの活性化を抑制するために、ビタミンD受容体との結合が必要であることが明らかになった。
(図4)ビタミンD受容体の働きを抑えた細胞では、ビタミンDはインフラマソーム活性化を抑制しない
出典:ディーエイチシー
ビタミンDは日本人の約90%が不足している
本研究では、皮膚で合成されるビタミンDは皮膚のビタミンD受容体に結合することでインフラマソームの活性化を抑制し、皮膚を炎症から守る働きがあることが明らかとなった。このことから、皮膚へビタミンDを補給することで、皮膚の炎症を防ぐことができる可能性が示唆された。
ちなみに、ディーエイチシーは「ビタミンDは日本人の約90%の人が不足していると言われています。今回の研究成果を元に、不足しがちなビタミンDを補給することで皮膚の健康を保つことに繋がる新たなアプローチによるスキンケアの開発を目指します」との考えを明らかにした。
ディーエイチシーの新たなスキンケアの開発が期待されるところである。■
(La Caprese 編集部)