2023年12月18日、武蔵野大学と明治薬科大学および帝京大学の研究グループは、水虫の原因真菌である白癬菌(はくせんきん)のTrCla4タンパク質が菌の細胞を形づくるアクチンの動体を制御することを初めて解明したと発表した。さらにTrCla4阻害剤が白癬菌の菌糸成長を抑制し、感染実験においてモデル動物の感染死を延命する効果を確認した。
研究グループは、本研究成果について、国際連合が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、「3.すべての人に健康と福祉を」に貢献するものとしている。なお、本研究成果は世界最大の生命科学系学会の一つである米国微生物学会(American Society for Microbiology: ASM)が出版するMicrobiology Spectrum誌のVolume 11 ・ Number 6 ・ December 2023にて掲載された。
以下は、本研究の概要である。
SDGsの「すべての人に健康と福祉を」に貢献
白癬(水虫)は、カビが原因で起こる最も身近な感染症の一つで、日本国内における足白癬の罹患率は21.6%と推計されている(※1)。日本の人口が1億2,000万人であることから罹患者数は2,500万人以上に上ると推測され、まさに国民病ともいえる状況である。超高齢社会の進展に伴い、罹患者数はさらに増加することが予測され、この疾患の克服が望まれている。かゆみや発赤、爪の変形や変色などの主要な症状の他にも、喘息などのアレルギー症状を悪化させることも指摘されており、感染により患者の生活の質(QOL)が著しく低下する。
現在、臨床で使用されている白癬の治療薬(抗真菌薬)は、真菌の増殖に必須なステロール合成経路を標的としている。しかしながら、近年ではこのような作用を有する治療薬に対する薬剤耐性菌の存在が多数報告されており、新たな治療法の開発が求められている。
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白癬菌アクチンの高次構造構築及び菌糸成長に必須の分子TrCla4を同定
本研究では、まず細胞の形態形成に関与するアクチンの動態を制御することが知られているp21-activated kinase(PAK)の機能を白癬菌で調べるために、遺伝子組換えの技術を用いて、白癬菌のPAKの一つであるTrCla4を欠損させた変異株を作出した。野生株(遺伝子組換えをしていない元の菌株)と比べ、TrCla4欠損株では培地上(※2)における菌糸の成長が明確に抑制されていた(図1)。
さらに、野生株ではアクチンが菌糸の先端に局在するのに対し、TrCla4欠損株では菌糸先端へのアクチン局在性の低下が見られた(図2)。
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TrCla4阻害剤は、白癬菌が感染した動物に延命効果をもたらす
白癬菌のTrCla4タンパク質がもつキナーゼ活性を阻害する化合物を探索し、FRAX486およびIPA-3を同定した。白癬菌のカイコ感染モデル(※3)を用いてこれらの化合物の治療効果を評価し、TrCla4タンパク質阻害剤が白癬菌を感染させたカイコを延命させることが明らかになった(図3)。
上記の結果から、研究グループは白癬菌TrCla4タンパク質が白癬菌に対する新たな治療標的候補となり得るとの見解を示している。研究グループのさらなる成果が期待されるところである。■
(La Caprese 編集部)