2023年4月17日、東京証券取引所でエービーシー・マート(以下、ABCマート)の株価が一時7,730円まで買われ、年初来の高値を更新した。2022年3月9日の安値4,470円から13カ月で72.9%の上昇である。
ABCマートは、日本国内および海外で靴や衣料品のチェーン店「ABCマート」を展開する企業である。ちなみに、ABCマートの店舗数は2023年2月期時点で1,457店舗(日本国内1,074店舗、海外383店舗)となっている。特筆されるのは、新型コロナウイルス禍でも店舗数を増やしていることだ。新型コロナ前の2019年2月期の店舗数は1,285店舗(日本国内987店舗、海外298店舗)であり、この4 年間で13.4%増加(日本国内8.8%%増、海外28.5%増)している。
後段で述べる通り、①4月12日発表の2023年2月期(2022年3月1日~2023年2月28日)の連結業績が大幅な増収増益となったことに加え②2024年2月期(2023年3月1日~2024年2月29日)の連結業績予想についても増収増益の見通しが示されたこと③2023年3月の既存店売上高も13カ月連続で前年実績を上回ったことなどが株価にも刺激材料となった。
今回はABCマートの話題をお届けしよう。
ABCマート、2023年2月期は大幅な増収増益
4月12日、ABCマートは2023年2月期(2022年3月1日~2023年2月28日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前期比18.9%増の2,900億7,700万円、本業の利益を示す営業利益は同54.1%増の423億100万円、経常利益は同53.4%増の433億6,000万円、純利益は同74.1%増の302億5,600万円と大幅な増収増益となった。
同期のシューズ業界は、新型コロナウイルス禍の行動制限緩和もあって、新作スニーカーを中心としたスポーツ系カジュアルに加え、旅行やレジャーなどアウトドア系ファッションの需要が拡大した。このような状況下、ABCマートはデジタルコマースの活用、グランドステージと複合業態店舗の拡大、スポーツシューズやスポーツアパレルを含めたライフスタイルカジュアルの拡充に対応し、店舗数を増やした。店舗数は1,457店舗となり、日本国内および海外の合計で88店舗の新規出店を行った。
なお、セグメント別の状況は以下の通りである。
国内:オンラインと実店舗の相互送客を実現
国内のセグメントは、売上高で前期比16.6%増の1,979億8,100万円、セグメント利益は同38.4%増の350億200万円と大幅な増収増益となった。
同期は実店舗の売上が拡大する中、デジタル広告やスマートフォン向けアプリの抽選機能を活用した施策等により、オンラインと実店舗の相互送客を実現し、トレンドアイテムを中心に実店舗への訴求効果を高める販売促進を実施した。これらトレンドアイテムの販売とセールアイテムの絞り込みにより、客単価の改善を図る販売戦略を推進した。また、商品展開においては、著名アーティストとのコラボレーション企画による新作スニーカーやアウトドア向けシューズ、レディースカジュアルシューズ、アパレルの販売に注力した。レジャーや旅行による需要が増したことも追い風となって、レザーカジュアルシューズやレディースシューズの販売も好調だった。
店舗展開については、郊外のショッピングセンターを中心に47店舗の新規出店を行った。施設の閉館に伴う閉店とスクラップアンドビルドの促進により、26店舗閉店し、期末の国内店舗数は1,074店舗となった。また、既存店については、増床改装を中心に53店舗の改装(うち33店舗は増床改装、29店舗は業態変更)を実施し、都市型旗艦店「GRAND STAGE」への業態変更と、「ABC-MART」や「ABC-MART SPORTS」など複数のバナーを一箇所に集めた複合業態店舗の出店拡大を積極的に進めた。これらの結果、2023年2月期末時点の「GRAND STAGE」は67店舗(複合業態含む)、複合業態店舗は82店舗となった。
国内店舗の通期の売上高増収率(通販含む)は、全店で前期比17.2%増、既存店で前期比14.0%増となった。下期以降、3年ぶりの行動規制の解除により市況が活発になり、またインバウンド需要が増してきたことから、売上が大きく伸長した。新作スニーカーや高単価のブーツ類を中心にプロパー販売が好調だったことから、客単価も上昇し、売上のさらなる増加に寄与した。一方、オンライン販売も、デジタル売上高(実店舗におけるEC在庫の販売分を含む)が前期比13.4%増と好調だった。
海外:セグメント利益は242.0%増
海外のセグメントは、売上高が前期比24.3%増の932億5,100万円、セグメント利益は同242.0%増の72億2,400万円と大幅な増収増益となった。
同期は韓国に32店舗、台湾に8店舗、東南アジアで初の進出となったベトナムに1店舗の計41店舗の新規出店を行った。その結果、店舗数は韓国308店舗、台湾67店舗、米国7店舗、ベトナム1店舗の計383店舗(閉店 韓国9店舗、台湾3店舗)となった。
韓国では国内景気が回復基調で推移し、またインバウンド需要の増加により、売上高は前期比24.1%増の574億7,200万円となった。台湾でも業況が大きく改善し、売上高は前期比31.2%増の98億9,200万円となった。米国では、昨年夏よりサプライチェーンの物流停滞が解消され出荷が順調となったことから、売上高は前期比22.4%増の258億5,500万円となった。また、同期は為替レートがいずれの国の通貨に対しても円安水準で推移したことも、増収増益をもたらす要因となった。なお、海外連結子会社はいずれも12月決算である。
2024年2月期の戦略は「JAPAN LIMITEDの発信」
エービーシー・マートは、2024年2月期(2023年3月1日~2024年2月29日)の連結業績予想について、売上高で前期比7.4%増の3,115億円、本業の利益を示す営業利益で同4.0%増の440億円、経常利益は同3.6%増の449億円、純利益は同0.5%増の304億円となる見通しを示した。
エービーシー・マートは、2024年2月期の戦略について、「JAPAN LIMITEDの発信」をテーマに掲げて、①「日本でしか買えない商品」の充実を図り、インバウンド需要の取り込みを強化する②世界的な健康意識の高まりと旅行・レジャーやアウトドアなどの需要を見込み、スポーツやトレーニング系のシューズやアパレル、レザーカジュアルやレディースシューズなどのライフスタイルカジュアル商品、アウトドア用品や小物などシューズ以外の商品の充実と販売を強化する③トレンドアイテムに応じてデジタル広告を効果的に使い、オンラインと実店舗の相互送客を推進する④スマートフォンアプリでの在庫検索機能を活用して販売効率を高めるとともに、消費者への的確な商品提案や、店舗での待ち時間の短縮を徹底することで顧客満足度の向上を図る方針を示した。
出店戦略については、郊外のショッピングセンターを中心に国内50店舗の出店を計画。既存店では、引き続き『GRAND STAGE』の出店を拡大するとともに、売場面積の大きい店舗については複合業態へのリニューアルを進める。また、海外では韓国を中心におよそ30店舗程の出店を計画していることを明らかにした。
なお、エービーシー・マートが4月4日に公表した月次情報によると、2023年3月の既存店売上高は前年同月に比べて23.2%増を記録し、13カ月連続で前年実績を上回った。特に2022年8月以降は8カ月連続で2ケタの伸びを示すなど好調である。
引き続き、エービーシー・マートの業績や株価を注視しておきたい。■
(La Caprese 編集部)