2023年1月28日、クレア・ライフ・パートナーズ(本社:東京都新宿区)は、世界のウイスキーカスク投資に関する調査リポート(ウイスキー投資市場開設リポート)を公表した。
カスクとは、ウイスキーの熟成に使う木製の樽のことで、日本語では熟成樽と呼ばれることもある。本調査リポートに掲載している世界のウイスキーカスク投資に関するデータは、エジンバラを拠点としてスコットランド中の希少性の高い樽のオークションを主催する「Cask88」のアナリストが、データモデリングアルゴリズムを用いてまとめたものを採用している。クレア・ライフ・パートナーズによると、これらのデータは、投資家・ウイスキー愛好家がまったく新しい角度から、ウイスキーカスク投資市場を捉えるうえで有効であるとの見解を示している。
今回はクレア・ライフ・パートナーズの調査リポートを紹介したい。
投資商品としてのウイスキーカスクの特色
ウイスキーカスクは、多くの点でほかの有形資産と似通っている。しかし、美術品やボトルコレクションとは異なり、ウイスキーカスクの資産価値は経済状況だけでなく、熟成によって変化するという特徴がある。購入したカスクは樽の中で熟成され、熟成年数を重ねるごとに、より魅力的な商品へと変化する可能性を秘めている。
また、ウイスキーカスク市場では資産の出所それ自体が意味を持ち、さらに多くの要因によって、それぞれのカスクが一点物として扱われる。そのため、投資家にとっての最大の課題は、市場を正しく分析することであると考えられる。
(図1)に示す通り、他市場と比較すると、ウイスキーカスクは高いリターン率を得る可能性を秘めた投資商品であることが分かる。
ちなみに、投資対象となる希少なウイスキーの過去10年のリターン率の平均は540%である(図2)。このような状況下、近年はウイスキーカスクの投資商品としての価値は他の媒体でも多く取り上げられており、注目度も増している。
BC20の予想資本成長率は14.36%
BC20とは、異なる蒸溜所・種類から抽出された20のサンプルカスクの市場での価値の変動を表したもの。蒸溜所の選出は、地理・知名度の偏りがないよう、ニッチから有名どころまで幅広く行われている。これらの蒸留所はカスク取引量が多く、そこから得られた豊富なデータは、精密な市場予測につながっている。
BC20は、2021年末に14.36%の予想資本成長率を示した。BC20のサンプルカスクが熟成を経て、よりプレミアム化したと考えられる。
ウイスキーカスクの予想資本成長率は13.12%
一方、下記(図4)は24カ月分のデータ観測によるウイスキーカスクの予想資本成長率である。データはスコットランドの80以上の蒸留所、2,000以上のウイスキーカスクを対象としている。
上記(図4)の通り、カスク市場全体の平均予測成長率は13.12%である。ウイスキーカスク市場の安定性については、熟成が進むにつれ価値が増すという資本の性質もさることながら、グローバル経済の状況など対外的要因の影響を受けにくいという事実が大きく関係していると考えられる。前述(図3)の通り、BC20の成長率は14.36%でカスク市場全体(13.12%)を上回っており、適切にカスクを組み合わせることで、最終的なリターン率の上昇を見込むことも十分に可能といえる。
ウイスキーの価値は「蒸溜所の評判・質」によって決定する?
下記(図5)は、スコットランドの80以上(全蒸留所の65%以上)の蒸留所データ収集によるランキングである。このランキングは、ウイスキーの価値は地域性ではなく、蒸溜所の評判・質のみによって決定するという、近年の動向を踏まえた上での判断に基づいている。
上記の通り、ランキングの第1位は過去2年間で急激に業績を上げたブナハーブン蒸溜所である。ブナハーブンは姉妹蒸溜所でピーテッドウイスキーを生産するストイーシャ蒸溜所から1位の座を奪い、ストイーシャは5位へランクダウンした。第2位は僅差でハイランドパーク、第3位は不動の人気を誇るラフロイグ蒸溜所と続いた。
また、今回のランキングでは、スペイサイド地域に位置するモートラック蒸溜所が4位に躍り出た。モートラックは、ランキング内の全20蒸溜所のうち、リターンの伸び率が最大であった。
ウイスキーの価格は全体的に上昇傾向にあり、特に熟成年数の短いカスクが値上がりしている。これは、今後数カ月でランキングに新たな動きが現れる可能性を示唆している。
世界的な広がりを見せるウイスキーカスク市場
下記(図6)が示す通り、世界のカスクの売上の多くはヨーロッパに集中しており、全体の7割を超える。これに対してアジアでの取引は、世界全体の2割超となっている。歴史をさかのぼると、イギリス諸島内で限定的に始まったカスク投資であったが、今や世界中で人気を博しており、とりわけアジア市場においては、その人気が高まる傾向にある。
また、下記(図7)が示すように、ヨーロッパではイギリスが79.92%で最大の市場規模を抱える一方、アジアでは中国が48.14%と同地域で最大のマーケットシェアを占めている。このデータは世界のどの場所で、どの程度カスクが取引されているかに関する有益な指針を示唆している。今後数年間で、これらの数値がどのように推移していくのか目が離せない。
近年は、より若いカスク並びにニューメイクに投資が集中する傾向
上記(図8)は、熟成年数別に見たウイスキーカスクの平均年間資本成長率である。たとえば、ニューメイク(新しく樽詰めされたカスク)を購入した場合、過去のデータでは価格上昇率は最初の3年間で1年あたり平均約33%(2021年)に上ることが示されている。一方、すでにプライム化した熟成樽の場合、初期投資は高額になるものの、純粋な貨幣価値では毎年リターンを生み出す傾向にある。長期熟成のカスクは年々ボトリングによって在庫量が減少する一方、需要は段々と高まっていく傾向にある。そのため、希少性も年々高まる傾向にある。
ちなみに、近年はより若いカスク並びにニューメイクに投資が集中する傾向が見られる。新規で市場に参入し、ポートフォリオの多様化を狙う投資家たちにとって、ポテンシャルを秘めた若いカスクは魅力的なのだと思われる。
今回の調査で注目したいのは、BC20の目覚ましい成長である。この著しい成長には、グローバル経済の状況が大きく関係していると考えられる。高まる経済の先行き不透明感と、安全な有形資産を求める動きには、強い相関関係が指摘されており、ウイスキーカスク市場に有利に働いていると見られる。■