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「歯の喪失リスク」は肥満度が高い人ほど増大する――滋賀医科大学とサンスターの研究成果

歯の喪失,リスク
(画像= FineGraphics / 写真AC、La Caprese)

肥満度が高いと歯の喪失リスクが増大する。――2022年9月26日、滋賀医科大学(滋賀県大津市)とサンスター(大阪府高槻市)の共同研究で、そのような結果が明らかになった。

共同研究では、年代ごとにBMI (体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)と歯の本数の関係を分析するとともに、肥満者(BMI ≥25)と非肥満者の歯の喪失部位の比較を行なった。その結果(1)40代以上においてBMIが高いほど歯の本数が少ないこと(2)肥満者は非肥満者に比べて大臼歯部 (奥歯) から歯を喪失していくこと(3)肥満に喫煙習慣が加わることで歯の喪失リスクは増大し、肥満が影響する部位と異なる部位の歯の喪失にも影響をおよぼす……ことが明らかになった。これまでも、肥満が歯の喪失と関係することは知られていたが、今回20万人を超えるビッグデータを用いたことで、より詳しい実態が明らかとなった。なお、本研究成果は2022年 9月 14日にPLOS ONE誌にオンライン公開された。

今回は滋賀医科大学とサンスターの研究成果を紹介したい。

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20才から74才までの男女23万3,517人を対象に分析

口腔と全身の健康状態にはさまざまな関連があることが、かねてより知られている。たとえば、2021年には滋賀医科大学とサンスターの共同研究により、「30代から血糖コントロールが悪いほど歯の本数が少ない」ことが明らかになり、Diabetology International誌にて発表している。

一方、肥満については糖尿病だけでなく、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病、心血管疾患、腎臓病、ガンなどのさまざまな病気の重要な「リスク因子」であることが知られている。ちなみに、2019年に厚生労働省が公表した『令和元年国民健康・栄養調査』によると男性の33.0%、女性の22.3%が「BMI ≥25」の肥満者に該当すると推計されており、肥満は身近な健康問題といっても差し支えない。

最近の研究により、肥満は歯周病の発症や進行のリスクを増大させること、肥満者はう蝕リスクが高いことが示され、また、肥満が歯の喪失リスクとなることも報告されている。しかしながら、肥満が残存歯におよぼす影響を年代別、歯の部位別に検討した大規模な研究はされてこなかったのが実情であった。

そこで滋賀医科大学とサンスターは、本研究において、診療報酬明細書と定期健康診断結果から構成される大規模データベースを用いて、肥満が歯の残存におよぼす影響を年代や歯の部位ごとに分析した。同時に、肥満の歯の喪失に対する影響について、他の主要なリスク因子である喫煙や糖尿病の指標などの関与も考慮して分析を行なった。

本研究の対象者は、複数の健康保険組合の定期健康診断受診者約70万人のうち(1)2015年度に歯科受診歴があり(2)歯の本数とその部位が確認でき(3)健康診断におけるBMIとHbA1cのデータ、喫煙習慣の問診回答を有する、20才から74才までの男女23万3,517人である。

BMIが高い群ほど歯の本数が少ないことが明らかに

結果は、40代以上の各年代で「BMIが高い群ほど歯の本数が少ない」という連続的な関係性が示された (図1)。一般的に歯の喪失が起こり始める50代よりも若い段階で、肥満度が高いほど、歯を喪失しやすい傾向が認められた。

歯の喪失,リスク
(図1) 出典:サンスター

肥満に喫煙習慣が加わると「歯の喪失リスク」はさらに増大

また、下記「図2」が示す通り非肥満者(BMI 25未満;上段)と比較して肥満者(BMI 25以上;下段)では多くの部位の歯を失っており、30〜60代のいずれの年代においても大臼歯 (奥歯) および上顎中切歯の保有者率が有意に低いことが判明した。上顎の多くの歯においては、40代ですでに両者の保有者率に顕著な違いが認められた。また、肥満による保有者率低下の影響がもっとも大きく観察された歯の部位は、下顎の大臼歯であることが明らかとなった。さらに、肥満に喫煙の条件が加わると、保有者率が有意に低い歯の部位がさらに増え、肥満のみとは異なる部位の歯の喪失にも影響することも明らかとなった。

歯の喪失,リスク
(図2) 出典:サンスター

ちなみに、本研究では、肥満は性別、年齢や喫煙、糖尿病の指標と独立して歯の喪失のリスクとなることも判明した。

歯の喪失を防ぎ、QOL(生活の質)を維持するために

2022年6月に閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)』において、歯科に関わる方針として、全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討などのいくつかの方針が明示されたことは記憶に新しい。

歯の喪失を防ぎ、どのような食べ物もしっかり噛んでおいしく食べることは、QOL(生活の質)を維持し、全身の健康の増進にも寄与する。本研究は、肥満にならないよう日頃から生活習慣の改善に努めることの大切さを改めて示した内容といえるだろう。■

(La Caprese 編集部)

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