2022年12月20日、総合毛髪関連企業のアデランス(本社:東京都新宿区)は毛髪のプロテオーム解析(※)技術を用いて、男性型脱毛症および女性型脱毛症に特徴的なタンパク質(TGM3)を発見したことを明らかにした。加えて、脱毛症の毛幹において、(1)ケラチン抽出量が多かったこと、(2)毛髪形成に重要なTGM3が少なかったことを突き止めた。アデランスは今回の研究で得られた知見をもとに、今後は毛髪におけるさらなるTGM3の機能を追求し、ヘアケア商品に応用して脱毛症を改善するための研究を継続する方針である。
なお、本研究成果は2022年11月18日~21日にオーストラリアのメルボルンで開催された第12回世界毛髪研究会議『World Congress for Hair Research(WCHR2022)』にて発表した。
今回はアデランスの研究成果を紹介したい。
非脱毛症と脱毛症の毛幹を比較し、脱毛症のキーとなるタンパク質を探索
毛髪は、地肌から出ている部分を「毛幹」、地肌の中にある部分を「毛包」と呼ぶ。毛髪は「毛包」の先端にある毛乳頭から指令を受けた毛母細胞が分裂し、毛髪が変化(角化)することで作られる。毛乳頭が毛細血管から取り込んだ栄養や多様な細胞内の成分は、角化とともに固定化されていき、毛髪に長期間残存する。この毛髪の構成成分は80%以上がケラチンというタンパク質とされているが、ケラチン以外のタンパク質に関しての詳細は明らかになっていないのが実情であった。
アデランスは、これまで毛髪中に含まれるミネラルやアミノ酸などの多種多様な成分を正確かつ効率よく抽出し分析する技術の開発を進めてきた。この技術に加え、近年、発達が目まぐるしいディープラーニングを掛け合わせることで、毛髪に含まれる莫大なタンパク質を検出する方法「毛髪プロテオーム解析」を確立した。このプロテオーム解析は、他の研究チームの約10倍ものタンパク質の数を同定することができ、毛髪中のタンパク質の解明に有効である。
研究方法は、非脱毛症の男性5名、男性型脱毛症5名、女性型脱毛症4名を対象に、各被験者の頭頂部と後頭部からAnagenの毛幹を採取し、これらの毛髪検体のプロテオーム解析を実施した。取得データを用いて、非脱毛症と脱毛症の毛幹を比較し、脱毛症のキーとなるタンパク質を探索した。
研究成果は以下の通り。
脱毛症の毛幹において、ケラチン抽出量が多かった
脱毛症の毛幹は、非脱毛症より多くのケラチンを抽出することを確認した(図1)。ケラチンがより多く抽出されたということは、ケラチン同士の結合が弱いということを示している。ケラチン同士の結合は、毛髪に硬さを与える一つの要素として知られていることから、脱毛症は非脱毛症と比較し、毛髪自体もろくなっていることが示唆された。
脱毛症の毛幹において、毛髪形成に重要なタンパク質TGM3が少なかった
脱毛症の毛幹において、TGM3というタンパク質が少なかったことを確認した(図2)。TGM3に関する既報文献は数少ないものの、TGM3がまったく存在しないマウスの毛がくせ毛になりうねりが観察されたとの報告 (John S ら、2012) がある。脱毛症のAnagenの毛幹とうねりの因果関係については追加解析を実施中である。
アデランスによると、男性型脱毛症の治療薬は複数存在するものの「効果に個人差がある」ことに加え、副作用が生じるなどの課題があるという。また、女性型脱毛症では、その具体的な発生メカニズムが明らかになっておらず、有効な治療法の開発が進んでいないのが現状だという。アデランスは、創業50年以上にわたり培ってきた毛髪技術を応用し、男性型脱毛症および女性型脱毛症で悩んでいる人が満足できるソリューションの提供を目指し、これらの課題の解決に取り組む方針である。
引き続き、アデランスの研究成果に注目したい。■
(La Caprese 編集部)