「内臓脂肪(※1)の蓄積が高齢期の糖代謝異常に強く関連する因子であることを解明」――。2024年2月6日、順天堂大学による高齢者1,438名を対象とした横断研究で、そのような成果が明らかになった。
超高齢社会を迎えた我が国では、新規に診断される糖尿病や境界型糖尿病の発症率が増加している。耐糖能悪化の原因として、高齢者(60歳以上)においては若年者(20歳~39歳)と比較して、インスリン分泌能の低下とインスリン抵抗性の増加が過去の研究で示されている。しかしながら、これらの研究は高齢者と若年者を比較したものであり、65歳以上の高齢期でも加齢により、さらにこの病態が増悪するのか、そうであればその重要な因子は何か、ということは分かっていなかった。そこで本研究では東京都文京区在住の高齢者を対象とした調査研究 「Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)(※2)」において、65歳以上の日本人高齢者の加齢による糖代謝への影響とその重要な因子を調査した。
本研究の概要は以下の通りである。
高齢者の体脂肪と血糖値の興味深い関連性が解き明かされる
1,438名の高齢者を対象とした文京ヘルススタディーで明らかに
本研究は東京都文京区在住高齢者のコホート研究「Bunkyo Health Study」に参加した65~84歳の糖尿病既往がなく糖尿病の診断に用いられる検査である75g経口糖負荷検査(OGTT)のデータが揃っている1,438名を対象とした。
対象者全員に二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)法(※6)による体組成検査、MRIによる内臓・皮下脂肪面積の測定、採血・採尿検査、75gOGTT、生活習慣に関連する各種アンケートを行い、5歳ごとに4群(65~69歳、70~74歳、75~79歳、80~84歳)に分け各種パラメータを比較した。
その結果、年齢層で分けた4群比較により、高齢群ほど、正常耐糖能者の割合は低下し、新規に診断された糖尿病の割合が増加した。(図1)
食後初期のインスリン分泌を示す指標であるInsulinogenic indexや、血糖値に対するインスリン分泌指標である75gOGTT中のインスリン曲線下面積/血糖曲線下面積は各年齢群間で同等であったが、インスリン感受性指標(Matsuda index)、膵β細胞機能の指標(Disposition index)は加齢とともに有意に低かった。(図2)
Matsuda indexやDisposition indexの規定因子を明らかにするため、重回帰分析(※7)を施行したところ、Matsuda indexには内臓脂肪面積、Disposition indexには遊離脂肪酸が独立した最大寄与因子であることが明らかになった。(図3)
将来の健康戦略や予防プログラムを期待
本研究により、65歳以上の高齢者における加齢の糖代謝への影響とその重要な関連因子が明らかになった。内臓脂肪蓄積や遊離脂肪酸がインスリン抵抗性や膵β細胞機能低下と関連しており、これは高齢者においても適切な食事や運動により体組成を改善させることで、耐糖能悪化を防ぐ効果的なアプローチになる可能性を示唆している。
高齢期における新規糖尿病の発症は増加しており、特に高齢化率の高い日本では喫緊の課題である。順天堂大学は、東京都文京区在住高齢者コホート研究である 「Bunkyo Health Study」にて、今後10年間の観察研究を継続し、各個人のインスリン分泌能やインスリン感受性の変化を追跡し、これらの要因を詳細に調査していく予定である。この継続的な研究により、将来の健康戦略や予防プログラムが提供されることを期待したい。■
(La Caprese 編集部)