肌の弾力と毛細血管の関係性を解明――大手化粧品メーカーの資生堂がそんな研究成果を発表したのは、2019年10月16日のことだった。肌内部の血管を3次元で観察する独自技術を用いて、肌の弾力に毛細血管が関与していることを初めて解明したのである。
肌の弾力低下はシワやたるみ等の原因となるのだが、研究では20代の肌のように高い弾力を示す場所では、毛細血管が太く、高密度で存在していることが判明した。さらに、毛細血管の周囲でコラーゲンが産生されることも確認できた。これは、毛細血管が肌の弾力の維持に関与している可能性を示唆するものだ。
資生堂は、その後も毛細血管が肌の弾力を生み出すメカニズムに関する研究を継続した。そして、2020年5月25日に、加齢や紫外線などのダメージで細く衰える毛細血管を太く丈夫な状態に保つためにニーム葉抽出液やドクダミ抽出液が有効であることを発見した。毛細血管をケアすることでシワやたるみなど肌の弾力低下によって生じる肌悩みを防ぎ、ハリのある肌へ導く可能性が見出されたのである。
今回は資生堂の研究成果を紹介したい。
太い毛細血管をつくるには? カギを握る弾力センサー「APJ」
本研究では、毛細血管中に存在する因子「APJ」(図1)が周囲の弾力を感知して毛細血管の太さをコントロールする「弾力センサー」として働くことを発見した(図2)。


さまざまな弾力の肌モデルを用いた実験において、適度な弾力の環境下では「APJ」の発現が高まり、毛細血管が太くなることを確認した。一方、弾力が失われた環境下では「APJ」の発現が減少し、毛細血管は細く不安定になることが判明した。そこで、「APJ」の発現量を実験的に高めたところ、弾力のない環境下でも太い毛細血管を導くことに成功した。
「VE-カドヘリン」が丈夫な毛細血管をつくるカギとなる
ちなみに、弾力を感知して太い毛細血管へ導く「APJ」の下流では、血管内皮細胞同士の接着を良好にし、血管を丈夫にする「VE-カドヘリン」という因子が働いている。本研究では、「VE-カドヘリン」が低下した毛細血管は細く衰えていくことが明らかになった(図3)。

さらに、肌モデルを用いた実験で、毛細血管で「VE-カドヘリン」が低下すると、肌の弾力も低下することが判明した。
毛細血管を太く丈夫な状態に保つ薬剤の探索
本研究により、加齢や紫外線などのダメージは、肌の弾力を低下させて弾力センサーである「APJ」の発現を減少させていると考えられる。また、「VE-カドヘリン」の機能低下が引き起こされることも判明した。
そこで、資生堂は毛細血管を強化する薬剤を探索した結果、(1)ニーム葉抽出液に「APJ」の発現促進効果があること(図4、5)、(2)ドクダミ抽出液に「VE-カドヘリン」の産生促進効果があること(図6、7)を確認した。




本研究では肌の弾力を向上させ、ハリのある肌に導くには「太く丈夫な毛細血管を維持すること」が大切であることが示唆された。資生堂のさらなる研究成果が期待されるところである。■
(La Caprese 編集部)