2023年12月18日、KPMGコンサルティング(本社:東京都千代田区)は、テクノロジーに関する組織の優先課題とその実行計画、企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の次の段階の展望についてまとめた「KPMGグローバルテクノロジーレポート2023」(日本語版)を発表した。
「KPMGグローバルテクノロジーレポート2023」は、KPMGが20年以上にわたりCIO(最高情報責任者)とテクノロジーリーダーを対象に実施してきた「CIO調査」の調査内容を発展させ、世界16ヵ国、9つの業界の大手企業の上級管理職者2,100名を対象に実施した調査と、7名の上級レベルのテクノロジーリーダーと専門家へのインタビュー内容をまとめたものである。
同レポートでは、①回答者の多くが、テクノロジー投資によって10%を超える収益や業績の向上が得られたと考えていることや、②今後2年間でESG課題への取組みがテクノロジー部門の主要なイノベーション目標となるとしていること、③AI(人工知能)が企業の短期的なビジネス目標を達成するために最も重要なテクノロジーであると認識していること……などが判明している。
同レポートの概要は以下の通りである。
KPMGコンサルティング「KPMGグローバルテクノロジーレポート2023」
テクノロジー投資は成果を生んでいる
回答者の多くが、テクノロジー投資によって10%を超える収益性や業績の向上が得られたと考えており、昨年の調査における約2.5%を大幅に上回った。さらに、収益性や業績の向上に加え、DXの取組みにより生産性の向上、効率向上とコスト抑制、カスタマーエンゲージメントの向上、従業員満足度の向上、新規ビジネス開発の後押し、イノベーションの可能性の増大などが挙げられている。
先端テクノロジー導入への経営層からの賛同は飛躍的に増加
近年のDXの成功を背景に、多くの組織が確かな手応えを実感しており、73%が今後も既存のテクノロジースタックを利用して成長できると回答している。さらに、38%の回答者が最新のツールや先端テクノロジーの導入に対して経営層の賛同が得られるようになったと回答しており、わずか10%だった昨年の調査結果から大きく増加した。業種別では、製造業では50%となり、次いでエネルギー産業と政府機関(いずれも44%)、ヘルスケア産業(43%)と続いている。
テクノロジーリーダーは、DX戦略に費やす多大な労力を無駄にしないために、明確な意図を持ってサイバーセキュリティに取り組んでいる。DXと最新テクノロジーの導入がサイバーセキュリティのリスクを増大させ、トランスフォーメーションプロセスのなかでセキュリティを重視しない企業は、顧客からサプライヤーに至るステークホルダーとの信頼関係を損なうことになる。今回の調査からは、63%がサイバーセキュリティとプライバシーの改善がロイヤルティを高める優れた顧客体験を提供することに役立つと回答していた。また、71%の回答者が、テクノロジーの導入時に信頼、セキュリティ、プライバシー、レジリエンスを積極的に組み入れたいと考えていることが明らかになった。
ESGはテクノロジーイノベーションの最優先課題
デジタル投資の重点領域については、カスタマーエンゲージメントとサイバーセキュリティの向上が昨年に続き上位に挙げられたが、今年の調査では多くの企業が最優先課題としてESG関連の目標を挙げている。ESGへの取組みの強化について、昨年はDXの取組み分野として最下位に位置付けられていたが、今年の調査結果では回答者のほぼ半数(48%)が、今後2年間でESG課題への取組みがテクノロジー部門の主要なイノベーション目標になると回答している。
回答者のほぼ4分の3(72%)が、業績のモニタリングやレポート管理、改善点を特定するためのデータアナリティクスツールの利用など、既存のテクノロジースタックを活用して短期的なESG目標を推進できると確信していることが判明した。一方、企業がそれぞれの目標を達成するためにどのようにテクノロジースタックを強化させる計画があるかを調べてみると、多くの組織が新しいテクノロジーへの投資に対して不安感を抱いていることも判明した。また、67%の回答者が、昨年よりも少ない予算でより多くの成果を上げることが期待されていると回答しており、日本を含むアジア太平洋地域ではこの数字が72%に上っている。
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AIは引き続き注力領域に
半数以上(57%)の回答者が、生成AIを含むAIと機械学習を短期的なビジネス目標を達成するために最も重要なテクノロジーであると見ており、2番目に挙げられたエッジコンピューティング(42%)を大きく上回った。さらに、テクノロジー先進企業に至っては、全体平均を上回る68%がAIと機械学習は短期的な目標を達成するために非常に重要と回答している。
連携を欠くテクノロジー部門こそが、DXの進捗を妨げる最大の要因
今回の調査で回答者の多くが、DXの成功を危うくするボトルネックとして「文化」「コラボレーション」「コミュニケーション」を指摘していた。
また、連携の欠けたテクノロジー部門こそが、DXの進捗を妨げる最大の要因だと多くの回答者が考えていることも伺えた。回答者のほぼ半数の46%が、自社のテクノロジー部門はトランスフォーメーションの取組みを効果的にサポートするために必要となるガバナンスと連携が不十分だと回答し、36%の回答者が自社の文化をリスク回避型であると評価するとともに、組織内のスキル不足を懸念している。
コミュニケーションは、社内の部門間だけでなく上層部との間でも活発に行われる必要があり、特にテクノロジーリーダーの多くは、DXの取組みを成功させるために経営層の積極的な支持が必要と考えている。回答者の69%は新しいテクノロジーの可能性をより効果的に経営層に説明できるようになる必要があると回答しており、日本を含むアジア太平洋地域ではこの数字が80%に上っている。
さらに、コミュニケーションの問題は外部のパートナーにまでおよんでおり、57%の回答者がベンダーとの長期契約が新しいテクノロジーへの投資を妨げていると回答し、回答者の42%が拡大の一途をたどるパートナーとベンダーのエコシステムを管理する必要性がテクノロジースタックの課題となり、イノベーションを脅かしていると回答している。