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キヤノン、純利益は22.7%増。未定だった配当実施へ、株価は年初来高値

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(画像= Canva、La Caprese)

2023年5月9日、東京証券取引所でキヤノンの株価が一時3,265円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年1月16日の安値2,754円から4カ月足らずで18.6%の上昇である。

キヤノンは、1937年設立の大手精密機器メーカーである。カメラやビデオ等の映像機器や、プリンタや複写機をはじめとする事務機器、半導体やディスプレイ等の製造装置(露光装置、蒸着装置)などさまざまな精密機器の製造を手がけている。ちなみに、社名のカタカナ表記は「キヤノン」とヤの字が大きいのが正解で、小字を用いた「キャノン」は間違いである。キヤノンの公式サイトでは、その理由について、小字の「キャノン」では「ャ」の上に空白が出来てしまい、穴が空いたように感じてしまうので、それを避けるためとしている。全体の見た目の文字のバランスを考え、きれいに見えるようにヤの字が大きい「キヤノン」にしたという。たくさんの小さな部品によってズレがなく構築された精度の高い機械(=精密機器)を製造する企業のこだわりは、社名の表記にも垣間見られるようである。

後段で述べる通り、キヤノンが4月26日に公表した①2023年12月期・第1四半期(2023年1月1日~2023年3月31日)の連結業績が大幅な増収増益となったことに加え、②通期の連結業績予想を上方修正したこと、③さらに、それまで未定としていた2023年12月期の上期配当を60円、下期配当も60円それぞれ実施する方針を示したこと(年間配当で120円)などが追い風となったようだ。

今回はキヤノンの話題をお届けしよう。

キヤノン、純利益は22.7%増。部品不足などが解消に向かう

4月26日、キヤノンが公表した2023年12月期・第1四半期(2023年1月1日~2023年3月31日)の連結業績は、売上高が前年同期比10.4%増の9,711億円、本業の利益を示す営業利益は同10.9%増の845億円、税引前四半期純利益は同29.3%増の875億円、純利益は同22.7%増の564億円となった。

同期は、ビジネスの制約要因となっていた部品不足や物流ひっ迫による供給不安が解消に向かったことで、大幅な増収増益となった。製品別では、オフィス向け複合機が堅調に推移する一方で、インクジェットプリンターは在宅需要の一巡、レーザープリンターは企業の投資抑制により伸び悩んだ。カメラ市場は、ミラーレスカメラを中心に底堅く推移した。医療機器は、一部の地域で昨年までのコロナ需要の反動があり、市場が縮小しているものの、近年停滞していた大型機器への投資に回復の兆しが見えてきた。半導体製造装置市場は、メモリ向けの需要は弱含んだものの、パワーデバイス、アナログデバイス、センサー向けなどを中心に投資が堅調に推移した。FPD製造装置市場は、パネルメーカーの投資延期による影響で縮小した。

なお、セグメント別の状況は以下の通りである。

プリンティングビジネスユニット:インクジェットプリンターは在宅需要が一巡

プリンティングビジネスユニットの売上高は前年同期比10.0%増の5,582億円、税引前四半期純利益は同4.2%減の531億円となった。

同期は、オフィス向け複合機がそれまでの供給不足から回復が進んだことに加え、iR-ADV DX C5800 シリーズが好評を博したこともプラス要因となって販売台数が大きく増加した。一方で、インクジェットプリンターは、在宅需要の一巡により販売台数は前年同期を下回った。レーザープリンターも企業の投資抑制により前年同期を下回った。プロダクション市場向け機器は、オンデマンドプリンターであるimagePRESS V900/V1000シリーズが好調で、販売台数は前年同期を上回った。

イメージングビジネスユニット:税引前四半期純利益が173.1%増

イメージングビジネスユニットの売上高は前年同期比22.4%増の1,924億円、税引前四半期純利益は同173.1%増の375億円となった。

レンズ交換式デジタルカメラはミラーレスカメラへのシフトに伴い、一眼レフカメラの販売台数が減少したものの、昨年発売したフルサイズミラーレスカメラのEOS R6 MarkⅡやAPS-Cサイズミラーレスカメラの新製品である EOS R7とEOS R10が好評を博した。レンズは全体の販売台数が前年同期を下回る中で、RFレンズが好調に推移した。ネットワークカメラは、製品の供給量が回復したことに加え、用途の多様化を背景に販売活動を強化し、大幅な増収となった。また、業務用ビデオカメラの販売も堅調に推移し、制作の効率化や省人化ニーズに応えるIPリモートカメラ事業も順調に販売を伸ばした。

メディカルビジネスユニット:欧州地域での販売が好調

メディカルビジネスユニットの売上高は前年同期比10.9%増の1,311億円、税引前四半期純利益は同7.9%増の69億円となった。

同期のメディカルビジネスユニットは、主に欧州地域での販売が好調に推移した。米国では、金利上昇や医療スタッフ不足などに起因する医療機関の設備投資の先送りなどがあったものの、その他海外地域および国内向けと同様、対前年の売上を上回った。また、同期は材料費やエネルギーコスト、人件費の高騰など費用増加の影響があったものの、大型機器やサービスの売上拡大に伴い収益性が改善した。

インダストリアルビジネスユニット:FPD露光装置は伸び悩む

インダストリアルビジネスユニットの売上高は前年同期比9.4%減の621億円、税引前四半期純利益は同38.8%減の75億円となった。

同期は、半導体露光装置が引き続き幅広い分野において好調に推移し、販売台数を大きく伸ばした前年並みの水準となった。一方、FPD露光装置は、パネル市況悪化に伴うパネルメーカーの投資延期により、販売台数で前年同期を下回った。

キヤノン、通期予想を上方修正。未定だった配当も実施へ

4月26日、キヤノンは2023年12月期(2023年1月1日~2023年12月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比7.0%増の4兆3,130億円、本業の利益を示す営業利益で同7.5%増の3,800億円、税引前当期純利益で同16.3%増の4,100億円、純利益で同16.8%増の2,850億円となる見通しを示した。これは従来予想(2023年1月30日発表)から売上高でプラス0.6%、営業利益でプラス5.6%、税引前当期純利益でプラス5.1%、純利益でプラス5.6%の上方修正である。

キヤノンは、地政学的リスクの高まりやインフレの継続により世界経済の先行きは不透明とする一方で、新型コロナウイルスが落ち着いたことによる市場の正常化、米国に端を発した金融不安も当局の迅速な対応により安定化の兆しもあり、世界経済は回復基調を維持するとの見立てを示した。

そのうえで、オフィス向け複合機については、生産性の高いプリント機器へのニーズが引き続き高く、オフィスの中核デバイスとして底堅い需要の継続を想定。インクジェットプリンターは、新型コロナウイルス禍によって生まれた新たなホームユースの印刷需要は継続する見通しで、大容量インクタンクモデルの成長も見込まれる。このほか、レーザープリンターは前年並みで推移する見通しを示した。

一方、レンズ交換式デジタルカメラの需要は、高品質な映像表現へのニーズに後押しされ、引き続き堅調に推移する見通し。ネットワークカメラは、引き続きセキュリティ用途での成長が見込まれ、加えて映像解析ソリューションや高付加価値型製品の需要も高まっており、安定的な成長を継続すると予想している。さらに、ネット動画の普及による動画コンテンツの需要が高まる中、業務用映像制作機器の市場拡大を想定。医療機器については、不透明な状況はあるものの、新型コロナウイルス禍で控えられてきた大型機器への投資に回復の兆しが見えており、堅調に推移する見通しを示した。半導体露光装置は、メモリ市場は縮小しているが、パワーデバイス向けなどは底堅い推移を予想している。なお、半導体については、経済安全保障の観点から、各国で半導体工場の建設が進められており、旺盛な需要の継続が想定されるという。FPD露光装置については、パネルの市中在庫の解消など市況回復の兆しはあるが、パネルメーカーの投資延期による市場縮小は継続する見通しを示した。

なお、冒頭で述べた通り、キヤノンはそれまで未定としていた2023年12月期の上期配当を60円、下期配当も60円それぞれ実施する方針を示した。年間配当は120円となる。

引き続き、キヤノンの業績と株価を注視しておきたい。■

(La Caprese 編集部)

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