2023年7月24日、東京証券取引所で日本ハムの株価が一時4,119円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年1月16日の安値3,555円から6カ月ほどで15.9%の上昇である。
日本ハムは、大阪府大阪市に本社を置く大手食品加工メーカーである。その源流は、1942年に徳島県徳島市にて創設した徳島食肉加工場にまでさかのぼる。以来、時代のニーズに応じた商品を提供し続けており、創業81年目を迎える現在は、ハム・ソーセージを筆頭に、食肉、加工食品、水産品、乳製品などさまざまな「食」の領域で事業を展開している。
後段で述べる通り、日本ハムが5月10日に発表した2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績は大幅な減益となったものの、2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想については大幅な増益に転じる見通しが示されるなど、業績回復期待がサポート要因となっているようだ。
今回は日本ハムの話題をお届けしよう。
日本ハム、2023年3月期は大幅な減益
5月10日、日本ハムは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前期比9.4%増の1兆2,597億9,200万円、事業利益は同46.8%減の255億9,600万円、税引前当期利益は同57.2%減の221億6,200万円、最終利益は同65.4%減の166億3,700万円となった。
同期は、食肉事業および海外事業において食肉相場の高騰によって販売価格が上昇したこと等により売上高が伸長したものの、利益面では原燃料価格などの大幅な上昇分を全て吸収することができず大幅な減益となった。
主要セグメントの概況は以下の通りである。
加工事業本部は厳しい収益環境が続く
加工事業本部の売上高は前期比15.9%減の4,177億3,800万円、事業利益は同65.8%減の50億1,800万円と減収減益となった。
同期は、新型コロナウイルス禍の行動制限緩和などを背景に業務用商品が伸長したものの、価格改定後の商品動向の変化からコンシューマ商品が減少したことが影響して、売上げは前年を下回った。また国際的な穀物価格や原油価格の上昇、為替の円安進行などを背景とした想定を上回る原燃料価格の上昇に伴い、厳しい収益環境となった。
ハム・ソーセージ及びデリ商品事業においては、価格改定を実施したことで販売単価は上昇したものの、主力ブランド商品が想定以上に伸び悩んだ。ハム・ソーセージ部門は、業務用商品が前年を上回ったが、コンシューマ商品は主力の「シャウエッセン」でテレビCMを導入し販促を強化したことで回復基調にあるものの、上期までの落込みをカバーできずに前年を下回った。デリ商品部門は、業務用商品が外食チャネル向けで前年を上回ったものの、コンシューマ商品は主力のチルドベーカリーがスナック需要の拡大から好調に推移する一方で、「中華名菜」の回復が遅れたことが響き、前年を下回った。
一方、エキス・一次加工品事業は、エキス部門が外出自粛の緩和に伴いラーメン店を中心とした外食チャネル向けスープや、中食チャネル向け業務用たれが好調に推移した。しかし、一次加工事業部門は未加熱加工品の中食チャネル向け販売が減少し前年を下回った。
乳製品・水産事業は、チーズ部門で主力の業務用商品が外出自粛の緩和に伴い外食チャネル向けの売上げが伸長した。また、ヨーグルト・乳酸菌飲料部門は、価格改定後の商品動向の変化によりコンシューマ商品の主力「バニラヨーグルト」の量販店チャネル向けの売上げが減少したものの、CVSチャネル向けドリンクヨーグルトの伸長などにより、前年並みとなった。
食肉事業本部は増収減益
食肉事業本部の売上高は前期比9.8%増の7,501億900万円、事業利益は同18.2%減の290億8,200万円と増収減益となった。
同期は、国内事業の生産部門においてコスト低減に注力したものの、第3四半期から継続して飼料価格およびエネルギー価格の高止まりが影響し苦戦を強いられた。また、社外からの調達強化や生産性向上による数量確保にも努めたものの、国産豚は拠点再編計画による自社処理量の減少、国産鶏では鳥インフルエンザ発生の影響により出荷量が減少した。豚肉、鶏肉の相場が堅調に推移したことにより売上げは前年を上回ったが、生産コスト増加が響き減益となった。
一方、輸入調達部門では主要国生産量が伸び悩む中、世界的な需要回復基調によって調達価格は高値が継続した。外食向けの売上げは回復基調にあるものの、業界全体での国内在庫増加から価格転嫁が進みにくく、大幅な減益となった。
また、販売部門では、消費者の節約志向の高まりなどによる量販店の需要減少が継続する中、国産鶏肉「桜姫」の20周年キャンペーンの実施などで販売量の維持に努めた。インバウンドの急回復、新型コロナウイルス禍の行動制限緩和により外食チャネルを中心に売上げが伸長した結果、売上げ・利益ともに前年を上回った。
海外事業本部は事業損失に転落
海外事業本部の売上高は前期比20.1%増の3,214億2,900万円、事業損失は50億3,600万円(前期は24億900万円の事業利益)となった。
同期は、アジア・欧州事業の加工品販売がベトナム・台湾で順調に推移したことに加え、トルコでの鶏肉販売も高値を維持したことにより、売上げは前年を上回った。しかし、利益面ではタイにおける加工品原料高、トルコにおける継続的な穀物飼料高の影響などにより減益となった。
米州事業では、米国の加工食品の販売、チリでの豚肉輸出が好調に推移したことにより、売上げは前年を上回った。一方、利益面では米国での輸出用豚肉原料価格、加工品原料価格が安定したこと、また加工品販売、現地営業による取引条件改善により、増益となった。
豪州事業では、オーストラリアで牛集荷に苦戦する中、輸出における相場高、および同国内販売が好調に推移したことに加え、ウルグアイにおいても輸出相場が高値で推移したことにより、売上げは前年を上回った。利益面では、オーストラリアで牛集荷価格が高値で継続したことや、工場稼働率低下による生産コスト高の影響で減益となった。また、ウルグアイにおいても牛集荷価格の高値継続や人件費高騰などにより、減益となった。
その他は、北海道日本ハムファイターズが回復傾向
その他の売上高は前期比23.5%増の170億5,200万円、事業損失は4億8,300万円(前期は15億6,900万円の事業損失)となった。
同期は、球団事業の北海道日本ハムファイターズにおいて、2022年レギュラーシーズンをパシフィック・リーグ6位で終えた。新型コロナウイルス禍で安全・安心な観戦環境を整えた上で各種の動員施策を実施したことにより、観客動員は増加し、売上げ・利益ともに前年を上回った。
一方、中央研究所で取り組んでいるヘルスサポート事業では、ゼロコロナ政策が緩和された中国にて開催された「Food Ingredients China 2023」に出展し、機能性食品素材を紹介するなど、積極的な販促活動を行った。食品検査キットについては、新たに特定原材料に指定された「くるみ」を検査するキットを開発し、3月下旬に上市した。
また、新規事業ではDtoC(Direct to Consumer)事業の「Meatful」「Table for All」の売上げ拡大に向けた取組みを実施した。新たにサステナブル事業として「Mealin’Good」(ミーリングッド)のブランド立ち上げを行い、限りある資源の有効活用や新たな食の選択肢を増やすための取組みを強化した。
“たんぱく質を、もっと自由に。”を目指して
5月10日、日本ハムは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比0.0%増の1兆2,600億円、事業利益は同48.5%増の380億円、税引前当期利益は同53.4%増の340億円、最終利益は同38.2%増の230億円と大幅な増益となる見通しを示した。
日本ハムは、今後の経済環境について、新型コロナウイルスの第5類への移行もあり社会経済活動は正常化に向かい外食市場の回復、インバウンド需要の拡大などが見込まれる一方で、ウクライナ情勢の長期化による地政学的リスクの増大、原燃料価格などの高騰によるコストプッシュインフレの影響、金融政策の動向など不透明な情勢が継続するとの認識を示した。
こうした状況下、日本ハムは「2030年におけるありたい姿」として掲げたニッポンハムグループ「Vision2030」“たんぱく質を、もっと自由に。”の実現に向けて引き続き事業戦略とサステナビリティ戦略の融合による財務価値および社会価値の向上に取り組む方針を示した。
まず、加工事業では、主力ブランド商品の販売強化、最適生産体制の構築、新設したマーケティング組織による顧客視点の商品開発とブランディング強化によりコスト競争力を高める。食肉事業では、重点チャネル別専門組織の強化、輸入食肉の調達体制の再構築および需給予測高度化を進めるとともに、生産事業の生産性を高め、利益を伴う食肉シェア拡大に取り組む考えを明らかにした。
一方、海外事業では、北米加工品マーケットへの集中・売上げ拡大、牛肉事業の収益安定化などにより収益性の改善を図るほか、ボールパーク事業では「北海道ボールパーク F ビレッジ」全体で集客する新たなビジネスモデルにより利益を創出する方針を示した。さらに、植物由来たんぱく質商品の拡充や細胞性食品といった新たなたんぱく質の実用化を引き続き推進する考えを明らかにするとともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進についても継続して効果の最大化を図る方針を示した。
なお、日本ハムは2024年3月期の年間配当について前期比2円増配の112円とする方針を示している。
引き続き、日本ハムの業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)