2023年7月14日、東京証券取引所でJ-オイルミルズの株価が一時1,640円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年1月16日の安値1,487円から6カ月で10.3%の上昇である。
J-オイルミルズは、油脂事業およびスペシャリティフード事業を収益の柱とする食品メーカーである。油脂事業は主に海外から穀物を輸入し、油脂と油糧の2つに加工して販売する事業で、業務用から家庭用まで多様な製品を取り扱っている。一方、スペシャリティフード事業では、健康志向や環境への配慮といった社会背景から世界的に注目されている乳系プラントベースフード(PBF:植物性代替食品)事業のほか、トウモロコシやタピオカを原料としたスターチ製品の開発・販売、サプリメントや加工食品、香粧品向けの機能性素材、大豆たんぱく食品の開発・販売などを手がける食品素材事業を展開している。
後段で述べる通り、J-オイルミルズが5月11日に発表した①2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績で、本業の損益を示す営業損益が黒字に転換したほか、②2024年3月期(2023年4月 1日~2024年3月31日)の連結業績予想についても大幅な増益となる見通しが示されたこと、③2024年3月期の年間配当を前期に比べ15円増配の35円とする方針を示したこと、④さらに、先週7月12日に家庭用オリーブオイル21品目の出荷価格を10月2日納品分から14~57%引き上げると発表したこと……などが株価にも追い風となっている。
今期はJ-オイルミルズの話題をお届けしたい。
J-オイルミルズ、営業損益が黒字に転換
5月11日、J-オイルミルズは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前期比29.2%増の2,604億1,000万円、本業の利益を示す営業利益は7億3,400万円(前期は2,100万円の営業損失)、経常利益は同140.7%増の14億3,600万円、純利益は同49.5%減の9億8,600万円となった。
同期は、新型コロナウイルス禍の行動制限緩和等により個人消費を中心とした社会経済活動の緩やかな回復が見られたものの、一方でロシア・ウクライナ情勢の長期化に伴う供給面での制約や資源・エネルギー価格の高騰および為替相場の円安進行も重なり、物価上昇が継続するなど不透明な状況が続いた。このような状況下、J-オイルミルズの油脂製品の主な原料である大豆や菜種およびパーム油などの購入油も高値水準での推移が続いた。このため、J-オイルミルズでは、高騰する原料価格に見合った販売価格への改定や成長ドライバーとなる高付加価値品の拡販、継続的なコストダウンを推進した。
主なセグメント別の概況は以下の通りである。
油脂事業のセグメント利益は328.4%増
油脂事業のセグメントは、売上高で前期比32.6%増の2,365億1,300万円、セグメント利益は同328.4%増の13億9,400万円と大幅な増収増益となった。
各部門の状況は以下の通りである。
油脂部門
油脂部門は、まず家庭用汎用油においては、急激な原料コスト上昇に伴う度重なる価格改定による節約志向の高まりや外食の回復等の影響により、販売数量は前年同期を下回ったものの、価格改定により売上高は前年同期を上回った。
また、家庭用高付加価値品においても、主原料の原料コストが大幅に上昇したため価格改定を実施した。市場価格の上昇に伴い、オリーブオイルは市場が縮小したものの、売上高は前年同期と同程度となった。同時に、環境負荷の低減や消費者の使いやすさが特長である「スマートグリーンパック®」(紙パック製品)のラインナップを拡充し、汎用油から高付加価値油まで幅広いアイテムを展開した。
一方、業務用は、10月以降のインバウンド需要の回復や全国旅行支援など、外食の需要を喚起する動きがあったものの、物価高騰による厳しい経営状況の継続を反映して、油脂価格高騰に伴う消費者の使用日数延長やフライメニュー減少の影響で需要が減退し、販売数量は前年同期をわずかに下回ることとなった。しかしながら、同期は家庭用と同様に、さらなる価格改定を実施した結果、売上高は前年同期を大きく上回った。また、市場価格の上昇に伴い、「長徳®」シリーズについては、消費者のコスト負担軽減への貢献とCFP(Carbon Footprint of Products)認証を軸にした店頭でのコミュニケーション(BtoBtoC)を強化したことが奏功し、販売数量は前年同期を大きく上回った。
油糧部門
油糧部門は、大豆ミールの搾油量が前年同期を大きく上回ったことから、販売数量は前年同期を大きく上回った。また、販売価格もシカゴ相場の上昇と為替相場の大幅な円安進行により前年同期を大きく上回った。一方、菜種ミールは、搾油量が前年同期を大きく下回ったことから、販売数量も前年同期を大きく下回ることとなった。ただし、販売価格は大豆ミール価格の上昇に連動して前年同期を大きく上回った。
スペシャリティフード事業はセグメント損失が拡大
スペシャリティフード事業のセグメントは、売上高が前期比8.1%増の228億4,700万円となった。一方、利益面では販売価格の改定に努めたものの原料価格の高止まりなどの影響により、8億1,500万円のセグメント損失(前期は6億2,000万円のセグメント損失)となった。
各部門の状況は以下の通りである。
乳系PBF部門
乳系PBF部門では、まず家庭用はマーガリンの主原料であるパーム油や大豆油、菜種油など原料相場の高騰や為替相場の円安進行などを受け、価格改定に注力したものの、マーガリン市場の縮小の影響や価格改定による反動により販売数量は前年同期を大きく下回り、売上高も前年同期をやや下回った。また、プラントベース食品「Violife」は2022年3月より全国展開をスタートし、6月にはブランド認知度アップのために関東エリアでテレビCMを実施した。さらに、秋季新商品としてプラントベースチーズ3商品を発売し、植物性チーズの新たな楽しみ方の創出に努めるとともに、商品ラインナップの見直しを進めた。
一方、業務用は新型コロナウイルス禍の行動制限緩和による人流回復により、土産菓子、外食等の需要に回復傾向が見られたものの、パンの需要は引き続き低迷しており、消費者の油脂使用量の削減や最終製品の容量減もあり販売数量は前年同期を下回った。ただ、同期は家庭用と同様に、価格改定に注力したことにより、売上高は前年同期を上回った。粉末油脂事業は、販売数量で前年同期を下回ったものの、原料油脂相場の上昇により販売価格も上昇したことで売上高は前年同期を上回った。
食品素材部門
食品素材部門では、テクスチャーデザインは高付加価値食品用澱粉および工業用澱粉の販売が好調に推移したものの、鳥インフルエンザの影響で飼料用の出荷は伸びず販売数量は前年同期と同程度となった。ただ、売上高については、原料とうもろこし相場や、為替相場の影響を受けた製品価格の適正化を推進したため、前年同期を大きく上回った。
ちなみに、業務用スターチ製品の新ブランド「TXdeSIGN ®(テクスデザイン)」シリーズについては、専用ホームページの設置など、拡販に向けて提案を強化することで、ターゲット顧客の採用が進んだ。ファインはビタミンK2の価格改定の実施などにより、売上高は前年同期をわずかに上回った。また、大豆たん白をベースとした大豆シート食品「まめのりさん®」の販売は、主要販売先である北米において秋頃より景気に陰りが見え始め、現地での流通在庫が増加したため出荷が鈍化し、販売数量は前年同期を大きく下回ることとなった。原料価格などの大幅な上昇に伴い価格改定を進めたものの、売上高は前年同期を下回った。
2024年3月期は営業利益で308.5%増の見通し
5月11日、J-オイルミルズは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比0.6%増の2,620億円、本業の利益を示す営業利益で同308.5%増の30億円、経常利益で同136.7%増の34億円、純利益で同188.9%増の28億5,000万円と大幅な増益となる見通しを示した。
J-オイルミルズは、同期の経営環境について、新型コロナウイルス感染症の影響は薄れたものの、資源・エネルギー価格高騰の継続や急速な円安等の為替変動に対する懸念に加え、インフレに伴う消費マインド減退等のリスクもあり、依然として先行きは不透明な状況が続くとの認識を示した。このような環境下、J-オイルミルズは「高付加価値品の拡大」をはじめとした成長戦略を推進しつつ、原材料価格高騰が続く厳しい事業環境を踏まえ、さらなる構造改革によるコストダウンや収益性の改善を進める考えを示した。あわせて、2024年3月期の年間配当については、前期比15円増配の35円とする方針を示した。
なお、冒頭でも述べた通り、J-オイルミルズは先週7月12日に家庭用オリーブオイル21品目の出荷価格を10月2日納品分から14~57%引き上げると発表した。主要製品では「AJINOMOTO オリーブオイルエクストラバージン」(200グラム)や、紙パック入りの「AJINOMOTO やさしいオリーブオイル」(300グラム)などが対象となる。J-オイルミルズがオリーブオイル製品の値上げを決断するのは2022年7月以来となるが、同社は値上げの理由として、主要生産国であるスペインのオリーブ不作や、為替の円安によるコスト上昇などを挙げている。
引き続き、J-オイルミルズの業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)