2023年5月29日、東京証券取引所で京セラの株価が一時7,790円まで買われ、年初来高値を更新した。今年1月16日の安値6,355円から4カ月半で22.6%の上昇である。
1959年、京都府京都市にて従業員28名のファインセラミックスの専門メーカー「京都セラミック(現在の京セラ)」が誕生した。今年で創業64年を迎える同社は、いまや電子部品や半導体関連部品、太陽光発電などを手がけ、グループ従業員数8万1,209名、売上高で2兆円を超える大企業に成長した。「Our Future,Together 世界中の人々と、未来への一歩を」をコンセプトに、社会課題解決の視点で、情報通信、自動車関連、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアの注力4市場をベースに各事業を展開しているのが現在の状況である。
後段で述べる通り、京セラが5月15日に発表した2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績は減益となったものの、①2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想で増益に転じる見通しが示されたほか、②2026年3月期までの中期経営計画で半導体関連の設備投資に4,000億円を投じると発表した……ことなどが株価にも刺激材料となった。
今回は京セラの話題をお届けしよう。
京セラ、2023年3月期の最終利益は13.8%減
5月15日、京セラは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前期比10.1%増の2兆253億3,200万円、本業の利益を示す営業利益は同13.7%減の1,285億1,700万円、税引前利益は同11.4%減の1,761億9,200万円、最終利益は13.8%減の1,279億8,800万円と増収減益となった。
同期は、スマートフォン向け部品の需要が減少する一方で、先端半導体向け部品の需要が引き続き旺盛だったことに加え、ドキュメントソリューション事業および機械工具事業等での販売増、為替の円安効果も追い風となって売上高で初の2兆円を達成した。
一方、利益面では原材料およびエネルギーの価格や物流コスト等の高騰に加え、ソリューションセグメントでコミュニケーション事業の売上が大幅に減少したこと、さらに一時的な費用として訴訟関連費用、年金債務に係る追加費用、並びに構造改革費用等(合計約190億円)を計上したこともあり、営業利益、税引前利益、最終利益が前期比で2ケタを超える減益となった。
主なセグメントの状況は以下の通りである。
コアコンポーネント:半導体関連が好調に推移
コアコンポーネントの売上高は前期比12.2%増の5,923億7,600万円、事業利益は同45.2%増の894億7,500万円と大幅な増収増益となった。
同期は、半導体関連部品事業における情報通信インフラ市場向け有機基板および産業・車載用部品事業における半導体製造装置用ファインセラミック部品等の高付加価値製品が好調に推移したほか、為替の円安効果も業績に寄与した。
電子部品:原材料等の価格高騰などで減益
電子部品の売上高は前期比11.6%増の3,785億3,600万円、事業利益は同8.0%減の440億6,400万円となった。
同期は、産業機器市場および自動車関連市場向けを中心にセラミックコンデンサ等の需要が増加したことに加え、円安の効果もあり増収となった。一方、事業利益は原材料等の価格高騰の影響やスマートフォン向け部品の需要減少に加え、Kyocera AVX Components Corporationグループにおいて年金債務に係る追加費用等約30億円を計上したことから減益となった。
ソリューション:携帯電話端末の需要減少などが響く
ソリューションの売上高は前期比8.6%増の1兆685億9,700万円、事業利益は同38.5%減の422億3,900万円となった。
同期はドキュメントソリューション事業および機械工具事業における主要製品の販売増加や円安効果もあり増収となった。一方、事業利益はコミュニケーション事業における携帯電話端末の販売台数の大幅な減少に加え、構造改革に伴う在庫評価減等約80億円の一時的な費用の計上、並びに各事業における原材料およびエネルギーの価格や物流コスト等の高騰を受けて減益となった。
今期は増益を予想。「選択と集中」が功を奏するか?
5月15日、京セラは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比3.7%増の2兆1,000億円、本業の利益を示す営業利益で同14.4%増の1,470億円、税引前利益で同13.5%増の2,000億円、最終利益で同13.3%増の1,450億円と増収増益となる見通しを示した。
京セラは2024年3月期について、引き続き不安定な世界情勢や経済環境に懸念を示した。このため、半導体関連や自動車関連、スマートフォン市場についても当面は調整が続くとしながらも、上期後半以降は緩やかな回復を見込んでいるとの認識を示した。そのうえで、引き続き半導体関連市場向け部品を中心に生産体制を拡充し、増産を進め、コアコンポーネントセグメントおよび電子部品セグメントの事業拡大を図る方針としている。また、ソリューションセグメントにおいても、ドキュメントソリューション事業を中心に新製品および新事業の積極的な展開に加え、低収益・低成長事業の構造改革を進め、収益性の向上を目指す方針である。
ちなみに、京セラは同日に消費者向けのスマートフォンと携帯電話事業から撤退する方針を明らかにしている。先に述べた通り、ソリューションセグメントではコミュニケーション事業における携帯電話端末の販売台数が大幅に減少していた。高速通信規格5Gの普及などで端末の原価が上がっており、利益を出すのが難しいことなども加味して、撤退を決断した。
一方、冒頭でも述べた通り、京セラは2026年3月期までの中期経営計画で半導体関連の設備投資に4,000億円を投じると発表した。中期経営計画で全体の設備投資は最大8,500億円を見込み、このうち4,000億円を半導体関連を中心とするコアコンポーネントセグメントに振り向ける。米国のオープンAIが展開する「ChatGPT」関連など先端半導体向けの部品需要を取り込む方針だ。
不採算の消費者向けスマートフォンと携帯電話事業から撤退する一方で、成長が期待できる半導体関連の設備投資を加速させる「選択と集中」が功を奏するか、引き続き注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)