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エッセイ:J.フロントリテイリング、業績が改善される見通しなのに株価が下落したのはなぜか?

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(画像= 78design / 写真AC、La Caprese)

「Buy the rumor, sell the fact (噂で買って事実で売れ)」という相場格言がある。2022年9月28日のJ.フロント リテイリング <3086> の株価は、文字通りこの相場格言を想起させるような展開だった。

前日の9月27日、J・フロントリテイリングは大引け後に業績修正(国際会計基準=IFRS)を発表した。同社は2023年2月期(通期)の連結純利益が前期比3.7倍の160億円になる見通しを示した。これは従来予想(115億円)を39.1%上回る大幅な上方修正だ。さらに同社は上期(3〜8月期)の連結最終損益も100億円の黒字と従来予想(60億円の黒字)から66.7%上方修正すると発表した。

ところが、大幅な業績の上方修正にもかかわらず、9月28日のJ.フロントリテイリング株は急落した。一時は前日比で6.7%安の1,114円まで売られる場面もみられた。理由は前述の通り、「噂で買って、事実で売られた」ためとみられている。

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マーケットは「インバウンド復活」を織り込み済み?

J.フロントリテイリングは、大丸松坂屋百貨店やパルコなどを傘下に持つ持株会社である。2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大で、J.フロントリテイリングは厳しい経営を強いられてきた。そうした中、日本政府は水際対策で9月7日から、1日当たりの入国者数の上限を2万人から5万人に引き上げるとともに、すべての入国者に求めていた陰性証明書を「3回目のワクチン接種」を条件に免除することが明らかになった。

岸田文雄総理大臣は9月7日の記者会見で「G7(主要7か国)並みの円滑な入国が可能となるよう、内外の感染状況やニーズ、また世界各国の水際対策を勘案しながら、さらに緩和を進めていきたい」と、今後さらなる入国者数の上限引き上げや、外国人の受け入れ条件の緩和を検討する考えを示した。

日本政府の水際対策の緩和は、J.フロントリテイリングにとって朗報である。株式市場ではインバウンド(訪日外国人観光客)の復活への「期待(噂)」からJ.フロントリテイリングの投資人気が高まり、9月12日には一時1,246円まで買われ、年初来の高値を更新する場面もみられた。今年3月9日に記録した年初来安値の867円から約6カ月で43.7%の上昇であった。

9月27日にJ・フロントリテイリングが発表した業績の大幅な上方修正にもかかわらず、株価が急落したのは、すでにマーケットは水際対策の緩和が明らかになった時点で、業績への期待を織り込んでいたためとみられる。その結果、冒頭で紹介した「Buy the rumor, sell the fact (噂で買って事実で売れ)」という相場格言を想起させるような展開になったと考えられる。

相場は「理屈通りに動かない」場面も珍しくない

ちなみに、上記の相場格言と「逆パターン」の展開もある。

たとえば、ライオン <4912> だ。今年8月8日、ライオンが発表した2022 年 12 月期・第 2 四半期まで(2022 年 1 月 1 日~2022 年 6 月 30 日)の連結業績は、売上高が前年同期に比べ6.9%増の1,851億9,500万円、事業利益は同35.2%減90億9,600万円、営業利益は0.6%増の142億6,700万円、純利益は2.2%増の110億5,500万円となった。

翌8月9日のライオン株は終値ベースで前日比5.0%高の1,572円に急伸した。事業利益が大幅に減少しているにもかかわらず、ライオン株が急伸したのは「思ったほど悪くなかった」ためとみられる。確かに事業利益は35.2%減少したが、それでも事前の会社予想を19.7%(14億9,000万円)上回った。同じく、営業利益も16.0%、純利益は22.8%それぞれ事前の会社予想を上回るなど改善傾向が顕著となった。

新型コロナウイルス禍やウクライナ情勢の深刻化、さらには資源価格の高騰や為替変動を背景とした原材料等のコスト上昇といった厳しい環境下での業績改善は、むしろ投資家に評価された様子である。換言すれば「噂で売られ、事実で買われる」展開であったとみることができる。

相場というものは「理屈通りに動かない」場面も珍しくない。これは株式投資に限った話ではなく、あらゆるマーケットでいえることである。マーケットにはさまざまな「人間」が参加している。「人間」である以上、「人間の心理」が相場を動かす側面もある。そこにはさまざまな「思惑」が内包されている。

投資初心者は戸惑うことも多いと思うが、相場というものは時に「理屈通りに動かない」場面があるということを心の片隅に留め、冷静に対処するように心がけたい。■

(La Caprese 編集長 Yukio)

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