記事内に広告が含まれています。

皮膚の健全な角層形成を可能にする「オートファジーの活性化」――花王の研究成果

オートファジー,美肌,効果
(画像= Taroon / 写真AC、La Caprese)

オートファジーをご存知だろうか? オートファジーとは、体の細胞に含まれる不要なタンパク質をアミノ酸に分解し、それを基に新たなタンパク質を作り出す仕組みで、日本語で「自食作用」とも呼ばれる。オートファジーは、ヒトの全ての細胞内で行われているのだが、この細胞内でのリサイクルの役割により、細胞は「常に新しい状態を保つ」ことができ、個体としての健康が維持されることが分かっている。

注目されるのは、花王(本社:東京都中央区)の生物科学研究所が2023年4月27日、オートファジーの活性が低下することにより、表皮の恒常性が損なわれ、皮膚の潤いやバリア機能を担う角層の形成(角化)が乱れることを解明したことである。加えて、本研究において、オートファジーの活性を高めることで、表皮角化の恒常性が維持される可能性が示唆された。さらに、本研究で花王は、オートファジーの活性を高めることで、表皮角化を促進させる有望な植物エキスを見出したことを明らかにしている。

なお、本研究成果の一部は、International Journal of Molecular Sciences(※1)、および日本薬学会 第143年会(2023年3月25~28日、北海道)にて発表された。

今回は花王の研究成果を紹介したい。

オートファジー,美肌,効果

出典:花王

参考

(※1) 「Autophagy declines with premature skin aging resulting in dynamic alterations in skin pigmentation and epidermal differentiation」 Int. J. Mol. Sci. 21: 5708 (2020)

スポンサーリンク

花王、皮膚におけるオートファジーの機能に注目

花王は、皮膚におけるオートファジーの機能にいち早く注目し、2010年の研究開始から、皮膚科学分野でのオートファジー研究の深耕とその応用に貢献してきた。また、2019年には大阪大学の吉森保栄誉教授の研究指導のもと、ヒトの皮膚組織を用いてオートファジーの活性の定量に成功し、加齢や紫外線による光老化に伴い、その活性が低下することを報告している。ヒトに本来備わっているオートファジーの仕組みを皮膚において上手に活用することができれば、皮膚の細胞が健やかな状態になり、より美しい肌につながると考えられる。

今回、花王は常に古い細胞が新しい細胞と入れ替わる表皮においてもオートファジーが深く関わっていると考え、研究を進めた。表皮では、角化細胞が成熟して角層を形成する角化という過程が行われており、この過程で潤いに重要な成分が作られ、外部刺激から皮膚を守るためのバリア機能を獲得する。そのため、角化が正常に行われることは肌を健やかで美しい状態にするのに非常に重要である。

角化が乱れた皮膚では、オートファジーの活性が低下

本研究では、まず表皮の角化とオートファジーとの関連を詳しく調べるため、肘部に乾燥やざらつきなどの肌トラブルがある30歳~50歳代の健常人を対象とし、肘部とその周辺の腕部の皮膚を比較した(※2)。その結果、肘部において角質肥厚(角層が厚くなった状態)が認められた。また、表皮での正常な角化に重要な役割を有するタンパク質であるロリクリン(※3)とフィラグリン(※4)、LC3(※5)タンパク質を蛍光色素で染色し可視化した結果、それらの分布が著しく乱れていることが判明した(図1)。また、肘部皮膚のLC3の代謝量は腕部の皮膚と比べて少なく、オートファジーの活性が顕著に低下していた。

これらのことから、角化の乱れの原因として、オートファジーの低下がその一因となっている可能性が示された。

オートファジー,美肌,効果

(図1) 出典:花王

参考

(※2) 本研究は、米国の倫理審査機関(IRB)及び花王のヒト試験研究倫理委員会の承認下で実施した。
(※3) ロリクリン:角層細胞を包む不溶性の膜状構造(辺縁体)の構成成分のひとつで、角層の構造を強固にする働き。
(※4) フィラグリン:角層細胞で肌のバリア機能を強固にし、潤いを保つ働き。
(※5) LC3:オートファジーに重要なタンパク質で、細胞内の成分を包み込む袋状構造(オートファゴソーム)に局在。オートファジーの活性はLC3タンパク質の代謝量を検出することにより測定できる(フラックスアッセイ)。

オートファジーの活性化が角化の乱れを抑制

角化の乱れにオートファジーが及ぼす影響をより詳細に検討するため、器官培養した肘部皮膚にオートファジーを活性化させる試薬を添加し、表皮の角化の状態、角化に関連するタンパク質を可視化した。その結果、角層の肥厚が抑えられ、角化に関連する不均一だったタンパク質の分布も整った(図2)。

オートファジー,美肌,効果

(図2) 出典:花王

このことから、オートファジーの活性を高めることで、乱れていた角化を整え、健全な角層を形成できることが示唆された。

ユーカリエキスとビルベリーエキスにオートファジー活性化作用

さらに、花王は皮膚に使用できる200以上の素材を角化細胞に添加し、健全な角層の形成にとって有用なオートファジーの活性化素材を探索した。その結果、ユーカリエキスとビルベリーエキスを同時に添加した場合に、オートファジーの活性が上昇すること、また、ロリクリンタンパク質が増加することを確認した(図3)。これらにより、ユーカリエキスとビルベリーエキスを同時に添加することで、角化が整えられることが示唆された。

オートファジー,美肌,効果

(図3) 出典:花王

健やかで美しい肌を実現したい人々の思いに応えるために

本研究では、ヒトの皮膚において潤いやバリア機能に重要な角層の形成を健全化するために、生命を守る仕組みとして、酵母からヒトにいたるあらゆる生物に本来備わっているオートファジーを活性化することが重要であることを明らかにした。また、ユーカリエキスとビルベリーエキスを同時に使用することにより、オートファジーの活性が高まり、健全な角化が引き起こされる可能性を見出した。

花王は、今後もオートファジーについてさらなる研究を重ね、健やかで美しい肌を実現したい人々の思いに応えられるようさらなる技術の向上を目指す方針である。■

(La Caprese 編集部)

特集:美肌を科学する
美肌,科学的根拠
タイトルとURLをコピーしました