2023年5月30日、米ナスダックに上場するエヌビディアの株価が一時過去最高値となる419.38ドルまで買われ、時価総額で1兆ドル(約140兆円)に達する場面がみられた。2022年10月13日の安値108.13ドルから7カ月半で4倍近くに跳ね上がった計算である。
エヌビディアは、米カリフォルニア州サンタクララに本社を置く半導体メーカーである。特にAI(人工知能)向けの半導体では世界全体の約8割のシェアを占めており、2022年11月にOpenAIが公開したチャットGPTを皮切りに生成AIブームに火がついたことから業績期待が広がった。
生成AIとは、人間とAIによるチャット形式の会話を通じて、文章や画像、音楽などを生成するシステムの一種である。人間からAIに「適切な指示(プロンプトエンジニアリング)」を与えれば、小説や絵画、楽曲、プログラムなどを生成してもらうことが可能で、幅広い業務に応用できる可能性を秘めている。
アマゾンでセルフ出版ブーム
ちなみに、ロイター通信が今年2月25日に伝えたところによると、通販大手アマゾンのセルフ出版プラットフォーム「キンドル・ダイレクト・パブリッシング」で、著者もしくは共著者にチャットGPTの記載がある電子書籍が200冊を超えたと伝えている。しかしながら、「多くの著者がチャットGPTを利用したことを開示していないため、AIを使って書かれた本の数を正確に把握するのは不可能に近い」とロイター通信は指摘している。
「キンドル・ダイレクト・パブリッシング」は、代理店や出版社を通さずに誰でも本を出版できるプラットフォームで、収入は著者とアマゾンで分け合う仕組みとなっている。チャットGPTなどの生成AIを使って小説や自己啓発本を出版し、手軽に稼ぎたいと考える人々が増えていると見られるほか、ユーチューブやティックトックでは、そうした本を数時間で作成する方法を解説する動画なども投稿されている。
まさに、「生成AI革命」とも呼べる状況である。
著作権侵害やフェイクニュースの危険性も
先に述べた通り、生成AIは小説や絵画、楽曲、プログラムのほか、ヘルスケア、金融、ゲーム、マーケティング、ファッションなど、幅広い業務に応用できる可能性を秘めている。しかし、その一方で著作権侵害やフェイクニュースなどに悪用される危険性も指摘されている。たとえば、指示の仕方(プロンプトエンジニアリング)によっては、どこかの大都市が大陸間弾道ミサイルで破壊される動画や、実在の人物にそっくりの写真を生成することも可能である。
今週6月7日、集英社は週刊プレイボーイ編集部が生成AIで作成したグラビアアイドルのデジタル写真集『生まれたて。』の販売を同日付で終了したと発表した。『生まれたて。』は5月29日に発売したばかりであるが、ツイッター上では、生成AIで作成したグラビアアイドルが実在の女性芸能人に似ているとの指摘が相次いでいた。集英社には多くの意見が寄せられたことから、編集部で改めて検証し、販売終了を決めたという。
6月9日には、日本政府が知的財産戦略本部(本部長・岸田文雄首相)の会合で、生成AIが生み出す文章や画像等を巡る課題や対応の方向性を盛り込んだ「知的財産推進計画2023」を決めた。今後、具体的な著作権を侵害する事例や法解釈を整理し対応策を協議するほか、どのような場合にAIの生成物を「著作物」と認めるかについても検討する。
インターネットや暗号資産(仮想通貨)がそうであったように、黎明期にはさまざまな問題が噴出する。ITバブル、暗号資産バブル……生成AIも同じ道を辿るのだろうか? デュケーヌ・ファミリーオフィスの創設者で著名投資家のスタン・ドラッケンミラー氏は6月7日のブルームバーグ・インベストのイベントで、「AIはインターネットと同じくらい革新的なものになるかもしれない」「AIに関して私の見方が正しければ、あと2〜3年はエヌビディア株を保有することは有り得る」との見解を示した。■
(La Caprese 編集長 Yukio)