2022年9月20日、丸亀製麺など飲食店舗の開発と運営を行う企業グループの持株会社、トリドールホールディングス(以下、トリドール)の株価が一時3,125円まで買われ、年初来の高値を更新した。今年3月14日の年初来安値2,099円から約6カ月で48.9%の上昇である。
後段で詳述する通り、2023年3月期・第1四半期(2022年4月1日~2022年6月30日)決算の好調に加えて、9月の株主優待銘柄として注目されていることなどが背景にあるようだ。ちなみに、9月22日終値時点の年初来騰落率は日経平均株価のマイナス7.3%に対して、トリドールはプラス26.5%と大きくアウトパフォームしている。
今回はトリドールの話題をお届けしよう。
マーケティング戦略が功を奏し「ロケットスタート」
2022年8月12日、トリドールが公表した2023年3月期・第1四半期(2022年4月1日~2022年6月30日)連結業績は、売上高が前年同期に比べ17.1%増の438億1,600万円、事業利益は同44.9%増の28億4,600万円、本業の利益を示す営業利益は1.6%減の46億9,100万円、純利益は同21.5%増の36億2,200万円となった。
事業利益と純利益は新型コロナウイルスが感染拡大する前(コロナ前)の水準を上回り、第1四半期としては過去最高を記録した。また、営業利益は前年同期比で減少したものの、通期計画を上回る結果となった(通期計画に対する進捗率は117.3%)。
日本国内では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置等で行動規制が強かった前年同期と比較して移動量が大幅に増加し、主力の丸亀製麺事業でイートインが大きく回復したほか、テイクアウトも堅調に推移した。海外でもロックダウンの解除など行動規制の緩和が進んだことにより、増収となった。特に丸亀製麺については(1)季節に合った人気のフェア商品を投入(2)新作を発売し新規顧客とリピーターを獲得(3)新ブランドキャンペーンでブランディング強化――といったマーケティング戦略が功を奏し、「ロケットスタート」に大きく寄与した。
TOKIO 松岡昌宏氏と共同開発した商品が大ヒット
セグメント別では主力の「丸亀製麺」の売上高が前年同期に比べ7.7%増の252億8,900万円、事業利益は同27.9%増の30億1,300万円と好調だった。先に述べた通り、行動規制が強かった前年同期と比較して国内の移動量が回復基調で推移したことに加え、マーケティング戦略の成功でロケットスタートを後押しした。
たとえば、マーケティング戦略の一つとして「うどんで、あなたを驚かせたい。」をテーマに全店舗で小麦粉からつくる、打ち立て、茹でたてのうどんの価値を訴求するブランドキャンペーンを展開した。
また、フェア商品については、アイドルグループ・TOKIOのメンバーで俳優・タレント等でも活躍する松岡昌宏氏と昨年共同開発し、4月26日から50日間限定で復活した「トマたまカレーうどん」と、新作の「とろける4種のチーズトマたまカレーうどん」が約242万食を突破する大ヒットとなった。続いて投入した新作の「鬼おろし鶏からぶっかけうどん」「鬼おろし豚しゃぶぶっかけうどん」も新規顧客やリピーターの増加を促し、新テレビCMやデジタル広告等の効果もあって、発売から2週間で135万食を超える大ヒットを記録している。
さらに同期は「イートインとテイクアウトの両立」をテーマに掲げ、ロードサイド店舗においてテイクアウト専用窓口の設置を進めたほか、イートインとテイクアウトの動線を明確に分けることでよりスピーディな商品提供が可能になったことも増収効果をもたらしたとみられている。
海外事業セグメントは増収減益
他方、「海外事業セグメント」は売上高が前年同期比35.0%増の126億9,500万円、事業利益は同21.6%減の4億500万円となった。
第1四半期の海外事業セグメントは、香港を拠点とする「Tam Jai」がアジアで20店舗出店し、大幅な増収となった。また、米国では「Marugame Udon」のハワイ店が観光客増加を背景に好調を維持し、3月にオープンした新店舗も順調に推移した。一方、台湾では新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたものの、行動規制の緩和に伴い6月から徐々に商況が改善に向かった。
ただ、利益面においては「Tam Jai」の海外出店に伴うマーケティング費用や人件費等の先行投資が増加したこと、新型コロナウイルス感染防止のための行動規制の強化で一時的に経営効率が低下したエリアがあったことなどから、事業利益は減少した。
その他セグメントの事業利益も急増する
「その他セグメント(国内を拠点に展開する、丸亀製麺・海外事業に含まれない業態)」は、売上高が前年同期比28.6%増の58億3,200万円、事業利益は同94倍の7億4,700万円と大幅な増益を記録した。
第1四半期のその他セグメントは、「らー麺ずんどう屋」や居酒屋業態の「晩杯屋」「とりどーる」が緊急事態宣言やまん延防止等重点措置により休業・時短営業を余儀なくされた前年同期と比較して、客数が大きく増加した。また、「いちばん近いハワイの食卓」をコンセプトとする「コナズ珈琲」においても、期間限定メニューの開発やハワイアンフラダンスのショーを開催するなどのブランディング効果もあって、客数が増加した。
「9月の株主優待銘柄」としても注目
トリドールは業績の好調もさることながら、「9月の株主優待銘柄」としても注目されているようだ。
ちなみに、今週9月28日時点の株主に対して、以下の株主優待が実施される予定である。
・100株以上200株未満……優待券3,000円相当(100円×30枚)
・200株以上1,000株未満……優待券4,000円相当(100円×40枚)
・1,000株以上2,000株未満……優待券10,000円相当(100円×100枚)
・2,000株以上……優待券15,000円相当(100円×150枚)
なお、200株以上を1年以上継続保有した株主については、優待券3,000円相当(100円×30枚)が追加される予定である。引き続きトリドールの業績、株価に注目しておきたい。■
(経済ジャーナリスト 世田谷一郎)