2023年6月7日、東京証券取引所でテルモの株価が一時4,488円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年3月24日の安値3,416円から約2カ月半で31.4%の上昇である。
テルモは、東京都渋谷区に本社を置く医療機器メーカーである。その源流は、1921年に北里柴三郎博士をはじめとする医師らが発起人となって創業した「赤線検温器」までさかのぼる。赤線検温器は「良質な体温計の国産化」を目指して設立した会社であった。創業から100年以上の歴史を持つ医療機器メーカーであり、現在は体温計のほか、カテーテル治療、心臓外科手術、薬剤投与、糖尿病管理、腹膜透析、輸血や細胞治療など医療に関する幅広い製品・サービスを手がけ、世界160以上の国と地域で事業を展開している。
後段で述べる通り、テルモが5月15日に公表した①2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績が増収増益となったほか、②2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想についても最終利益で過去最高を更新する見通しが示されたこと、③2024年3月期の年間配当を前期比4円増の44円に増配する方針を示したこと……などが追い風となった。
今回はテルモの話題をお届けしよう。
成長戦略「デバイスからソリューションへ」
5月15日、テルモは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績を発表した。同期の売上収益は前期比16.6%増の8,202億900万円、本業の利益を示す営業利益は同1.2%増の1,173億3,200万円、税引前利益は同1.4%増の1,161億3,700万円、最終利益は同0.6%増の893億2,500万円となった。
テルモは2021年12月に次の5カ年を対象とした成長戦略を策定している。成長戦略では、高齢化社会における慢性疾患との共生や、ゲノム医療とAI(人工知能)の進化による個別化医療の本格普及といった、医療のパラダイムシフトに対応するための中長期ビジョンとして、「デバイスからソリューションへ」を掲げた。製品軸から顧客軸へフォーカスを移し、医療のエコシステム全体とより積極的に関わることで、顧客の課題に複合的なソリューションを提案できる企業を目指す方針を示している。その初年度となる2023年3月期は上記の通り売上収益で2ケタの伸びを示したほか、営業利益、税引前利益、最終利益は小幅ながら増益となった。
主なセグメントの状況は以下の通りである。
心臓血管カンパニー
心臓血管カンパニーの売上収益は前期比21.0%増の4,806億円となった。
同期は、日本において新型コロナウイルスの感染再拡大の影響を受け、需要の減少が見られたものの、薬剤溶出型冠動脈ステントや胸部大動脈ステントグラフト等の新製品が売上を伸ばし、増収となった。また、海外では医療需要の順調な回復と成長軌道への回帰が見られ、米国で相次いで新製品を発売し売上を拡大した血管事業を中心に総じて好調に推移した。
メディカルケアソリューションズカンパニー
メディカルケアソリューションズカンパニーの売上収益は前期比3.5%増の1,917億円となった。
同期は、日本において、新型コロナウイルスの感染再拡大の影響を受けたが、ホスピタルケアソリューション事業の癒着防止材やプレフィルドシリンジ製剤などの新製品が売上を伸ばした。また、製薬企業との提携ビジネスであるファーマシューティカルソリューション事業の売上が、グローバルで好調に推移した。
血液・細胞テクノロジーカンパニー
血液・細胞テクノロジーカンパニーの売上収益は前期比22.4%増の1,476億円となった。
同期は、日本において血液センター向け製品で血液バッグの需要が減少し、減収となった。一方、海外ではアジア他における輸血需要の回復や、北米における成分採血装置の需要好調が牽引し、大幅な増収となった。
2024年3月期は最終利益で過去最高へ
5月15日、テルモは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上収益で前期比4.1%増の8,540億円、本業の利益を示す営業利益で同12.9%増の1,325億円、最終利益で同13.1%増の1,010億円となる見通しを示した。見立て通りとなれば、最終利益で過去最高を更新することとなる。
テルモは同期の経営環境について、医療需要が成長軌道に回帰しつつあり、欧米に加えて中国、日本においても売上収益の拡大が見込まれるとの認識を示した。しかし、マクロ環境は一部で好転する兆しが見える一方、原材料価格や電気・ガス等のエネルギー関連費用の高騰なども依然として継続するとの認識も明らかにした。このような環境下、テルモは価格政策のさらなる見直し(値上げ)や費用の効率的な運用、コスト削減策の前倒し等の対策を業績予想に盛り込む一方で、成長が見込まれる分野においては、生産能力の拡大を中心とする設備投資を積極的に進める考えを明らかにした。ちなみに、テルモは2023年2月に4つの追加的な施策として、①M&Aの積極化、②収益性改善の加速、③資本政策の強化、④サステナビリティ経営の推進……を打ち出している。
なお、冒頭でも述べた通り、テルモは2024年3月期の年間配当について、前期比4円増の44円に増配する方針を示した。
引き続き、テルモの業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)