2023年5月23日、東京証券取引所でニッスイの株価が一時649円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年1月13日の安値517円から4カ月ほどで25.5%の上昇である。
ニッスイは、主に水産事業や食品事業を展開する企業である。その源流は、1911年5月に山口県下関にて創業した「田村汽船漁業部」にまでさかのぼる。田村汽船漁業部は、その名が示す通りトロール漁業を収益の柱としていた。以来、漁業を起点とする多様な事業を展開してきた。1977年に米国とソ連(当時)の200海里体制への移行を契機に、ニッスイの漁労事業も衰退を余儀なくされたが、その後、漁業に代わる水産資源へのアクセス力強化とともに、水産資源を顧客価値に変えグローバルに展開するビジネスモデルを推進し、成長してきた。
後段で述べる通り、ニッスイが5月12日に発表した2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績は営業減益となったが、①2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想で、創業以来初の売上高8,000億円台達成とともに、営業増益となる見通しが示されたこと、②2024年3月期の年間配当を前期比2円増の20円に増配する方針を示したこと……などが刺激材料となった。
今回はニッスイの話題をお届けしよう。
ニッスイ、2023年3月期は営業減益
5月12日、ニッスイは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前期比10.7%増の7,681億8,100万円、本業の利益を示す営業利益は同9.6%減の244億8,800万円、経常利益は同14.2%減の277億7,600万円、純利益は同22.9%増の212億3,300万円となった。
同期は、水産事業が国内外の販売で堅調に推移したほか、国内養殖事業の改善傾向、北米加工事業のコスト削減等を背景に大幅な増益となった。一方、食品事業では国内外とも販売は堅調に推移したものの、原材料や円安を始めとしたコストアップの影響で減益となった。ファイン事業は、子会社の日水製薬の全株式を売却したことに加え、医薬原料の米国向け輸出の中断などがあり減収減益となった。
なお、純利益については、日水製薬の株式売却益24億200万円、政策保有株式の株式売却益19億3,800万円などを特別利益として計上した一方、Empresa de Desarrollo Pesquero de Chile S.A.(EMDEPES)の固定資産について減損損失18億1,000万円を特別損失として計上した結果、上記の通り前期比で22.9%増となった。
セグメント別の状況は以下の通りである。
水産事業が大幅な増収増益
水産事業のセグメントは、売上高が前期比14.1%増の3,283億3,500万円、営業利益は同46.0%増の185億7,900万円と大幅な増収増益となった。
漁撈事業は増収増益となった。日本では燃油価格上昇があったものの、かつお、いわしなどの漁獲や販売価格が堅調に推移し業績に寄与した。南米では、ほき、南だらの漁獲が低調に推移したことや燃油価格上昇などもあり減益となった。
養殖事業は増収増益となった。日本では、昨年の稚魚(もじゃこ)不漁により市場全体の養殖ぶりの供給が少ない中、完全養殖ぶりの強みを活かし安定供給を行なった。また、銀鮭の養殖場拡大による販売数量増に加え、グループの漁撈会社と連携した畜養大型まぐろの強化、養殖会社間で飼料の共同購入や重複するオペレーションの見直しなどを進め収益改善に努めた。南米では、銀鮭の生残率改善に加え販売価格上昇もあり、生簀繰りによる生産数量の減少や飼料などのコスト上昇をカバーし増収増益となった。
加工・商事事業も増収増益となった。日本では、主力の鮭鱒のみならず、各魚種も総じて販売価格が堅調に推移したことが業績に寄与した。北米は、すけそうだらの漁獲枠減少の影響があったものの、販売価格の上昇で増収となったほか、前期の固定資産減損による償却費負担や新型コロナ対策費用の減少もあり増益となった。欧州では、年後半に経済環境の悪化を受け水産物市況に影響が出始めたものの、年間を通しては外食やクルーズ船向けの販売が堅調に推移し増収増益となった。
食品事業、原燃料などコスト上昇が利益を圧迫
食品事業のセグメントは、売上高が前期比16.3%増の3,820億4,800万円、営業利益は同25.8%減の114億2,600万円と増収減益となった。
加工事業は増収減益となった。日本では、健康意識の高まりに対応し、良質なたんぱく質が含まれる「速筋タンパク」商品の拡売に努めた。また、人流回復の効果で業務用食品の外食・量販店惣菜向け商品の販売が堅調に推移した。一方、家庭用食品・業務用食品ともに値上げ効果もあり増収となったものの、原材料やエネルギーコストに加え急激な円安といったコスト上昇に値上げが追いつかず大幅な減益となった。北米では、家庭用食品が値上げ後も販売数量を維持し堅調に推移した。業務用食品は昨年にあったクイックサービスレストラン向けの商品導入がかなわず苦戦したうえ、値上げを実施したものの原材料や人件費などのコスト上昇が先行し減益となった。欧州では、英国で改善がみられたことに加え、スペインなどへエリア拡大を進めたことにより販売が堅調に推移した。しかし、電気・ガス代などエネルギーコストの急激な上昇に値上げが追いつかず減益となった。
チルド事業も増収減益となった。同期は行動制限がなくなり、人流にも回復傾向がみられたことから、コンビニエンスストア向けおにぎりの販売が増加するなどベンダー事業は好調に推移した。しかし、その一方で、今年度からスタートしたキューディッシュ事業の償却費負担に加え、立ち上げ時のトラブルもあり減益となった。
ファイン事業、営業利益が57.4%減
ファイン事業のセグメントは、売上高が前期比26.3%減の251億1,600万円、営業利益は同57.4%減の17億2,500万円と大幅な減収減益となった。
同期は、2022年9月に子会社の日水製薬の全株式を売却したことに加え、医薬原料の米国向け輸出の中断、巣ごもり需要の減速(反動減)により健康食品向けEPA・DHA原料の販売や通信販売の減少などがマイナスに作用した。
物流事業は減収減益
物流事業のセグメントは、売上高が前期比1.8%減の154億8,800万円、営業利益は同21.9%減の15億9,400万円と減収減益となった。
同期は、輸出入の増加により通関事業は堅調に推移したものの、国内貨物の荷動きが低調に推移し入出庫料収入が減少した。また、電力料や人件費のコストアップに対応して、保管料の値上げを進めたものの、値上げ浸透に時間を要し減益となった。
今期は創業以来初の8,000億円台へ
5月12日、ニッスイは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比4.1%増の8,000億円、本業の利益を示す営業利益で同10.3%増の270億円、経常利益で同4.4%増の290億円、純利益で同1.3%増の215億円と増収増益となる見通しを示した。見立て通りとなれば、売上高は創業以来初の8,000億円台を達成することとなる。
ニッスイは2024年3月期の経営環境について、引き続きロシアによるウクライナ侵攻の影響が残る中、他のエリアにおける地政学リスクの高まりに加え、金融政策変更の影響による米国銀行の破綻など金融不安懸念もあり非常に難しい情勢との認識を示した。地域別では、国内は社会経済活動の回復やインバウンド需要への期待がある一方、光熱費や人件費の上昇などマイナス要因も継続するほか、海外においても高インフレに伴う景気減速が懸念されるなど不透明な状況としている。
こうした中、ニッスイは2022年度よりスタートした中期経営計画「GOOD FOODS Recipe1(2022年度〜2024年度)」の達成に向け、欧米を中心としたグローバル展開を急ぐとともに、養殖事業の安定と拡大、資源アクセスの強化、速筋タンパク・減塩などをキーとした健康領域商品の拡大を進める方針を示した。また、2023年7月には子会社の日本クッカリーと三菱商事の子会社であるグルメデリカを共同株式移転により経営統合し、両社の完全親会社となるNC・GDホールディングスが設立される予定である。この統合により、ニッスイと三菱商事、ローソンの3社でノウハウ共有や生産体制の最適化、商品開発体制の強化、コストダウンにとどまらず、チルド事業と冷凍食品事業の特性を活かした新しいカテゴリー(冷凍弁当・冷凍惣菜)の開発・製造を進めるとともに、ニッスイの国内食品事業の拡大、収益性の改善につなげる方針である。
なお、冒頭で述べた通り、ニッスイは2024年3月期の年間配当を前期比2円増の20円に増配する方針を示した。
引き続き、ニッスイの業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)