2023年7月28日、東京証券取引所で日清オイリオグループの株価が一時3,800円まで買われ、年初来高値を更新した。今年1月16日の安値3,030円からおよそ6カ月半で25.4%の上昇である。
日清オイリオグループは、東京都中央区に本社を置く大手食品メーカーである。社名のオイリオ(OilliO)は、「Oil」にOilを反転した「liO」を組み合わせた造語で、日清オイリオグループの原点である製油業を大切にしながら、オイルの領域を拡げ、さらにはそれを超えていくという意志が込められている。その社名が示す通り、収益の大きな柱となる油脂事業のほか、加工食品・素材事業、ファインケミカル事業等も手がけている。
ところで、世界的なインフレが続く中、株式市場では値上げによる収益改善が期待できる銘柄を物色する動きが広がっている。日清オイリオグループもその一つで、先週7月26日にはオリーブオイルの値上げを発表した。天候不順で欧州のオリーブ生産量が減り、原材料価格が高止まりしているのが原因で、10月納入分からの販売価格を家庭用で10〜26%、業務用は10〜38%引き上げる予定である。オリーブは欧州の主要生産地で熱波や干ばつの影響で昨年から減産が続いていたが、今年も降雨不足で生産回復のめどが立たない状態だという。オリーブオイルは今年3月に続く値上げであり、2021年4月以降では3回目の価格改定となる。株式市場では日清オイリオグループの値上げ発表を受けて業績期待が高まったようだ。
今回は日清オイリオグループの業績を見てみよう。
日清オイリオグループ、営業利益は38.7%増
5月12日、日清オイリオグループは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前期比28.6%増の5,565億6,500万円、本業の利益を示す営業利益は同38.7%増の161億8,600万円、経常利益は同28.4%増の162億4,200万円、純利益は同29.8%増の111億5,700万円と大幅な増収増益となった。
主なセグメント別の状況は以下の通りである。
油脂事業は大幅な増収増益
油脂事業のセグメントは、売上高が前期比30.8%増の3,503億5,600万円、営業利益は同92.9%増の90億9,700万円と大幅な増収増益となった。
同期は、世界経済の新型コロナウイルス禍からの回復に伴う油脂需要の増加に加え、ロシアのウクライナ侵攻による原材料の供給懸念、日米の金融政策の乖離等を背景とした円安ドル高の進行等により原材料価格が一段と高騰する中、生産性向上とコスト削減に努めるとともに、適正な販売価格の形成に取り組んだ。同時に、付加価値品の拡販に加え、新たな市場創造やソリューション提案の強化に注力したことで、増収増益となった。
油脂の販売
業務用の油脂の販売では、原材料価格が高騰するなかで販売価格の改定に取り組んだ。また、生活者の行動変容、人手不足やコスト上昇など「変化への対応」と「ニーズ協働発掘型営業」によるソリューション提案の質の向上にも継続的に取り組んだ。
商品面では長持ち機能等を付加した「機能フライ油」や「日清炊飯油」等の機能性油脂を含む「付加価値型商品群」を重点カテゴリーとし、積極的な提案に努めた。一方、加工用についても、原材料価格が高騰する中、コストに見合った適正価格での販売に取り組んだ。
ホームユースも、販売価格改定に取り組むとともに、「かけるオイルの定着」や「味つけオイルの市場創造」など付加価値品の継続的な拡販を進めた。この結果、サプリ的オイルの販売数量は前期を上回ったほか、ごま油、オリーブオイルの販売数量は前期と比較して減少したものの、市場全体の落ち込みに対しては減少幅を小幅にとどめた。その結果、油脂全体としては増収増益となった。
ミールの販売
大豆ミールについては、大豆・菜種の採算格差を背景とした大豆搾油の増加に合わせ、拡販に努めたことで販売数量は大幅に増加した。また、主要原料相場が上昇したことやドル円相場が円安ドル高で推移したことにより販売単価が上昇し、売上高は増収となった。
菜種ミールについては、大豆搾油優位の環境が続き、前期に対して搾油量を減少させたことで、販売数量は減少した。販売価格は、大豆ミール価格上昇の影響等から上昇し、売上高は増収となった。
加工油脂
海外加工油脂は、マレーシアのIntercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.において、欧州を中心に高付加価値品であるチョコレート用油脂の販売にシフトし、汎用品の販売数量を減少させたことにより、全体として販売数量は減少した。しかし、パーム油相場の高騰に伴う販売価格の上昇、高付加価値品の販売数量増、円安リンギット高による為替換算の影響等により、増収増益となった。
一方、イタリアのIntercontinental Specialty Fats(Italy)S.r.l.は、新たな生産設備の本格稼働を背景に販売数量が増加したこと等により、増収増益となった。
また、国内加工油脂については、需要が低迷する厳しい状況が続くなか、新規ユーザーの獲得および既存顧客での新規商品採用により販売数量は前期を上回り、販売価格についても段階的な価格改定を実現したことで、売上高は増収となった。ただ、営業損益は価格改定の遅れに加え、主要原料であるパーム油の高騰やユーティリティ、包装資材等のコスト上昇の影響が大きく、営業損失となった。
加工食品・素材事業は増収減益
加工食品・素材事業のセグメントは、売上高が前期比11.9%増の651億300万円、営業利益は同68.1%減の5億3,300万円となった。同期は、販売価格の改定と海外子会社の為替換算の影響等を受けたものの、原価率上昇等の影響が大きく、増収減益となった。
チョコレートは、大東カカオにおいて菓子需要の回復が遅れるなか、新規顧客開拓等に努めたことで販売数量は増加した。シンガポールのT.&C. Manufacturing Co., Pte.Ltd.では、日本国内における調製品の需要減により、販売数量が減少した。インドネシアのPT Indoagri Daitocacaoでは、新型コロナウイルスの影響により遅れていた新規顧客との取引が進展したことにより、販売数量が増加した。一方で、原価率上昇の影響が大きく、チョコレート全体としては増収減益となった。
調味料は、価格改定に伴い販売価格は上昇したものの、販売数量の減少および原価率上昇や販管費増加の影響が大きく増収減益となった。
機能素材・食品は、加工食品メーカーとのMCT(中鎖脂肪酸)のコラボレーション商品の上市を進め、市場規模拡大に努めた。しかし、原材料価格の上昇に対する適正価格での販売に努めたものの、原価率上昇の影響と販管費の増加により、増収減益となった。
大豆素材・食品は、原材料価格の上昇に対する適正価格での販売に努めたものの、原材料価格の上昇や前期の連結子会社売却の影響により、増収減益となった。
ファインケミカル事業は増収増益
ファインケミカル事業のセグメントは、売上高が前期比20.3%増の204億6,200万円、営業利益は同3.6%増の13億8,500万円となった。同期は、国内外の需要回復の遅れに伴い汎用品を中心に販売数量は減少したが、欧州子会社の好調な販売および原材料価格の上昇に対する適正価格の販売に努めた結果、増収増益となった。
ファインケミカル製品については、国内および中国向け輸出需要が新型コロナウイルスの影響により本格回復に至らず、販売数量は減少した。一方、スペインのIndustrial Quimica Lasem, S.A.U.で欧州域内において化粧品油剤の販売が大きく増加したことにより、全体としては増収増益となった。
環境・衛生については、堅調なアルコール製剤の需要により販売数量が増加したが、売上高は前期並みとなった。また、原材料およびエネルギーコスト高騰の影響を受けて、営業利益は減益となった。
8月9日発表の2023年・第1四半期決算に注目
5月12日、日清オイリオグループは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比3.0%減の5,400億円、本業の利益を示す営業利益で同1.1%減の160億円、経常利益で同1.5%減の160億円、純利益で同3.1%増の115億円となる見通しを示した。
日清オイリオグループは同期の経営環境について、新型コロナウイルスの影響が終息に向かい、消費者心理が改善、さらに国境を越えた人の移動が進むなど、緩やかながら経済活動の回復が期待される一方で、物価上昇に応じた中央銀行による金融引き締め、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の長期化などの地政学リスク、人手不足、資源・エネルギー価格の高騰、継続するサプライチェーン(供給網)の混乱などが、今後の世界経済に深刻な影響を与える危険性も否めないとしている。
日清オイリオグループへの影響が大きい大豆、菜種、パーム油などの原材料については、生産量の回復が見込まれているものの、世界的な需要回復やバイオ燃料消費の拡大、サプライチェーンの混乱、さらにオリーブ油においては産地での天候不順もあり、購買価格は高値圏での推移を想定しているという。
その上で、喫緊の課題として、国内油脂市場の付加価値化・ソリューションの強化、原料コストに見合った適正な販売価格の形成・維持、スペシャリティファットのグローバル市場での販売拡大、アフターコロナの中での油脂需要の回復や消費者動向の変化への対応などを挙げている。
冒頭でも述べた通り、日清オイリオグループは先週7月26日にオリーブオイルの値上げを発表しており、これが今後の業績予想にどう影響してくるか気になるところである。ちなみに、8月9日には2024年3月期・第1四半期の連結業績の発表を予定しており、ここで通期予想を修正してくるか、株価の動きとともに注目しておきたい。■
(La Caprese 編集部)