2023年3月17日、東京株式市場でサンリオの株価が終値ベースで前日比16.7%高(ストップ高)の4,885円と急騰した。
サンリオは2月9日、キャラクターの知的財産権などを管理するライセンス事業で売上計上の時期を操作していた疑いがあることを発表した。それに伴い、事実関係の確認や原因を究明するため、公認会計士らで組織する特別調査委員会を立ち上げたことを明らかにした。さらに、その調査のため、2月14日に予定していた2023年3月期・第3四半期(2022年4月1日~2022年12月31日)の決算発表を延期することも明らかにした。株式市場にとっては文字通り「青天の霹靂」であった。サンリオ株は売りが売りを呼ぶ展開となって、2月16日には3,820円の安値を付けていた。
このような経緯を経て、先週3月16日に上記不祥事の再発防止策などと合わせて2023年3月期・第3四半期決算等が発表された。後段で述べる通り、業績等については(1)同期の売上高で前年同期比33.9%増、営業利益で同420.7%増と大幅な増収増益となった(2)2023年3月期(通期)の連結業績予想の大幅な上方修正(3)期末配当予想を15円から20円へ引き上げる……こと等を盛り込んだ内容となった。株式市場ではこれを好感し、3月17日にはストップ高の4,885円と急騰、2月16日の安値3,820円から1カ月間で27.9%の上昇率を記録した。
今回はサンリオの話題をお届けしよう。
サンリオ、営業利益は420.7%増の106億円
先週3月16日、サンリオは2023年3月期・第3四半期(2022年4月1日~2022年12月31日)の連結業績を発表した。同期の売上高は前年同期に比べて33.9%増加の516億円、本業の利益を示す営業利益は同420.7%増の106億円、経常利益は同346.6%増の110億円、純利益は東京国税局による更正処分に対する追徴税額13億円(加算税及び地方税等を含む)を受け、この内12億円を過年度法人税等として計上したことにより、前年同期比114.0%増の67億円となった。
セグメント別(地域別)の概況は以下の通りである。
日本、営業利益は506.8%増加
まず、日本の売上高は前年同期比27.0%増の378億円、営業利益は同506.8%増の78億円と大幅な増収増益となった。
日本では、物販事業において、店舗が行動制限なく全期間を通じて通常営業できたことに加え、秋以降の入国規制の緩和による外国人観光客の増加などもあって客数が大幅に増加した。また、『シナモロール』20周年キャンペーンなどのイベントや他社のキャラクターとのコラボレーション商品も人気を博し、売上高が大幅に伸長した。
一方、ライセンス事業でも複数のキャラクター展開、社内連携が奏功し、売上高が大幅に伸長した。テーマパーク事業も入園者数の大幅な増加に加えて、オリジナル商品も引き続き好調に推移し、売上高が大幅に伸長した。
欧州は売上好調だが、販売費や一般管理費が圧迫要因に
欧州の売上高は前年同期比4.7%増の12億円、営業損失1億円(前年同期比8,400万円の損失増加)となった。
欧州ではアパレル・食品カテゴリーにおけるライセンス事業が伸長した。アパレルカテゴリーでは、有名ブランドのコレクションが売上を順調に伸ばしたほか、食品カテゴリーも「ハローキティキャンディ」が継続して人気を集め、売上を牽引した。一方、デジタルカテゴリーでは、サンリオ初のNFTが発売され、話題を集めた。また、前期に50周年の特需で売上が伸長した『ミスターメンリトルミス』については、前期に及ばないものの出版・家庭用品カテゴリーにおいて好調に推移した。出版カテゴリーでは英国の主要ライセンシーより書籍が発売され、家庭用品カテゴリーでは韓国の新規ライセンシーが日用品などを展開した。
欧州では、上記の通り売上高が伸長したものの販売費および一般管理費が増加したことにより、営業損失となった。
北米が営業黒字に転換
北米の売上高は前年同期比96.6%増の42億円、営業利益は6億円(前年同期は営業損失3億円)と増収増益となった。
北米では、物販事業で自社ECが前年実績を大幅に上回るなど引き続き好調に推移した。特にぬいぐるみが売上を伸ばした。ライセンス事業は、アパレルや玩具、ヘルス&ビューティーカテゴリーが好調に推移した。アパレルカテゴリーでは、既存ライセンシーとの継続的な取り組みが売上実績につながるとともに、新規ファストファッションライセンシーの獲得により販路が拡大した。また、玩具カテゴリーもコラボレーション商品を含むぬいぐるみを中心とした商品展開により売上高が伸長した。ヘルス&ビューティーカテゴリーも新規ライセンシーによりキャラクター露出を高めるとともに、既存ライセンシーの取扱商品数の増加に伴い、売上高が増加した。
こうした状況下、営業損益は黒字に転換した。
南米ではライセンス事業が好調
南米の売上高は前年同期比37.6%増の3億円、営業利益は31.3%増の4,500万円と好調だった。
南米全体では、ヘルス&ビューティー、アパレルのカテゴリーのライセンス事業が好調に推移した。メキシコにおけるライセンス事業ではヘルス&ビューティーカテゴリーの生理用品の売上高が大幅に増加したほか、アパレルカテゴリーにおいても幼児から10代をターゲットとしたブランドや大手小売チェーンの売上高が引き続き好調に推移した。また、メキシコシティに2号店をオープンしたハローキティカフェも好調だった。ペルーでは文具の売上が好調だった。
アジアは大幅な増収増益
アジアの売上高は前年同期比53.8%増の79億円、営業利益は同71.4%増の32億円と大幅な増収増益となった。
香港・マカオ地区では、鉄道会社の路面電車装飾や現地アーティストとのコラボレーションアートイベントなどの企業特販カテゴリーのライセンス事業が売上を伸ばした。また、ヘルス&ビューティーカテゴリーのハンドクリーム・リップクリーム等ボディケア用品も人気を博すなど好調だった。一方、台湾では、上海のロックダウンの影響で商品開発が遅れたものの、インテリアカテゴリーのライセンス事業が好調に推移するとともに、グローバル展開しているゲームアプリとのコラボレーションにより、デジタルカテゴリーも売上を牽引した。
韓国では、複数キャラクターでの展開を拡大したことが功を奏した。特に流通を強化しているライセンシーの衛生商品や韓国大手芸能事務所所属のアイドルグループとのコラボレーションにより売上高が伸長したほか、サンリオブランドの価値向上にもつながった。
中国は、ロックダウンの影響を受けたものの、各カテゴリーで売上高が伸長した。旧物販事業会社の統合による経営のスリム化に加え、オンラインイベント期間の売上高の大幅な増加、マスターライセンシーから未払いであった契約期間内における最低保証金不足分の回収、ヘルス&ビューティーカテゴリーの好調継続、雑貨カテゴリーの現地有名ブランドとの取り組み拡大や既存ライセンシーにおける複数キャラクターでの商品展開、トイホビーカテゴリーのスポーツ関連アクセサリーやぬいぐるみの好調などが業績に寄与した。
なお、同期からサンリオとAvex Asia Pte. Ltd.との合弁会社SANRIO SOUTHEAST ASIA PTE.LTD.(以下、SSEA)が連結子会社となった。SSEAは、タイにおいてアパレルやバッグ、インドネシアにおいてはアクセサリーが売上を伸ばした。また、タイ最大のコンビニエンスストアとのコラボレーションにより、食品・雑貨のプライベートブランドの開発や店舗装飾など多角的なブランドプロモーションも展開した。
上場企業の不祥事は、株式投資の最大のリスク要因
サンリオは2023年3月期(2022年4月1日~2023年3月31日)の連結業績予想について、売上高で前期比33.8%増の706億円、本業の利益を示す営業利益で同408.3%増の129億円、経常利益で同309.8%増の136億円、純利益で同122.0%増の76億円となる見通しを示した。これは従来予想(2022 年 11 月4日公表)に比べて売上高でプラス13.3%、営業利益でプラス84.3%、経常利益でプラス76.6%、純利益で同90.0%の大幅な上方修正である。
サンリオは上方修正の理由について、海外および国内需要が計画を上回ったことや、中期経営計画に沿った構造改革の実行による売上原価率の低減等により、2023年3月期・第3四半期(2022年4月1日~2022年12月31日)の連結業績が通期の業績予想を上回る水準で着地したこと。また、第4四半期についても業績が一定程度安定的に推移することが見込まれることを挙げている。なお、サンリオは期末配当予想についても、15円から20円に増額することを明らかにした。
冒頭で述べた通り、サンリオの株価は2月に発覚した不祥事を受けて急落する場面も見られたが、今回の決算発表で業績そのものに大きな影響がなかったことが明らかになり、安堵している市場関係者も多いことだろう。上場企業の不祥事は、株式投資の最大のリスク要因の一つである。それだけに、サンリオには厳格な再発防止が求められるところである。■
(La Caprese 編集部)