忙しい現代人にとって「心理的ストレス」やそれが一因となって引き起こされる肌トラブルは、日常的に感じる悩みの一つである。そうした中で注目されるのは、化粧品大手のコーセー(本社:東京都中央区)が2023年2月6日に「心理的ストレスにより分泌されるホルモンの一つであるアドレナリンが表皮の『タイトジャンクション』の構造の乱れや表皮の炎症を引き起こし、『タイトジャンクション』が担う肌のバリア能を低下させる」との研究成果を発表したことだ。
タイトジャンクションとは、表皮の顆粒層において、隣り合う細胞と細胞の間を隙間なく塞ぐ強固な「肌バリア構造」のこと。これまでにもストレスによって肌バリアの機能や回復力が低下することが報告されており、肌バリアの乱れは乾燥や肌あれ、痒みなどの症状を引き起こすことから、さらなるストレスの引き金にもなりかねない。(図1)
そこで、コーセーは上記の負のループを断ち切るため、ストレスにより分泌されるホルモンであるアドレナリンと肌バリアにとって重要なタイトジャンクションの関係に着目し、ストレスが肌バリア能を低下させるメカニズムの解明に取り組んできた。その結果、オタネニンジン根エキスがアドレナリンによって誘発される炎症を抑制することを突き止めた。
なお、本研究成果の一部は、2022年3月に開催された「第142回日本薬学会(名古屋)」、および2023年2月に開催された「31ST SKIN SCIENCE DAYS(リヨン、フランス)」にて発表されている。
今回はコーセーの研究成果を紹介しょう。
アドレナリンとタイトジャンクションの関係に着目
前述の通り、タイトジャンクションは表皮の顆粒層において、隣り合う細胞と細胞の間を隙間なく塞ぐ強固な肌バリア構造である。表皮細胞をタイルに例えると、タイトジャンクションはタイルとタイルの間を埋めて目地のように接着する役割をしており、強固なタイトジャンクションバリアが形成されていれば、外部からの異物の侵入や肌内部からの水分蒸散を防ぐことができる。
本研究では、ヒトの表皮を実験的に再現した3次元表皮モデルにアドレナリンを添加して、タイトジャンクションや肌バリア能への影響を検証した。その結果、アドレナリンの添加によりタイトジャンクションの像が不明瞭になり、細胞同士の接着に乱れが生じている可能性が示された(図2)。
また、表皮モデルのバリア能を表す電気抵抗値の低下に加え、タイトジャンクションの主要な構成タンパク質であるオクルーディンの遺伝子発現量の低下も認められた(図3)。このことから、アドレナリンはタイトジャンクションの形成不良を介して肌バリア能を低下させることが明らかになった。
アドレナリンが表皮の炎症を誘発していた!
次に、炎症によってタイトジャンクションバリアが低下することが知られていることから、アドレナリンが表皮の炎症に与える影響を検証した。その結果、アドレナリンを添加した表皮細胞における、炎症性因子IL-6の増加が認められた(図4)。このことから、アドレナリンは表皮において炎症を誘発し、タイトジャンクションバリアをさらに低下させる一因となると考えられる。
オタネニンジン根エキスがアドレナリンによる炎症を抑制する
ところで、オタネニンジン根エキスは古くから疲労回復などに有効な生薬として用いられ、根には有用成分が豊富に含まれている。そこで、このエキスのアドレナリンによって起きる炎症に対する効果を検証するため、同エキスとアドレナリンを加えた表皮細胞の炎症性因子IL-6の遺伝子発現量を解析した。その結果、オタネニンジン根エキスを添加した表皮細胞では未添加の細胞よりもIL-6の発現量が低下しており、同エキスはアドレナリンによる炎症を抑制する効果をもつことが見出された(図5)。
心身ともに健やかになれるウェルビーイングを視野に入れて
本研究から、心理的ストレスに伴う肌トラブルにはアドレナリンによる炎症と表皮タイトジャンクションのバリア低下がその原因の一端になっている可能性が示された。さらに、オタネニンジン根エキスはアドレナリンによる炎症を抑制することから、ストレスによる肌トラブルを防ぐうえで有用な素材であると考えられる。
コーセーは本研究の知見を今後のスキンケア製品に応用する方針である。また、ストレスによって起きる肌トラブルのメカニズムのさらなる解明や、心身ともに健やかになれるウェルビーイングを視野に入れた研究を継続することで、消費者の肌悩みに寄り添い、QOL(クオリティ オブ ライフ=生活の質)の向上に尽力する考えである。
コーセーのさらなる研究成果を期待したい。■
(La Caprese 編集部)