2023年3月2日、ファンケル(本社:神奈川県横浜市)は、「脳のストレス反応と腸内細菌には関連があり、ストレス反応が高い人ほど、腸内細菌のバランスがうつ病患者のそれと部分的に類似していることが確認された」との研究成果を発表した。
本研究では健康な人を対象に、心理社会的ストレス(※1)を感じている際の脳におけるストレス反応と腸内細菌(※2)の関連について、さまざまな測定と分析を行なった。その結果、前述の通り、脳のストレス反応と腸内細菌には関連があり、ストレス反応が高い人ほど、腸内細菌のバランスがうつ病患者のそれと部分的に類似していることが確認された。
ファンケルは本研究成果について「うつ病などの精神疾患がなくとも腸内細菌が心理社会的ストレスに対する脆弱性と関連している可能性が示唆された」との見解を示している。なお、本研究成果は、国際学術誌“Neurobiology of Stress”にも掲載された。
今回はファンケルの研究成果を紹介したい。
腸内環境を整えることがストレス対策につながる可能性
ストレスを感じているときに腹痛など胃腸の不調を感じやすい人が多いように、脳と腸と腸内細菌はお互いに関係が強く、心理社会的ストレスに影響を及ぼすことが知られている。しかし、ストレスに関わる脳機能と腸内細菌に関する研究は、うつ病患者を対象としたものが多く、健常者についてはあまり知られていないのが実情であった。
そこで、ファンケルは、健康な人の間でもストレスの感じ方には個人差があることから、健常者におけるストレスと脳と腸内細菌の関係を検討することは、ストレスに関連のある疾患予防につながると考えた。本研究では、うつ病との関連が強い心理社会的ストレスと、それに関わる脳活動について、健康な男性を対象に前頭葉における心理社会的ストレス反応と腸内細菌の関係を検討した。
脳活動、心拍数、主観的ストレスの測定結果
まず、25歳から45歳の健康な右利きの男性60人を対象とし、上記の「3種類の実験条件(*)」を設定し、それらを行っている間の脳活動と心拍数を測定した。脳活動は、光トポグラフィ装置(※3)を用いて酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度変化量(※4)を測定、心拍数は生体信号収録装置(※5)を用いて測定した。さらに、各実験条件を行った後に「どのくらいストレスを感じたか」といった主観的ストレスも測定した。
結果は、脳活動を測定したところ、ストレス条件で心理社会的ストレスやネガティブな感情と関連があると報告されている脳領域(右前頭前野背外側部 ※6、前頭極 ※7、右下側頭回/三角部 ※8)において、有意な活動の上昇が見られた(図1、赤枠部分)。
(図1) 出典:ファンケル
ちなみに、暗算の成績は、ストレス条件のほうが非ストレス条件よりも有意に悪かったことが判明した。また心拍数(図2)と主観的ストレス(図3)の測定結果については、共に、ストレス条件>非ストレス条件>レスト条件の順に、心拍数や主観的ストレスが有意に高かったことを確認した。
(図2、図3) 出典:ファンケル
以上の結果から、暗算時の時間制限などを含むストレス条件では、心理社会的ストレスが生じていたことが確認された。
腸内細菌の分析と結果
一方、測定の前日または当日に採取した便から腸内細菌を分析したところ、大変興味深い結果が得られた。本測定の結果より、心理社会的ストレスに関連する脳活動が高い人(ストレスを感じやすい人)ほど、腸内細菌の中でProteobacteria(図4)の占有率(※9)が有意に高く、Firmicutes(図5)の占有率が有意に低いことが明らかになった。この傾向は、ストレスに対して脆弱であるうつ病患者の腸内細菌のバランスと類似している。
(図4、図5) 出典:ファンケル
さらに細かく確認した結果、ストレス条件時に脳活動が高い人ほどSutterella、Alistipes、Clostridium IV の占有率が有意に高く、Faecalibacterium、Clostridium XI、Blautiaの占有率が有意に低いことが判明した。特にFaecalibacteriumはうつ病患者の中でも、症状が高い人ほど少ない腸内細菌として知られている。
以上の結果から、心理社会的ストレスと腸内細菌の間に関連があり、心理社会的ストレスを感じやすい人ほど、うつ病患者と腸内細菌のバランスが部分的に似ている可能性が示唆された。■